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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2024年1月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第298話

月の砂漠のかぐや姫 第298話

「いた・・・・・・」
 羽磋の口から、小さな声が漏れ出ました。
 ずっと彼は必死になって、濃青色の球体の姿を探していました。ですから、ようやくそれを見つけることができて、もっと大きく喜びを表しても良さそうなところです。でも、身をギュッと固くしてしまった彼の口からは、それ以上の言葉は出てきませんでした。
 羽磋が身構えてしまったのは、再び地下世界の空間に現れた濃青色の球体の姿が、これまでのものと全く

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月の砂漠のかぐや姫 第297話

月の砂漠のかぐや姫 第297話

 あまりにも理亜の行動が理解できないので、王柔は「そもそも、球体の中で自分の見たことは、夢だったのではないか」とすら思い始めているようです。でも、羽磋は王柔に対してしっかりと頷いて、自分も理亜が自分たちでなく母親を守るよう行動したのを見たと伝えました。
 羽磋にとっても王柔のいまの言葉は、自分が球体の内部で見聞きしたことが彼一人の体験やそれこそ夢などではなくて現実であったことを、確信させてくれるも

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月の砂漠のかぐや姫 第296話

月の砂漠のかぐや姫 第296話

 理亜の言葉で、いまでも彼女が自分を好きでいてくれていることを確認できて安心した王柔は、激しく感情を昂らせた反動もあってか、彼女の身体に手を回したままで少し気を緩めていました。そこへ飛んできたのが、思いがけないほど厳しい羽磋の声でしたから、王柔は仕事中に居眠りをしていたところを揺り起こされた子供のように、理亜の身体からすぐさま手を離すと、背筋をピンッと伸ばしました。
「す、すみませんっ、羽磋殿。あ

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