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【最近読んだ本】暗闇の中に見える、一筋のあたたかな光。

これぞ、瀬尾まいこさんの真骨頂!
読み終えた時、心からそう思った。

瀬尾まいこさんの小説を初めて読んだのは、おそらく15年以上前。
友達に薦められた「天国はまだ遠く」だった。
素朴な語りと温かな物語に引き込まれ、それからかなりの作品を読んできた。
特に好きなのは「図書館の神様」「優しい音楽」「幸福な食卓」。
ただ、いつからか新作を読んでも面白いと思うことがなくなり、気づいたら長い間手に取ることがなくなっていた。
久しぶりに読んだのが2019年の本屋大賞受賞作の「そして、バトンは渡された」。
本屋大賞の本はだいたい面白いので、これは久しぶりにヒットか!と思って読んでみたのだが、残念ながら私の心にはあまり響かなかった。
(でも、本屋大賞ということは、多くの人の心には響いているということ。私の個人的な感想だ)

今回読んだのは、本屋大賞受賞後の第一作目。
どうかなぁ、またあまり響かないかなぁと思いながらも、なんとなく本屋で手に取ってしまった。

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そんな気乗りしないような状態で読み始めたのだが、数ページ読んで、もう夢中になっている自分に気づいた。
一気に読み終え、思った。
「これぞ、瀬尾まいこさんの真骨頂!」

物語は、PMS(月経前症候群)の女性藤沢さん(28歳)が、社員6名の小さな会社で働いているところから始まる。
藤沢さんは生理前になると、イライラを抑えることができない。
それが理由で前の一流企業も辞めてしまった。
PMSのイライラくらいで?と思うのだが、読み進めるとすぐに辞めたことも納得できる。
同僚が炭酸を飲む時のキャップを開ける「プシュッ」という音だけで、周りの人の手に負えないほど怒り出すからだ。

これは大変だなと思っていたら、その炭酸を飲んでいた同僚の山添くん(25歳)は、なんとパニック障害。
それを知った藤沢さんは、同じようなものを抱える仲間意識からなのか、山添くんに近づいていく。
急に家を訪れて、やったこともないくせに「髪を切ってあげる」と言い出すのだ。
その近づき方が大胆かつコミカルで、読んでいる私も最初は驚いてしまったが(近づかれた山添くんの驚きはハンパない)、山添くんが少しずつ心を開いていくというか、あきらめていくのにしたがって、こちらもその行為を受け入れてしまう。

そこからどんどん二人の距離は縮まっていく。
恋愛に発展するのかと思えば、そうでもない。
互いの抱えている病気を、互いになんとかフォローしようと本気で考える。
そんな重いテーマにも関わらず、二人のやりとりはどこかコミカルで、漫才かコントでも観ているような気持ちになる。

二人を見ていると思うのだ。
人って、実は「自分」のことは何にも見えていないんだな、と。
良い所がたくさんあるのに気づかない。
よく言われることだけれど、長所と短所は表裏一体。片方から見れば短所でも、別の側から見れば長所にもなる。
そんなことに気づかずに、人は自分で自分自身を追い詰めてゆく。

二人はお互いの病気を本気でフォローしようとすることで、これまで見えていなかったものが見えるようになる。
それと並行して二人の関係も良くなり、仕事にも意欲的になっていく。

読み始めた時は真っ暗だったのに、読み終わる頃には一筋の光が見える。
その光はとてもあたたかくて、希望に満ちているのだ。

瀬尾まいこさんの、こういう物語をずっと読みたかった。

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