おばた りょうすけ

プロの中国伝統武術家です。都内などで形意拳や八卦掌という伝統武術や武器術を教えています…

おばた りょうすけ

プロの中国伝統武術家です。都内などで形意拳や八卦掌という伝統武術や武器術を教えています。以前は18年間、茨城県警察科学捜査研究所・法医研究室で鑑定をやっていました。武術修行や科捜研勤務などで得た経験をもとに感じたことなどを書きます。京都出身。茨城大学農学部卒。旺龍堂代表。

最近の記事

練武知真第31話 『掌はココロから生える事と知る為の武術』

中国伝統武術「形意拳」や「八卦掌」では、防御は勿論のこと、攻撃においても『掌』を使う事が多いです。 特に「八卦掌」では、その名称が「拳」ではなく「掌」と記されるほど、多彩な使い方をします。 真っ直ぐ掌面で打つ。 掌面を振り下ろして叩く。 側方から張り倒す。 手刀にして振り打つ。 両掌を使って挟み打つ。 関節技を極める。 指先で突く。 指を使って掴み、抉る・・・など、 リストアップしたらキリがない程、掌は重要な「武器」になります。 さらに

    • 練武知真 第30話『清濁併せ呑む器量を育む為の武術』

      この練武知真シリーズで幾度も述べてきましたが、武術の元々の本分は闘いです。 伝統武術の中にはその要素が多く残されています。 例えば武器術。 槍や棍などの長い武器から、 刀や剣などの短い武器まで、 どれを手に取っても扱えるよう訓練します。 伝統武術に含まれる武器術は、表演用に開発されたものではなく、それを持って他者を打ち、斬り、刺して殺傷する為の技術です。 その背景は、 ルールがあり、審判がいて、試合会場で行うものとは異なり、 過日の日常において発

      • 練武知真 第29話『時間の概念を変える為の武術』

        スピード・・・ 武術は勿論のこと、多くのスポーツで重視される要素です。 誰よりも速く走り、 誰よりも速く投げ、 誰よりも速く動く。 武術や格闘技の世界でも、 速いパンチを放ち、 速いキックを繰り出し、 速い投げ技を極める。 その純粋な速さは、勝負の結果に大きく影響します。 私の教える伝統武術「形意拳」や「八卦掌」においても『速さ』は重要視します。 しかし・・・ 少し『速さ』の概念が異なるかも知れません。 武術に必要な『速さ』と

        • 練武知真 第28話『心に眠る野性を引き出す為の武術』

          やる気が出ない。 生きる目的が分からない。 生き甲斐を感じられない。 日々のルーチンに追われ、1日がアッという間に終わり、 そしてまた朝が来て、同じような1日が始まる。 周りとの協調性に気を遣い過ぎるあまり、必要以上に疲弊し、いつも疲れを抱えている。 休みの日には何もする気になれず、ダラダラと過ごしてしまう。 こんな話をよく耳にします。 私自身、そのような経験をしたことがあるので、その状況はよく分かります。 さて、本題に入る前に

        練武知真第31話 『掌はココロから生える事と知る為の武術』

          練武知真 第27話『他人との距離感を学ぶ為の武術』

          人との付き合いは、なかなかに難しいものです。 相手がどのような気持ちでいるかを心のうちで探り、 平和的な空気感を作り出すことに精を出して疲れてしまったり、 自分の主張を通そうとし過ぎて、逆に人が離れていって孤立したり。 家族間においては、互いの距離がグッと近く、 共に過ごす時間がズッと長くなる上、 共同生活者として付き合いの深さももっと深くなります。 人に合わせ過ぎると、自分が振り回されて疲弊し、 自分ばかりを立て過ぎると、人との間に軋轢を生

          練武知真 第27話『他人との距離感を学ぶ為の武術』

          練武知真 第26話『自分の価値は自分に置く事を学ぶ為の武術』

          武術には試合があります。 どちらが強いかを競い合い勝敗を明らかにする為に。 中国武術では『比武』と言ったりします。 元々は危機的な状況に対する自衛手段であった武術。 それが平和な時代に入り、日常的な危機はそれほど多くはなくなった代わりに、「戦闘的な強さ」を一つの価値基準とした「文化」へと発展してゆきました。 技はより巧妙になり、技術や訓練法も体系化され、文化の特徴でもある「伝承」も儀式等を伴って行われるようになりました。 人間は「強さ」に憧

          練武知真 第26話『自分の価値は自分に置く事を学ぶ為の武術』

          練武知真 第25話『時を越えて人と繋がることを学ぶ為の武術』

          私は伝統武術家です。 中国の伝統武術『形意拳』と『八卦掌』を長い間修行してきました。 当時茨城県に住んでいた、ハルピン出身の中国人伝統武術家 『趙玉祥老師』 に茨城大学2回生の時に出会い、卒業までの間、毎朝、小学校の校庭で形意拳のマンツーマン指導を受けました。 大学を卒業し、地元京都の警察官として働くことになり、趙老師と一旦お別れすることになりました。 そして・・・ 京都府警で2年間働いたのですが、色々な事があって辞職することに。 さて

          練武知真 第25話『時を越えて人と繋がることを学ぶ為の武術』

          練武知新 第24話 美しく生きる為の武術

          武術が護身の術として用いられていた時代。 武術は「食べる」や「寝る」のと同じ意味で「生きる」為に必要な要素でした。 不当な暴力から、自分を守り、自分の大切な人達を守り、自分の属するコミュニティーを守り、自分たちが生きる為に必要な物を守る為に。 時代は変わり、現代では治安が良くなり、不当な暴力に対しては基本的には警察が対応してくれるようになりました。 また闘争の手段も、素手や刀剣類から、銃火器やミサイルなど苦行を経なくても簡単に人間を殺傷する技術へとシフトしました。

          練武知新 第24話 美しく生きる為の武術

          練武知真 第23話『遊びが気付きを生み出す事を知る為の武術』

          心と体を緊張させ、歯をくいしばって努力する・・・ それでも物事が進まない時があります。 根を詰めれば詰める程、行き詰まり、先へ進まず、 苛立ちを覚える事も多々あるでしょう。 それは、努力が足りないのではく、視点の切り替えが必要な時。 一旦、その対象から意識を外し、思考をリセットする必要があります。 私はかなり集中し過ぎる傾向があり、武術において同じ動きを黙々と続ける事にさほど苦を感じません。 そうした訓練中に新たな気付きがあったりもします。

          練武知真 第23話『遊びが気付きを生み出す事を知る為の武術』

          『DAOI(道教芸術国際機構)』によるインタビュー動画公開

          『DAOI(Daoist Arts Organization International)』のYouTube チャンネルに私へのインタビュー動画がオンエアされました。 私の修行時代の話や、旺龍堂の生徒さんへの指導のスタンス、武術に対する考え方などを話しています。 - 【DAOI Talks (47): Chinese Martial Arts in Japan w/ Ryosuke Obata】 https://youtu.be/-IE7PGSxbkw?si=nXxF

          『DAOI(道教芸術国際機構)』によるインタビュー動画公開

          練武知真 第22話『伝えることを学ぶ為の武術』

          中国武術を知る者が必ず一度は耳にしたことがある『勁(けい)』。 力は流れるものだという思想に基づいて、大地からの反動力を体内を通して、拳や掌へと伝えます。 各関節の力みを抜いて、チカラを次へ、その次へと伝えてゆくのです。 どこか1つの関節が力んで動かないでいると、 チカラはその先へとは送り出されません。 また、一つの関節があまり大きく動き過ぎると、 伝達してきたチカラはそこで消費され、次へと伝わりません。 関節の動きがある程度で止ま

          練武知真 第22話『伝えることを学ぶ為の武術』

          練武知真 第21話『絶望から這い上がる心を学ぶ武術』

          不利な状況をどのように打開するか。 それは武術における根元的なテーマです。 複数人を相手にする場合を想定したフットワークや位置取りの研究。 武器を持った相手を想定した訓練をする為、自らもあらゆる武器に精通する。 武器には武器を。  また、こちらが素手である場合でも、武器を扱った経験があるかどうかで心のありようが変わってきます。 またもし戦闘中に負傷して片腕になった時にでも、「じゃあ諦めます」とは簡単には言えません。 武術ではどちらの腕でも脚でも

          練武知真 第21話『絶望から這い上がる心を学ぶ武術』

          『武術を通して』

          私が武術を通して叶えたいこと。 - 自己を整え、 自己を解放し、 天地と繋がり、自然を尊び、 人を愛せる人物・・・ - 強さと賢さと深い愛を併せ持ち、 現実社会と豊かに繋がりながら、 自分らしく生きて行ける人物・・・ - そのような人物をたくさん育ててゆきたい。 それはその人物だけでなく、その周りの人間をも幸せにする事ができる。 そしてそのような人物が増えてゆくことによって、自然に社会を幸せな方向へとわずかながらでも動かすことができる。 - -

          練武知真 第20話『変と化を知って向上する為の武術』

          長い間、武術を修行してきて気付いたことがあります。 それは「修行には2つの異なる過程がある」ということです。 同じ事を黙々と繰り返し、力を蓄え、向上してゆく過程。 そして、 やり方をガラリと変え、修行の質を変える過程。 この二つの過程の繰り返しによって、全体として高みに向かってゆくのです。 実際の例を挙げて説明しましょう。 形意拳の技の一つ【崩拳(ポンチェン)】という縦拳による中段突きについて。 形意拳は前進して技を打ち出す事を基本とし

          練武知真 第20話『変と化を知って向上する為の武術』

          【九宮八卦掌】套路・《第三掌:震宮八掌》と《第四掌:兌宮八掌》

          昨晩、旺龍堂YouTubeチャンネル【3spiritsryoken】に新しい動画をUPしました。 YouTube動画 【九宮八卦掌】套路・《第三掌:震宮八掌》と《第四掌:兌宮八掌》 Nine Palace Ba Gua Zhang’s The Third and Fourth Routines https://youtu.be/cLle-Ncg5hM?si=8tLxYaoPGetjA0o5 - 旺龍堂で教えている中国伝統武術《九宮八卦掌》。 創始者『董海川』から『

          【九宮八卦掌】套路・《第三掌:震宮八掌》と《第四掌:兌宮八掌》

          練武知真 第19話『呼応を学ぶ為の武術』

          武術にとって大切なもの。 それはたくさんあるのですが、 私がその全般を通して大切に思っているのが『呼応(こおう)』です。 呼び掛け・・・応える。 これは、 1人でおこなう練習も、 2人でおこなう練習も、 そして、 生徒さんへ教える指導の場面でも、 私にとってとても重要なことなのです。 例えば1人での練習。 「1人なのに何と呼応するのか?」 とお思いなる方もいるかも知れませんが、私が修する武術では呼応からは離れる事はありません。

          練武知真 第19話『呼応を学ぶ為の武術』