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ブランド投資の対象になるもの

魅力的価値という言葉をご存じでしょうか?拙著「The Concept/一生使えるコンセプトの教科書(水野与志朗著/KDP出版)」で紹介したものです。ブランド投資をするコンセプトは魅力的価値を備えてなければなりません。そこらへんにあるようなアイデアやコンセプトに投資しても、そもそもブランドになどなりません。魅力的価値を簡単に説明すると「これまでも不便ではなかったが、これが出てきて生活が変わった。いままでのものが古く見える。こんな便利なものを知ってしまったら、もう昔には戻れない」という感じのもの。最近であれば生成AIなどがそうでしょう。しかし僕の感覚では、なにもAIのようなテクノロジーを駆使したものや、世間をがらりと変えるアイデアである必要はありません。魅力的価値はもっと身近なところにもあるようです。

「おうちスープ」というカップスープのブランドがあります。おなじみのインスタントスープの粉をお湯で溶いて飲むものですが、これも魅力的価値を備えたブランドです。「個包装」でなく「ジップロックタイプの大袋」にどっさり16杯分が入っているのです。通常、カップスープというと一食分ずつ個包装されたスープ粉をマグカップに入れてお湯を注ぎますね。しかしここに問題があった。正直、1杯当たりの量が少ないのです。少ないのでレシピ通りのお湯の量で作るとマグカップの半分くらいまでしかスープが出来ない。もしレシピを無視して、なみなみの量のお湯で溶くとなると濃厚さに欠ける薄味スープになります。これは美味しくない。しかしおうちスープは大袋にまとめて入っているので、自分の好きな量を好きな濃さで作ることが出来るわけです。僕の場合は、別に16杯という規定の杯数や量にこだわりや厳格さはありません。朝食に濃厚なスープをマグカップでたっぷり飲めばよいと思っています。そんなのが消費者の本音ではないでしょうか。正直、おうちスープが出てからスープの飲み方や楽しさはそれまでと違うものになりました。「大袋」というわかりやすいほどのアナログ製品なのに魅力的価値の創出に成功したものだと言えます。

あらためてインサイトが大事です。おそらく消費者はそれまでの個包装タイプに、量や濃さの「不」を感じていたでしょうね。そして出てきたのがおうちスープというわけです。よって魅力的価値の創出もインサイトの勝利です。スープの話ではないですが、逆にインサイトの存在しない多機能製品や新製品もよく見かけます。確かに面白いものもあるけれど「その機能って、本当に必要なのか」と疑問に思うことも多い。時には「この機能はないほうが良い」や「あってもなくてもどちらでもよい」ともなりかねません。昔のテレビやエアコンのリモコンにあった「増えすぎたボタン」を思い浮かべてもらえればわかりやすいでしょう。機能性や便利さを考慮してくれるのはありがたいですが、インサイトはそれ以上に重要なのです。