見出し画像

【最近読んだ本】自分の明日を良くできるのは、今日の自分だけだ。

いじめを受け、家族との関係もぎこちなかった中学時代、主人公の碧は「明日なんて来なければいい」と思っている。
そんな時、偶然ある女性に出逢う。
「みんなに嫌われている」と言う碧の言葉をその女性は否定する。

「あなた自身が、あなたを大事にしていないから。あなたがあなたを嫌っているから。だから周りの人はみんな、ますますあなたを大事にしないし、嫌いになる。こいつはそういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう」

そう言って、蜂蜜の瓶を碧に渡して去っていった。
「蜂蜜をもうひと匙足せば、あなたの明日は今日より良くなる。」
そんな言葉を残して。

冒頭の中学時代の思い出から時は過ぎ、現在の碧は30歳。
どうしようもないダメ男の安西(画家志望だが成功しないし仕事も続かない)と同棲していた。
安西が故郷に帰ることをきっかけに、碧も仕事を辞めて結婚するために、見知らぬ田舎町へついていくのだが……。

『今日のハチミツ、あしたの私』はそうやって始まっていく。

画像1

安西の父親に結婚を反対され、その田舎町で碧はたった一人、住む家と仕事を探そうと奮闘する。
もっと不安定で弱い人なのかと思っていたら、なんと逆境に強いこと!
養蜂の仕事を手伝い、スナックをカフェ化することを手伝い、どんどん自分の良さを発揮していく。
その碧のたくましさに引き込まれる。いじめを受けていた子だとは思えないほどに。

スナックのあざみさん、認知症の親を支える三吉さん、養蜂家の黒江さん、その娘の朝花。
いろんな人と出会い、それぞれの抱える問題に、ちょうどよい距離感で関わっていくのもいい。

これは、「自分の居場所」をどうやって作っていくか、ということを考えさせられる物語だ。
町の人に馴染んでいる碧を見て、朝花が聞く。「誰とでも仲良くなれる人?」
碧はそれを否定する。

「自分の居場所があらかじめ用意されている人なんていないから。いるように見えたとしたら、それはきっとその人が自分の居場所を手に入れた経緯なり何なりを、見ていないだけ」

自分の居場所は、自分で作るもの。
考えて、努力して、時には傷ついて、それでも欲しいなら、自分で作っていかなければならない。
そのことを実感できる言葉だった。
不器用とか人見知りとか、そんな言葉の鎧で自分を守るのではなく、行動していく碧に好感が持てた。

この本のもう一つの見どころは、養蜂シーンや蜂蜜を使った料理だ。
ミツバチの神秘が伝わるシーンがたくさんあるし、蜂蜜を使った料理やお菓子はどれも本当においしそうだった。
(私は蜂蜜が大好きで、旅先などでも見つけると買ってしまう)

泣くほど感動的な物語ではないけれど、読んでいて元気が出る。
時々吹き出してしまうくらい、淡々とした語り口の中にユーモアもあって。

完璧な人間なんていないけど、今日自分のできることをしっかりやっていれば、きっと誰かの役に立つ。
うまくいくことばかりじゃないけど、とにかく行動すれば、人に伝わることもある。
自分の明日を良くできるのは、今日の自分だけだ。

そんなことを感じさせてくれた。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,642件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?