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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2022年6月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第233話

月の砂漠のかぐや姫 第233話

 じっくりと噛みしめてから飲み込むようにはしたものの元々の量が少ないものですから、あっという間に食事の時間は終わってしまいました。
 洞窟は常に川の水が放つ青い光に照らされていて夜も昼もありませんから、これから再び奥へ進もうと思えば進むことはできます。でも、すいぶんと長い間歩きどおしだった上にあの駱駝の大騒ぎもあったものですから、羽磋たちは身体も心も疲れ切っていました。そこで、彼らは食事が終わると

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月の砂漠のかぐや姫 第232話

月の砂漠のかぐや姫 第232話

 一人当たり数切れの乾果と干し肉。彼らの手元に残っていた食料はそれで全部でした。王柔は少しでも量を多く感じられるようにと干し肉を細く裂いて数を増やしてから羽磋と理亜に渡しましたが、理亜に渡すときにはこっそりと自分の分の干し肉を幾らか上乗せして渡すのでした。
「では、いただきましょうか。王柔殿、理亜」
 ここは何が起きても不思議ではない地下洞窟の中ですから、本来ならば何か変わったことがあればすぐにそ

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月の砂漠のかぐや姫 第231話

月の砂漠のかぐや姫 第231話

「でも、悪いことばかりではないですよっ、王柔殿」
 羽磋は少しでも王柔を元気づけようと、意識して明るい声を出しました。
「ほら、僕たちは話をしていたじゃないですか。例え外に出られたとしても本隊と合流できなければ、僕たちだけで砂漠を渡って村まで辿り着くのは難しいと。ところで、ヤルダンに起きている奇妙な現象はおそらく精霊の力によるものと考えて、その力の源と思われる母を待つ少女の奇岩を本隊は目指していま

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