約束と裏切り【コスモプラザ赤羽@赤羽駅】
11月10日(火)。つい先日「今年も残り2ヶ月か」などと考えていたところだったのだが、それからすでに10日が経過した。時が経つのは早過ぎる。
昨日はドーミーインの記事を書いていたらすっかり日が暮れてしまい、結局サウナに行くことができなかった。今日こそは蒸されたい。しかも、昨日行こうと思っていたあそこに行きたい。
そう、「カプセルホテル&サウナ コスモプラザ赤羽」である。
というのも、実はコスモプラザ赤羽の公式アカウントに対して、以前にこんなリプライを送ってしまったことがあったのだ。
僕は口約束であっても「やる」と言ったら相手がどう捉えようがやる人間なので、なんとしてもその約束を果たしたかったのである。そして、その日がようやくやってきた。
起床後、自宅でダラダラしていても仕方がないので、準備を済ませて早々に赤羽へと向かった。
赤羽駅に着いたのは午前10時過ぎ。ここまで自宅からドアドアで約1時間である。僕もすっかりサウナにハマったものだ。通い続けられるかどうかはさておき、新規開拓のためにはこのくらいの移動は惜しまない。
地元に帰省するたびに何度も通過し、何度も乗り換えで利用した赤羽駅。しかし、改札から出たことはなかった。赤羽駅自体には慣れているはずなのに、赤羽という土地は初めて降り立ったのだ。期待と緊張感が高まる。
改札を出ると、雑多な街並みが目に飛び込んできた。どことなく池袋と似ていて、都会と田舎が融合したような雰囲気だった。
今日のような天気のことを「秋晴れ」と呼ぶのだろうか。空は晴れ渡っていて、とても清々しい気候だった。絶好の”ととのい日和”だ。
ちなみに、僕は大学入学を機に上京してからの数年間、赤羽のことを埼玉県だと思っていた。これは冗談ではない。大切なことなので繰り返すが、本気で赤羽が埼玉県だと思っていた。(※池袋は今でも埼玉県だと思っている)
赤羽駅に到着したのは良いものの、今日はまだ何も食べていない。サウナで消耗する予定の体力を養うために、まずは腹ごしらえをしなければならない。
取り急ぎ、この時間帯から入ることができる飲食店を食べログで検索した。そこで辿り着いたのが「自由軒」さんである。
実に趣のある外観だ。いとをかし。ドアを開けて中に足を踏み入れてみる。
「ウッ……そうか。そういうパターンのやつか」
比較的都会っぽいエリアでの生活に慣れているからか、お店選びの時に特に意識していなかった(というか見落としていた)のだが、2〜3歩ほど中に進むと若干タバコの臭いがした。
ここはやはり埼玉なんだ。埼玉県北市赤羽。普段の生活圏とは別の文化がここにはあるんだ。しかし、もう後には引けない。郷に入っては郷に従おう。
半地下の階段を降りて空いている席につき、本日のおすすめ「カキフライ定食(税込700円)」をオーダーした。
僕の他にはお客さんがもう一人。まだ朝だというのにタバコと日本酒で優勝していた。店内の嗅ぎ慣れない臭いに少し抵抗感があったものの、時間が経つにつれて普段の生活圏では味わえなくなりつつある昭和レトロ感にノスタルジーを覚え始める。むしろ、この非日常感が徐々に僕を”旅気分”にさせ始めた。我ながらポジティブな人間だと思う。
タバコと酒が似合う街、それが赤羽。
注文してから10分少々で料理が運ばれてきた。小ぶりのカキフライが4つ。全体的にシンプルで安心感のある味だった。牡蠣のコクとマヨネーズの相性も絶妙。サクサクジューシーで食べ応えもあった。
カキフライ定食をあっという間に完食し、いよいよ今日の目的地へと向かう。時刻は11時過ぎ。赤羽駅から徒歩5分ほどの場所、「赤羽一番街商店街」の中を進んだところに、Twitterで何度も見かけたことがあるビルが現れた。
「ようやくお会いできましたね」
心の中でつぶやく。相手も「せっかく来たならこの角度から撮ってくれ」と言わんばかりの顔つきである。
さっそく入り口がある地下への階段を降りていく。
人工ではあるものの、どうやら温泉に浸かることができるようだ。これは魅力的である。
無駄にポートレートモードで撮影してしまった下駄箱。「37」が空いていたらありがたく使用させてもらいます。
フロントに声をかけると、事前に仕入れた情報の通り、現在はキャンペーン期間中で3時間のサウナコース(税込1300円)で入館した場合は2時間オマケしてくれるそうだ。つまり5時間滞在できる。しかもコンセントもWi-Fiも完備という、在宅ワーカーの僕にとってはありがたい充実度。
フェイスタオルとバスタオル、そして館内着とロッカーキーを受け取って同じフロアのロッカールームへと進む。ただ、そこで館内着に着替えながら、あることを思い出した。以前に見かけたツイートのことだ。
地下なのに外気浴ができるってどういうことだろうか。謎過ぎる……。これは絶対に確かめなければならない。
館内着に着替えた僕は、ロッカールームのすぐ隣にあった浴場へとさっそく向かった。脱衣所の奥の通用口は全開になっていて換気が徹底されている。また、冷水機が設置されているのでここで給水ができるだけでなく、なんとすぐそばの棚に積まれているフェイスタオルは自由に使用して良いそうだ(※もちろん無駄遣いはマナー的にNG)。
浴室へのドアを開けて中に入ってみる。僕の他にお客さんはいない。
右側には大人の男性8人程度が入れそうな大きなお風呂(人工温泉)と、1〜2人が入れそうな水風呂、そして奥にはサウナ室が2つあった。事前にあまり情報収集をしていなかったので、サウナが2種類あることを存じ上げていなかった僕の気分は高揚した。
「しかし、アレが無いぞ……?」
そう、外気浴スペースが見当たらないのだ。「騙されたか」と思った。ただ、お風呂のすぐ裏の窓は常に半開きになっているから、もしかしたら浴槽に腰をかけて無理やり外気を受け止めるスタイルなのかもしれない。
お風呂の逆側には洗い場があり、男性の清掃スタッフがメンテナンスをしてくれている。まずは身を清めようと、清掃の邪魔にならないようにシャワー前にある風呂椅子に腰をかけて正面を見た。
「すごっ!!」
思わず声が出かけた。鏡がピッカピカだったのだ。このスタッフに弟子入りしたい。本当に一切の曇りがなかった。ここまで手入れをしてくださっていることに頭が下がる。
身を清めた後、まずはお風呂に入ってみた。温度は41℃。ジェットバスの勢いがとにかくすごい。リラックスというよりもリフレッシュ向きなお風呂だった。人工温泉装置の存在感もなかなかのもので、お湯の肌触りは柔らかかった。
「そういえば、そもそも人工温泉ってなんだろうか?」
気になったのであとで調べてみたら、公式サイトに説明が掲載されていた。
北海道長万部二股温泉の地下より湧き出し沈積した石灰華が岩石化したものを採掘し直径2~3cmの粗粒状に砕石。100%大自然の石灰華原原石を特殊装置に詰め、お湯を強制循環することにより石灰華に含まれる豊富な炭酸カルシウムなどの温泉成分を溶解抽出する人工温泉特許システムです。
(コスモプラザ赤羽: http://www.asia-hd.co.jp/what_futamata.html )
なるほど、この大きな装置の中には大量の鉱物が詰め込まれていて、その成分が溶け出すことで水質を温泉に近づけているのか。
ほどよく体が温まったところでサウナに向かう。高温サウナと低温サウナの2種類があるが、どうするか……。いや、まずは低温サウナだ。レインボーの判断ミスを思い出せ、ナオト。
僕はゆっくりと低温サウナの扉を開けた。中に入ってみると、たしかに息苦しさはあまり感じない。6人ほどが座ることができる広さに、小さな音ありテレビが1台。奥の天井に設置された遠赤外線ヒーターが、サ室全体を温めてくれている。
温度計は78℃を指していたが、奥に行けば行くほど熱さを感じるし、逆にドア付近であればじんわりと温かさを感じる程度。好みや体質によって熱せられる位置を調整できるのは、高温サウナに慣れていない人にとってはありがたい仕様だ。
10分ほど熱せられてから、シャワーで汗を流して水風呂に入ってみる。事前に掴んでいる情報ではキンキンに冷やされているとのことだったが、実際はどうだろうか。静かに肩まで沈んでみた。
「くううぅぅぅぅぁぁああ〜〜〜!!」
いや、冷たいわ。冷た過ぎる(褒めてる)。しかもどっぷり浸かれるちょうど良い深さ。久々にこんなにキンキンに冷やされた水風呂に入った。温度を確かめたら13℃。マジか。鼓動が高まり、呼吸が乱れてきた。歯を食いしばって30秒を耐え抜き、すぐに隣のお風呂に移る。
全身の皮膚がじんじんと痺れる感覚。お湯は熱いのに震えが止まらない。ゆっくりと大きく息を吐き出して、呼吸を整えていく。
「これだよ、これ。探してたものはこんなシンプルなものだったんだ」
どこかかから桜井和寿の歌声が聞こえる。そう、僕はこれを探してたんだ。こんなシンプルなもので心は満たされるんだ。全身の細胞が喜んでいた。
結局、外気浴の謎は解決しないまま、いったん呼吸を落ち着かせて少し休憩をしてから高温サウナの中へと入ってみた。
こちらはこちらで熱い。先ほどが「守りのサウナ」だとしたら、こちらは「攻めのサウナ」だ。温度は96℃でカラカラ系。音ありのテレビは同一仕様。徐々に息が荒れてきて、全身から大量の汗が吹き出してくる。6分が限界だった。再びシャワーを浴びて水風呂に移動する。
「くううぅぅぅぅぁぁああ〜〜〜!!!」
先ほどの1.5倍増しの衝撃。流石にちょっと変な声が出た。この時ほど、他にお客さんがいなくて良かったと思ったことはないかもしれない。歯を食いしばりすぎて変な顔になっていた自覚もある。1セット目よりも温度差があったからか、余計に強い刺激を感じた。呼吸はさらに荒くなった。
再び30秒を耐え抜き、すぐに隣のお風呂へイン。全身の細胞がさらに喜んでいる。高鳴る鼓動。駆け巡る血液。
呼吸を落ち着かせ、ささやかな外気を浴びるために、窓に近い浴槽の縁に腰をかけてみる。頭がボーッとしてきた。医学的根拠はよくわからないし確証も無いが、たぶんこの時は「幸せホルモン」と呼ばれるドーパミンが垂れ流されていたと思う。そう思い込むことにする。
早々に2セットをキメたあと、館内着に身を包んで3階の休憩フロアへと移動した。リクライニングチェアに体を預け、持参したパソコンを開いてお仕事モードへ。
(コスモプラザ赤羽: http://www.asia-hd.co.jp/i_lounge.html )
キリの良いところまで仕事を済ませると、時刻は15時に。退館までの残り時間は90分程度。
「そろそろフィナーレを迎えに行きますか」
再び地下へと向かい、ロッカーに荷物を預けて浴場へと移動した。館内着を脱ぎ、扉を開けて浴室の中へ。その時だった。
「ふぁっ!?!?」
僕は自分の目を疑った。たぶん人生で一番目を見開いたと思う。なんと、お風呂の裏側にある窓越しに全裸の男性客の姿が見えたのだ。
ーーなるほど、ここが噂の外気浴スペースだったのか。どこにも案内が書かれていないし、全く気づかなかった。マジか……。
そう、脱衣所の奥にあった通用口、実は”楽園(=外気浴スペース)”への入り口だったのである。マルシンスパと同じ動線。なぜ気づかなかった。なぜ事前に調べておかなかった。
ただ、こういったサプライズが新規開拓の楽しみの一つでもあることは否定できない。
それからというもの、僕は高温サウナに絞って怒涛の3セットをキメた。言わずもがな、灼熱のサウナから極寒の水風呂を経てたどり着いた楽園で過ごした時間は「至福」と呼ぶに相応しかった。
通用口を抜けた先には、独房のような狭い空間が存在していた。ビルの隙間にぽっかりと開いた秘密の小部屋。空を見上げても、そこには金網状の天井と灰色の空しか見ることができない。
そこに設置されている3脚ほどの椅子の一つに腰をかけると、正面の窓越しに浴室の中を覗くことができる。「この独房に完全に閉じ込められたわけではないのだな」という安心感が、妙に気持ちを落ち着かせた。
そうか、思い出したぞ。これがあの時に公式アカウントさんから教わった「反省房」なのか。
通用口から漏れてくる脱衣所の中のぬるい空気が、冷たい外気と混ざり合って肌をかすめていく。この「ただ冷たいだけ」ではない、複雑でありつつも調和の取れた温度変化が絶妙だった。偶然が生んだ奇跡の風。そっと目を閉じ、大きく深呼吸。
「ふわぁ〜〜〜……」
自然と息が吐き出された口は開いたまま閉じることはなく、意識は宇宙と一体になり、脱力しきった僕の体は後ろの壁にもたれかかった。気分は瞬く間に絶頂に達していた。
退館までの残り時間は15分。私服に着替え、僕はコスモプラザ赤羽を撤収した。今日は「ととのった」というよりも「ととのわされた」という表現のほうが合っている気がする。完全にやられた。
僕はTwitterでの約束を果たしに来たが、予想と期待を超えてくるコスモプラザ赤羽からは良い意味で裏切られた気がしたのだ。ただ、こういう形であれば何度でも裏切られたい。
赤羽駅を目指し、再び赤羽一番街商店街を通過する。さすがに夕方の時間帯ともなると、飲食店は徐々に活気に溢れ、タバコと酒がこの地を赤羽たらしめていた。
そういえば、「コスモ(cosmo)」には「調和のとれた宇宙」といった意味があるらしい。
「なるほど、そういうことか……」
僕は、タバコと酒、そしてサウナが似合う街をあとにした。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます