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#16 音読の武器となる「下読みと先読み」のコツ

(4)ステップアップ編:戦略的発信につなげる工夫

 前回まで、ニュースとスピーチを素材にして音読に取り組んできました。くり返しになりますが、音読で重要なのは、実際の発信を意識して「話すように読む(書き言葉を話し言葉に変換して読む)」こと、そのために、事前に行う黙読の段階で読みの作戦をしっかり立てておくことです。

 これまでに紹介したノウハウを使って、身近にある自分に合った教材を選んで音読を続けていきましょう。ただ漫然と声を出して読むだけでは上達は望めません。実践的な「発信のリハーサル」をくり返すことによって、自分の読みを効率的に高めることができます。

 このステップアップ編では、音読から戦略的な発信につなげるための工夫についてお話しします。一つひとつは小さな工夫でも、積み重ねることで発信力に大きな差が出てきますので、モチベーションを高く維持して自分の引き出しを少しずつ増やしていきましょう。

●「プラスα」で音読がさらに変わる

① 「下読み」は裏切らない

 文章の意味をつかむ下読み(黙読)の重要性については以前も述べましたが、下読みの目的は意味を把握することだけではありません。全く同じ文章やフレーズを音読する場合でも、それが相手にとって初めて聞くフレーズなのか、5回目なのかによって読み方は違ってくるはずです。また、自分がこれから伝える内容について聞き手がどこまで知っているかも読み方を考える際の重要な判断材料になります。相手が知らない情報、特に専門的な内容を伝えるのは難しいですが、相手がすでによく知っている情報を伝えるのはもっと難しいのです。下読みの際には、聞き手にとって何が付加価値なのかをしっかり見極めた上で、具体的な読み方に反映させます。例えば、以下の2つのニュースを見てみましょう。

(例6)NHKニュース(2020年4月21日)
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、合掌造りの集落が世界遺産に登録されている岐阜県白川村は、観光客に対し、ことしの大型連休中は村を訪れないよう求める異例の呼びかけを始めました。

(例7)NHKニュース(2020年4月22日)
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、北海道函館市の和菓子店は疫病から人々を守るとされる妖怪「アマビエ」の和菓子の販売を始めました。

 どちらも約1年前に紹介された、新型コロナウイルスの感染拡大に関する地域の話題です。当時のメディア報道は新型コロナ関連のニュースで連日埋め尽くされ、多くのニュースは、上の2つの例のように、「新型コロナウイルスの感染拡大」という表現で始まっていました。こうした状況で、次のニュースに移るたびに、アナウンサーが「新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、」と、冒頭を高いトーンで読み始め、あたかも初出のテーマのように扱えば、視聴者はきっと苛立つでしょう。最初の感染確認からどれくらい時が経っているのか、同じ日の報道番組の中で新型コロナ関連の何件目のニュースなのか、それに応じて「温度感」の違いを読みに反映させるよう工夫すする必要があります。こうした工夫をせずに、場の空気を無視した読み方をすれば、聞き手は無意識に心と耳を閉ざしてしまいます。下読み(黙読)を十分にしておかないと、そうした反応に気付かないまま自分勝手に発信してしまうリスクが高まるのです。

② 「先読み」も役立つ

 十分な下読みを終えて音読の準備が整いました。それでも、実際に読むまでに時間が空いてしまったり、他の事を考えてしまったりすると、いざ音読しようと文章を前にした時に、事前に考えていた読み方のプランを忘れてしまうものです。活字を見た途端、発信するという意識が奪われ、無機質な読みやクセのある読みに戻ってしまいがちです。

 私たちの目標はあくまでも相手に伝わる発信です。そのためには、読んでいることを聞き手に悟られないような読み、「話すような読み」を徹底する必要があります。用意された原稿を読んでいることが聞き手にはっきり意識されると、その読みは「他人の言葉」と受け止められてしまいます。

 これを防ぐために効果的なのは「先読み」です。これは誰でも多かれ少なかれ実行している方法だと思います。成人が音読する際には、文章中の発声している箇所から2~3文字先を見ていると言われています。このズレを「eye-voice span(EVS)」と言いますが、音読トレーニングを重ねることで、このEVSを広げることを目指します。EVSの幅が広いほど、自分らしい読み方を意識する時間の余裕が生まれるからです。

 例えば、私たちが歩いたり走ったりする時、自分の足元を見ないで少し前方を見ていれば転びにくいでしょう。音読でも少し先を見ていれば、間違えたり噛んだりしにくいのです。音読の場合、全ての文字を飛ばすことなく発音するので、黙読に比べて眼球をキョロキョロ動かしている余裕はありませんが、練習を重ねるうちに、音読しながら眼球を動かせるようになってきます。特に、下読みを十分に行うことで、15文字くらい先まで見えるようになり、その15文字分を音読している間に、自分が事前に計画していた読み方を思い出すことができます。もちろん、今読んでいる文字を全く見ずに読み間違えてしまっては元も子もないので、同時に2点に視点と意識を集中させる必要がありますが、これは練習すればできるようになりますし、大変役立つ方法です。さらに慣れてくると、15文字先を見ながら、同時に数行先までの全体を視野に入れ、読みの残り時間を計算することもできるようになりますので、決められた時間内に話を終わらせる必要があるときに有効です。(つづく)

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