小売業・MD実務シリーズ”どうやって利益を残すか”
◉小売業・MDとしての仕事の最終目的は利益を残すこと
突然ですが、小売業ひいてはそれを構成する主要業務であるMDの最終目的は利益を残すことというのが私の考えです。
いやいや売り上げでしょう、という意見もあると思いますが、正しいようで間違ってます。正確には、業界の1位企業や10年前までならそれも正しいとは思いますが、現実的にはそのような企業ではない組織に属している人が大半だと思います。
さらに、今後小売業が関わる多くの産業では売上が未来どんどん伸びるということが考えづらい市場構造が大半です。仕事で関わることが多い、ライフスタイル分野やアパレル分野もこの10年で市場は成長してません。何ならアパレルは、この10年で1兆円ほど縮小し完全に右肩下がりが顕著です。インテリアはリーマンショックあたりで一度下がってそこからやや上向いたものの、10年前と規模は同じでこの数年は横ばいです。
だからこそ、現実に即した意見を持っています。なかなか物が売れない今の時代は売り上げではなく、追求すべきは間違いなく利益です。
◉売り上げを下げて利益を上げる
まず頭の構造を変えましょう。大概のMDや事業企画者はまず売り上げという最終目標が常識としてあると思います。一方、私は売り上げは利益を出すための道具の一つだという認識です。
これ、分業が強まる会社ほど、組織間の共通言語として一番シンプルでわかりやすいのが売り上げなので、売り上げが上がればいいんでしょうという雰囲気が醸成されがちです。
その場合、何が起こるかというと、ムダムリムラが出てきてそれが見えなくなるのです。
つまり、短絡的な売り上げを上げるために分業の現場では
・顧客が喜ぶからという理由だけで儲からない原価で商談を進めてしまう
・売上を積まれてるから思い切ってたくさん仕入れをしてしまう
・売上しか見えてなく物流費で利益が飛ぶような商品を採用してしまう
・戦略なく値段を下げてしまい、無駄な値引きをしてしまう
こうなると死兆星(©北斗の拳)が見えてしまいます。期末には誰かの首が吹っ飛ぶくらいの損益影響が出るでしょう。
これらは現場目線の比較的細かい話ですが、さらに視座を上げた話をすると、現場含めて全員で損益構造とそれに伴ういままでのしきたりや常識を疑う、変えることが重要です。
売上を下げて利益をどう出すか、これを考えて実行できる人間がこれからのMD必須スキルでしょう。
◉売上を下げて利益を上げるやり方って
こんなことを、書いておきながら何ですがそのやり方は個々の組織で異なりますので唯一解は無いです。
ただ、こんなケースがあったりします。
前提として、組織のPL、BS、CFなどの財務系数値は頭に入れておきます。また、PL、BSは過去5年で見て、課題になってるボトルネックの当たりをつける。ということをして組織の管理会計に切り込んでいくことが必須です。
そうすると、だいたいパターンや構造が見えてきます。
例えば、
・赤字と黒字を毎年いったりきたり
・棚卸し資産が軽くなったり重たくなってたり
・売上原価率も上がったり下がったり
この場合、完全に在庫がボトルネックです。
・仕入れすぎ→セールしすぎ 結果:赤字
・また仕入れすぎ→セールすると損益悪化するのでセール控え 結果:黒字
・前年セール控えたので在庫がダブつく→やはりセールする 結果:赤字
こんな感じです。
在庫やオペレーションに関する意識が弱く、組織が分業だとこのような場当たり的な思考になってしまいます。組織的な視野狭窄ですね。
少し大きな組織になってしまったらこういう病巣ができるのかもしれません。
これも売り上げ至上主義がもたらす弊害です。前述したように売り上げが未来永劫伸びる保証はありません。産業や業界のなかで俯瞰的に物事を抽象化して見ることで、潮目の変化を感じて売り上げ至上主義をいち早く捨てて、利益化へ進むべきでしょう。
その時に、財務諸表の観察から事業のくせを見抜き、オペレーションと損益構造の改善をいち早く進めるべきでしょう。
◉売上原価率の下げ方
これは結構シンプルです。
仕入原価率から売上原価率が上がってしまう主な要因は在庫です。
せっかく低い原価率で仕入れても、
・売れない(マーケティング不足、企画力不足)
・売れたけどそれ以上に仕入れすぎた(規模の経済に踊らされる)
この2点が該当すると、せっかく作って仕入れた在庫はセール対象になり、評価損対象になり、そのうち二束三文で売られる運命になります。
なので、解法の1つは、
在庫を作らなければいいんです。
受注生産ですね。
車、パソコン、などでは当然の手法ですが、なかなか浸透してません。浸透しないのにはわけがあります。
普通に受注生産しちゃうと、効率が悪いので単純に価格が高くなってしまうんですね。
だから価格が高くても売れるような事業構造に変えるという選択肢もありです。
実際に、僕があるカテゴリで受注生産を企画しましたが、最終的に利益率は、驚くほどの数値を叩き出しました。
単なる受注生産だと高くなってしまうことは明らかだったので、価格を抑える工夫をしました。
結果的に、そのカテゴリは通常だと限界利益率で数%レベルで、営業利益ベースだとマイナスというスコアでしたが、受注生産を推進したところそのアイテムは営業利益ベースで2桁%の黒字を見込めるくらいになりました。
これはほんの一例ですが、全てをそもそも論で見直すことで利益体質へのきっかけが生まれるものです。
小売のMDを志向するなら、利益を残すこと。
そのためには売上だけにとらわれないこと。
それが今回言いたかったことです。
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