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練武知真 第19話『呼応を学ぶ為の武術』

武術にとって大切なもの。

それはたくさんあるのですが、

私がその全般を通して大切に思っているのが『呼応(こおう)』です。

 

呼び掛け・・・応える。

 

これは、

1人でおこなう練習も、

2人でおこなう練習も、

そして、

生徒さんへ教える指導の場面でも、

私にとってとても重要なことなのです。

 

例えば1人での練習。

「1人なのに何と呼応するのか?」

とお思いなる方もいるかも知れませんが、私が修する武術では呼応からは離れる事はありません。

 

形意拳や八卦掌では、

『発勁(はっけい)』

という特殊な打撃法を用いるのですが、これは地面の反動力を活用します。

 

垂直方向へ瞬時に身体を緩め落として、大地へ強い圧力を掛け、その反動力を汲み上げて打つ『沈墜勁(ちんついけい)』。

 

前進力に前足の踏み込みで急制動を掛け、前方への力を得る『推進勁(すいしんけい)』などなど。

 

いずれも大地へ圧を加えて、その反動を得ることが根本となります。

これは大地との「やりとり」・・・「大地との対話」に他なりません。

 

人間が自分の筋肉だけで発するチカラには限界があります。

大地のチカラを活用する知恵が武術にはあるのです。

 

また、時には樹木を拳や掌で打つ『打樹功』という訓練もします。

これは実際に手を物体に当てる感触を学ぶものです。

拳や掌を硬く頑強なものにする鍛練ではありません。

 

手が物に当たったら、必ず反動が返ってきます。

その処理をうまくしなければ、手や手首を痛めかねません。

 

通常であれば、反動に耐えられるよう手や手首をトレーニングするのでしょうが、

 

形意拳や八卦掌では、発勁の際に、

力みを抜き、重さを与えるように打つ事によって、

対象物からの反動を軽減し、

打撃力のほとんどを相手の体内に推し込んでしまいます。

 

この感覚を打樹功で得る為には、杉などの柔らかい樹木が最適です。

樹皮が紙を重ね合わせたようになっていて、皮膚を傷つけにくいのも理由の一つですが、重要なのはそこではありません。

 

「返事を返してくれる」からです。

 

樹木の中を意識して軽く打つ。

樹木に問いかけるように打つことによって、

その反動が振動となって掌や拳に返ってくるのです。

ただひたすらに拳を叩きつけるのではなく、樹木の反動をきちん感じるように打つ。

「樹木との会話」に重きを置く。

 

そのようにすると、重く相手の体内へ浸透するような打ち方ができるようになるのです。

 

どうです?

1人練習でも、

大地や樹木との《呼応》が重要であることがお分かり頂けたでしょうか?

 

さらに2人でおこなう練習である《対練(たいれん)》では、人間相手に技を掛け合います。

 

この際も自分の技を掛ける事だけに終始するのではなく、

技を掛けた時の相手の反応にも気を配ると、技の効果を確認できたり、自分の欠点に気付くことができたりします。

 

また相手の技を受ける時にも、相手の呼吸や技をきちん感じるようにすれば、相手の動きを察知する能力を鍛える事ができます。

 

技を掛ける「呼」、技に応じる「応」

を人対人の間でリアルに学ぶ事ができます。

会話のようなものです。

 

実力がお互いに高くなってくると、この会話は早く深くなってゆきます。

優れたコミュニケーションになるのです。

 

最後の例として、

私が生徒さんに指導する時のお話を。

 

私は高台に立って、上から指導するタイプの教え方は苦手です。

 

生徒さん達の中に入ってワイワイと教えるのがとても好きです。

時には冗談を交えつつ、内容は真剣に。

 

何故かというと、

私と生徒さんとの間に『呼応』が生まれるからです。

 

生徒さんは疑問に思った事を質問します。

私はそれに応える。

そこで新たな練習方法が生まれることがよくあるのです。

 

また生徒さんの言葉にハッとすることもよくあります。

「なるほど、そういう角度からの考え方もあるのか」と。

 

私もとても学びになるし、何より楽しい。

そして、生徒さん達も主体性を持って学ぼうとします。

 

そのお互いの熱量のやり取りが「熱意に満ちた場」を作り、充実した時間と空間を創造します。

 

勿論、武術そのものを伝えることが私にとっては最重要なことではあるのですが、

 

このようにエネルギーが循環し、互いを発展向上させてゆく空間を共有できる事が、私はとっても嬉しいのです。

またそのような場を作り出すことが、私にとっての一つの社会貢献であり、私の生き甲斐でもあるのです。

 

《呼応》が生み出す良き方向への発展。

 

それは武術に限らず、あらゆるシチュエーションにおいて、

私たちをより良き未来へと導いてくれる・・・

私はそう信じています。

 

 

2024年6月19日 小幡 良祐

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