2023年9月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第286話
王柔と羽磋が丘の上に登ってきたのは、その時でした。斜面を駆け上がってきた王柔は、赤髪の少女に向かって走り寄りました。
「母を待つ少女」の母親にとっては、この二人の男は全く知らぬ存在です。少なくとも、自分の娘の周りにはこのような男たちがいたことはありませんでした。母親は激風を巻き起こすと、少女に走り寄る男を吹き飛ばしました。すると、どうしたことでしょうか。先ほどまで、自分に対して「お母さん」と呼
月の砂漠のかぐや姫 第285話
王柔の声に先に反応したのは、羽磋ではなく母親の方でした。
「母を待つ少女」の母親は、羽磋を見下ろしていた顔を上げて声が飛んできた方に向けました。母親の目に入ってきたのは、長身の王柔が両腕を肩から回して抱きしめている小柄な少女、先ほどまで自分を「お母さん」と呼んでいたのにこの男の方へと走り去ってしまった少女の姿でした。
「そうだ、お前だ。お前だっ!」
間に立っていた羽磋から眼を離して、再び理亜
月の砂漠のかぐや姫 第284話
強い風に逆らって進む時のように身体を少し前に傾けながら、羽磋は母親に向かって進みました。母親の方も、大きくて重い身体を持て余すようにしながらもゆっくりと進んで来ていますから、彼らの間にあった空間は見る見るうちに少なくなっていきました。
この時、彼は心の中でこう念じていました。そして、小刀の柄を握る右手に、さらに力を込めていました。まるで、この厳しい状況の中でも、そうすることで大事な気持ちを忘れ
月の砂漠のかぐや姫 第283話
「王柔殿、理亜を頼みます」
羽磋は理亜の背中を押して王柔に預けると、「母を待つ少女」の母親に向き直りました。改めて正面から見ると、横から眺めていた時よりも、母親の姿がとても大きく感じられました。大人を数人も重ねたような大きさにまで膨らんだその身体が、自分の上に覆いかぶさってくるように感じられます。そして、高い位置から見下ろされる母親の視線が、自分の身体を貫き通して理亜や王柔にまで突き刺さっていく