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特産の錦鯉を描いたNFTアートを「デジタル住民票」に 過疎化が進む中山間地域での関係人口づくりに取り組む 竹内春華さん〈前編〉

 5/25放送は、新潟県旧・山古志村(現・長岡市)でNFTアート(ブロックチェーン技術を使って「一点もの」であることが保証されたデジタルアート)の技術を使い、「デジタル村民」という新しい概念による地域おこしに取り組む竹内春華さん(山古志住民会議代表)の前編でした。 

「よそ者」として中越地震後の復興支援へ関わる

 新潟県の中央部に「山古志(やまこし)」という地域があります。2005年の市町村合併で現在は長岡市に編入合併していますが、もとは40平方キロほどしかない中山間地域の小さな村でした。20年前の中越地震を契機に、住民とともに山古志地域の未来を考え、その実現に向けて行動する団体「山古志住民会議」が立ち上がり、私は2021年からこの代表を務めています。山古志に移り住んでから早18年の時が過ぎ、私にとって今や自分の家族が住む場所であり、第2の故郷のようになっています。
 
 中越地震で旧・山古志村の人々は全村避難を強いられたのですが、その後多くの方が山古志に戻り、もう一度自分たちの村をつくり直そうと、本当に今日まで頑張ってこられました。しかしながら、人口は800人を切り、人口減少と高齢化がすすむ過疎地域であることが現状です。
 
 私は長岡市の隣の魚沼市出身なのですが、たまたま求職活動でハローワークを訪れた際、災害ボランティアセンターの職員募集を見つけ、応募しました。それは、地震のあとに山古志のみなさんが仮設住宅に入居されてちょうど3年目というタイミングでした。採用された私は「生活支援相談員」として山古志に赴任することになったのですが、当時住民の方々をはじめ、日本各地から来ていたボランティアや民間企業の方々、海外からの方も含めて、当事者のように一緒になって復興支援活動を行っていて「みんなで山古志を盛り上げていこう」という気運が醸し出されていました。
 
 震災当時の人口は2200人ほどだったのですが、約1700人もの方が全村避難のあとに戻ってこられました。8割以上の方々が、お金も労力もかかることを承知の上で、もう一度山古志に帰ろうと思われたのです。そしてその直後から私のような「よそ者」や多くの支援者が一緒になって、とにかく山古志全体を元気にするためにできることは全部やろう、手あたり次第やっていこうと、トライ&エラーをひたすら繰り返す日々が続きました。
 
 ところが、ふと立ち止まってみると、1700人で再出発したはずなのに、いつしか1000人を切るような状況になっていることに気が付きました。地域を開いてさまざまな活動を行ってきたつもりでしたが、実際に人口が減っているという現実をつきつけられたのです。「ここでなんとか踏みとどまらなければ」と、住民の皆さんともう一度話し合いを行った結果、「これまでよりもっと地域を開放して、日本中、さらには世界中から山古志の仲間を集めなければならない」との結論に至りました。

NFTアートを活用した「デジタル村民」の誕生へ

 もちろん初めは人口をリアルに増やす施策として、移住定住促進や子育て世代の誘致事業などを行いました。また、インフラ整備としてWi-Fiエリアを広げてみようとか、光通信を引いてみようといった取り組みも行ったのですが、残念ながら人は減るばかりでした。

 その一方で、わたしたちは常々、今の山古志があるのは、震災の時に学生ボランティアとして家屋の片付けを手伝ってくれて、今は社会人になっている方や、一定期間復興事業に携わってくださった民間企業の方たちのおかげだと思っていました。たとえ今山古志に住んでいなくても、いっときでも山古志に関わってくださった方々は、山古志をつないでくれた本質的な仲間の一人です。それを正式に認定できるような、なんらかのしくみを作れないだろうか、と考え始めました。
 
 そんなとき、かつて地域づくりを一緒に行い「最後の挑戦をするならあなたとしたい」と思っていた仲間から、当時まだあまり話題になっていなかった「NFT」という技術を使ってチャレンジしてみてはどうか、と意見をもらったのです。

 「NFT」とはNon-Fungible Tokenの略で、「非代替性トークン」と訳されます。分かりにくい言葉ですが、代替不可能、コピーや改ざんが不可能なデジタルアートを意味します。私たちは山古志の名産である錦鯉をモチーフに、錦鯉の模様の「唯一性」「独自性」を掛け合わせ、「Nishikigoi NFT」というものをつくりました。山古志の仲間であるという思いを込め、これを「デジタル住民票」として使用することで、購入してくださった方々をオンライン上の「デジタル村民」として認定することにしたのです。
 
 この「Nishikigoi NFT」が発行されると、すぐにデジタル村民になることができます。現在、国内外合わせてその数1700人ほどで、リアル人口の倍以上にものぼっています。

 山古志は高齢化率56%以上の超高齢地域なので、NFT発行当初は「デジタルってなに?」といった反応が多かったのは事実です。ところが、その後2年半ほどが経ち、デジタル村民の方々が「帰省」といって山古志に足しげく通ってくださる中で、住民のみなさんとリアルなコミュニケーションが生まれ、お互いの文化を分かち合い、自然に理解していただけるようになりました。最近では、老人会の集会などで茶飲み話をする中でもデジタル村民の話題が出たり、デジタル村民が集落にやってきて地域の草刈作業などを一緒に行ったりといった場面も頻繁に見られます。
 こうしてデジタル村民と住民のみなさんのリアルな交流が生まれた先に、新たな活動を展開しようと模索しています。

[追記]全国闘牛サミット

 放送の翌日、山古志にて「全国闘牛サミット」が行われました。
山古志の隣の小千谷市の一部に「旧二十村郷」という地域があり、ここに牛の角突き文化が残っています。これは、勝ち負けを決めるのではなく、家族のように育った近隣の牛と牛とをお相撲をとるようにじゃれ合わせて「引き分け」にする形で受け継がれている文化です。日本全国でこういった闘牛を行っている地域が9カ所あるのですが、たまたま今回会場が山古志になったため、放送の中でお知らせさせていただきました。是非、機会がありましたら山古志の闘牛を観にいらしてください。(http://yamakoshi.org/culture/tsunotsuki/)

◆中村陽一からみた〈ソーシャルデザインのポイント〉
  中越地震から20年が経ち、いったんは元住民の多くが戻ってきたものの、だんだんと人口減少や超高齢社会化が進んでしまった山古志地域において、ソーシャルデザインのツールとしての新しい概念を活用した地域づくりのお話をうかがうことができた。実際に地域に住んでいる人々と、時間や空間を乗り越えてオンライン上の関わりを持つ「デジタル村民」とがリアルに出会うことでよき関係性を結び、お互いに豊かな暮らしを紡いでいる。
 コピー不可能な唯一無二のデジタルアート(NFT)で、デジタル村民の認定を行う発想もとても魅力的だ。日本だけでなく、海外にも山古志の「デジタル村民」が存在することで、グローバルな関係人口もうまれている。世界規模で人口減少地域を盛り上げる素晴らしいソーシャルデザインの事例と言える。

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