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AIを少しだけ研究してみて思うこと

◉ECの武器として、感性を AIでコントロールできないか

僕は、ライフスタイル系ジャンルを扱い、チャネルは通販をメインに仕事をしています。

特に今は猫も杓子もECなのですが、それは世の中の流れ通り間違ってません。ECが黎明期のときから仕事で少しずつ関わっておりかれこれ15年になります。

特にこの10年くらいは隔世の感があるほどの進化と言われております。
確かに関わり始めた15年前とは、通信速度などの環境やデバイスなど、スーパー進化してます。これは誰も異存が無いと思います。

ところが、よくよーく観察してみると、進化しているのは意外に枝葉末節な部分やテクニカルな部分、各種実績の可視化ツール、オペレーションの部分や、UIなどの部分であり、実はユーザーとの関わり方という意味では本質的には15年前、いや20年前と基本的には変わってないのではないかと2年ほど前から思うようになりました。

それに気づいたのは、結局各ベンダの種々のBIツールやMAツールの情報を取ったり、試しては失敗したり、ということをやっていたり、ECで売り上げを上げるための超絶地道な作業(これ、関わったことある方はわかると思います)をやっているときです。

(気づき)
あれ!? ECって基本的にずっと徹底的に受け身じゃない?

そうなのです。

何も本質は進化してないのです。

基本的には、

1:まずユーザーに気づいてもらう(ためにどんどん販促費をかけたり。この時点でブランド力のあるサイトやプロダクトは有利です。リアルな接点があればなお良しです。)

2:気づいたもらったユーザーに自社サイトに訪問してもらう(ためにどんどん販促費をかけたり。ここでもブランド力があればSNSの告知から直行や、お気に入りに入れてもらってそこから直行という嬉しいパターンが描けます)

3:訪問してもらったユーザーにできるだけ長く、たくさん商品を見てもらう(ために各組織都合でどんどん導線が複雑になったり、とりあえず更新や運用を考えないままコンテンツを増やしたり)

4:商品を見てもらったユーザーにカートにいれてもらう(ために商品詳細画面の情報をどんどん増やしていき、手間と制作費がかかり)

5:最終的に決済してもらう(ためにクーポンや値引きなどサービスに対する競争が激しくなり)

と、まあ簡単にいえばこの5ステップです。
*僕はAIDMAとかAISASとか、どこかの誰かが考えた誰かの商売のための言葉は、実務では全く使えないと思ってますので、使いません。そんな語呂がよくなる単語でスパッとハマるほど実務はシンプルではないから。

これが同じ通販でもテレビやカタログは、より能動的に消費者に働きかけることができます。テレビはそもそもが視聴者は買う気満々ですから1点集中型でかなり分かりやすく、かつ扇動的に商品を売り込めますし、カタログは何百万人のお家のリビングにいきなり上がり込むことができ、お客さんの好きな時間に見てもらうことができる素敵なツールです。

ただ、前者は放送時間などの枠の制限、後者はページ数や面積などの物理的制限がありデメリットもあるのですが、レスポンスやCV(コンバージョン_ECだと実際に決済まで進むこと)はECに比べものにならないほどのスコアです。

これ、ちょっと話は脱線するんですが、中途半端にECだけをかじっている人はよく時代遅れだの、オワコンだの言う人がいます。私もそう思ってました。ところがよくよく話を聞いたりしてみると、この2つって以下の特徴があります。

1、参入障壁が高い(効率が悪いという側面もあるかも)
2、CVや客単価が普通のECでは考えられないくらい高い

ですので、この手のチャネルを持ってる会社はあまり新たな競合が出ていませんが、逆に若年層や新規層はまず入ってこないチャネルなので業界としてはその辺りをどう戦略的に捉えるかということが重要でしょう。

話を戻します。

一方で、ECは上記の1から順番に入ってもらわない限り、どんなにUI洗練させても、デザインが綺麗でも、商品が良くても、クーポン値引き率が高くても、受け身を極めない限り売り上げにはならないのです。

店舗と違って、困っている人にお声掛けすることすらできません。

そう、困っている人にお声掛けすることすらできません。

じゃあやってみるかということで

受動的(パッシブ)なECから能動的(アクティブ)なECを目指す

ということをコンセプトに小さな研究がひっそりとスタートしたのです。
詳細は諸事情でちょっと省きますが、それなりにインパクトのある企画ですので結構社長以下経営陣には反応はすこぶるよかったです。
もちろん、きちんと経営陣にはそれなりのストーリーを描いてきちんとプレゼンをして進めるという会社員的な手続きは踏んでます。


◉研究のパートナーは世界的なIT企業



いきなりですが、これはかなりラッキーでした。

AIやるか!っていってもその頃は、AIという言葉がやっと出だしたくらいの黎明期でググってみてもどこの何がいいのか全く分かりません。

その際、たまたま社内のとある人にこの話題で雑談してると

「全然別の案件で取引している会社が、R&D部隊でAIを研究しているらしいよ」

という話を聞き、脳内に記憶していました。

私は、会社の経営陣にプレゼンしておきながら、実は自分が考えてるコンセプトなど陳腐なもので、「いずれこういう時代が来る!」って偉そうにプレゼンしておきながら、一方では心の中で「どこかの賢い誰かがもうすでにやってるんだろうな」思っていました。

そこで、結局片っ端からAIの有名どころにコンタクトし、数社と面談や提案をもらったりしたのですが、どうやらコンセプトとして求めているものは現時点では無理だという結論になってしまいました。

そうなったらイチから開発しかありません。

ところがイチから開発となると莫大に重たくなり身動きが取れなくなります。

「やだな〜」と思っているとき、先ほどの雑談を思い出し、ダメ元でコンタクトを取ってみてコンセプトを説明すると大変共感していただき、

「やってみましょう」との一言。

しかも先方のR&D組織の人材や研究者も出していただき、まだ使えるかどうかわからないので共同研究ということで、こちら側は申し訳ないほど本当に少ない費用で一緒にできるということで大変助かった記憶があります。

「**したいんだよねー」ていうようなことは事あるごとにいろんな人に言っておくタイプではあるのですが、本当にいいことが起きるもんです。

そこから半年ほど、通常業務の合間を使ってAIエンジンを作っていくという作業をすることになりました。費用をかけてないのでマンパワーでがんばりました。

それが意外と、かなり超絶を超える地道な作業の連続でして、教師データというAIに教え込ませる(なぜかよくAIに食べさせるという表現を使いがちですが起源はわかりませんw)ためのデータを作るのが一苦労です。
※ちなみに実は現在進行形で部下の一人が全く別のAIに教え込む教師データを作ってますがかなり苦労してます。こちらは完全に定量的なデータなのですが莫大なSQLから引っ張ったデータを覚え込ますために加工してるのだがその加工法にコツがいるようです。

一方で、私がお世話するAIは定量ではなく定性です。
つまり、人が持っている言語化できていない感性的な情報をAIでなんとかするというのがやりたいことでして、超大変。

1、とあるテーマの画像を数万枚目視で確認し、あるタイプ別に分類
  (もうここで嫌になる)

2、さらに同じ画像を今度は別の切り口で再度目視で確認し、さらにグルーピングを行う

3、AIにアクセントカラーなどいわゆる「ハズし」的な部分を教えこませる。そのために数万枚の画像1つ1つに座標でハズし的な部分を指定する
(これが一番大変)

ここまでで、倒れそうになるくらい画像をみました。世の中の新しいITサービスというのは誰かのアナログな犠牲の上に成り立っているのだなということを再認識した貴重な時間でした。

さて、そんなこんなで上記のことを少しづつ行い、先方の研究者とは月一でミーティングを行いながら進めていきました。


◉ざっくりいえばAIは数多の変数の相関性を導出するもの


そこで、結局これに気づいたんです。

AI、人工知能っていえば、僕のこの記事の見出し画像で使ったようなマシン脳や、キューブリックの映画のHALのようなロボティクス的なSFマシンを想像しがちですが全くそんなことではないです。
※ある大変大きな外資系のIT企業に、そこが持つ有名なAIについて突っ込んで聞くと最終的には「概念です」という謎回答があったほど、うまく定義や言語化できてなかったです、当時は、はい。

で、私のポンコツ教師データを何度も何度も整備し直して、すこしつづチューニングしていったのですが、そこでのロジックや数式を僕がわかる範囲で理解すると、エクセルレベルでは処理しきれない数多の変数の相関性を複合的かつ超高速で判断して、単純なロジックでは出せない答えを導き出すものというのが私のAIに対する理解です。

◉結局イチからのAI作りは断念

で、紆余曲折あり、なんだかんだで僕の視力が弱くなるほど教師データ→チューニング→ロジック修正 などをくりかえし研究はある程度目処がついたのですが、結局実装は断念しました。
各種の数式までは作ってもらい、ある程度確度の高い基本的なロジックまでは作ったのですが、いざ仮完成して見積もりを取ったら、想像以上に結局重たくなり、運用・保守・メンテナンスに関わる費用と手間が膨大になってしまったからです。

ただ、こちらの研究については、先方の研究者が論文にしたためてくれておりまして、すでに発表になっております。私は論文の中では協力いただいた「専門家」というような名乗りでこっそり登場しております。


◉AI時代に価値がある人間の仕事は大きく2つ


最後に、よく巷ではAIに取って代わられる仕事みたいないたずらに不安を煽る記事がでまくってますが、そんなことはあまりないと思ってます。
それは時代の流れや需要の減退とともに産業や仕事は変化していくものなのが当然なので、それを全てAIが乗っ取っていくという論調があるのを見かけると浅いなと思ってしまいます。


で、結局そういったいろいろなことがマシン化、AI化されていく時代に価値がある人間の仕事は大きく2つです


1、経営者実務
2、クリエイティブワーク


これです

今のところ、もしくはここ数年はAIが越せない壁があろうと思ってまして、それが人とのコミュニケーションのさじ加減やモチベーションの向上や、野生的な動物的商売感覚。

または、通常の論理や現状分析の直線上では思いつかないヒラメキやアイデア(ヒラメキシンキングについては以前の記事をどうぞ)をうまく使った人の心理をゆさぶるクリエイティブ。

これに関しては、やはりある種のゆらぎを持ち、ゆらぎを理解する人間だからこそできる仕事です。

AIがきたら俺の仕事なくなるかも・・・

と思ってる方がおられたとしたら、仕事がなくなったらそれはAIのせいではなく組織や個人の努力が足りなかったか、時代とともに世間から必要とされなくなったということです。AI単品のせいではありません。

AIをなんでも神格化して(昔のPOSやSPAのような経営説明会に書きやすそうなバズワード)にするのは愚の骨頂ですが、逆に自分たちが卑下することもありません。パソコンができたら人の仕事は楽になる〜〜といってPCを導入してた企業が大半だと思いますが、今はそれにも増して忙しくなっていると思います。人ってそういうもんです。
AIは必要なときにうまく使いこなす。ただそれだけです。


AIは何でも解決する魔法のツールではありません


言いたかったことは結局これです。


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