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Till I hear you sing 〜《Love Never Dies》より|ラミン・カリムルー

 以前、《オペラ座の怪人》について書いたことがありました。

 そのつながりで、《 Love Never Dies 》のことを書きたくなって。

 厳密にはこの一曲↓↓のこと。

※動画の画面を小さくするアイコンをタップすると、聞きながら記事も読めます。下の方に歌詞の一部を引用しているので、対照させると愉しめるかも。


 ラミン・カリムルーは、押しも押されもせぬ世界的大スターですが、この曲を歌わせると右に出るひとはいないかも。そしてまた、他のどれでもなく、この曲を歌ってほしい。

 この《Love Never Dies》は、《オペラ座の怪人》の続編に当たるミュージカル。物語の舞台は10年後のニューヨークに移ります。
 前作のラストで、クリスティーヌへの美しき妄執を手放したかに見えたファントムが、でもやっぱり忘れられないんだ...頭の中にはこの世の物とは思えないピュアな音楽が鳴っているのに、それを歌う君の声がないんだ...と歌い上げるバラードは、ただただ圧巻です。(ファントムって、ミュージカル界屈指のこじらせキャラだと思う...😍)


 よく、声は楽器だとか言いますが、ラミンの声の、ピアニッシモからフォルティシモ、スフォルツァンドまで歌い上げる、なめらかな七変化を聞いていると。単に生まれ持った声質が良かったというだけの話ではないのだな、と思わされます。
 息の量とか声の硬度?や純度?とか、極めて技術的に鍛え上げつつ、最終的には全く自由に、役柄と情感にフォーカスできるところがすばらしいと思う。

 いくつかのアルバムを聞いたところでは、ラミンの素の歌声は私には訴求力がそれほどないみたい(すみません💦)。

 ところが、ファントムスイッチがONになるや否や、モノクロがカラーになったほどvividに浮き上がってくるので、我ながら面食らうのですが...。

 物語があり、ことばがあり、音楽があり、声がある――ミュージカルとは、私にとって、最も感情を揺さぶる表現形式といってもいいのかもしれません。

 低い音域には人間の魂の遍歴を、高い音域には崇高な祈りを。

 上に引いた動画の歌い出しよりも前の部分には、人生に対する深い虚しさや憤りが連ねられます。

 シェイクスピア劇で、リア王が嵐の中をさまよいながら怒号をうたいあげるように――人間にはそういうところって、あると思うのです。

 それでこそ、クリスティーヌの歌/愛を希求する祈りが、大輪の白い花となって花開くのでしょう。

 真善美のどれでもなく、愛こそが暗闇からひとを救い出すのかなあ...私などはつい、「美です🙋」なんて言いたくなってしまうけれど。

 いえ、たぶん、ファントムが求めているのは、美と愛を1対1で足したもの、なのですね。


 歌い出しの静かなパートが一番好きですが、歌詞は途中から引用します。

And years come
And years go
Time runs dry
Still I ache down to the core
My broken soul can't be alive and whole
Till I hear you sing once more

And music, your music
It teases at my ear
I turn and it fades away and you're not here

Let hopes pass
Let dreams pass
Let them die
Without you what are they for?

I always feel no more than halfway real
Till I hear you sing once more

🌹    🌹    🌹

 そして、A. L. ウェバーのメロディの美しさたるや。一度聞くとしばらくやみつきになる楽曲です。まさに "It teases at my ear" 状態ですね。

 マーラーの《アダージェット》に出てきそうなハープの静かなアルペジオ(朝もや)、遠いこだまのようなピアノの和音(さざ波)、森のため息のような管楽器。そよ風からカンツォーネまで歌い上げる弦楽アンサンブル。耳を傾けるとどこまでも広がっていくオーケストレーションも、胸を打ちます。


 ファントムとクリスティーヌの関係は、男女の恋というだけではなくて、人間の、芸術に対する愛憎相半ばする憧憬を、それぞれの人物に割り振ったもの。そこが、この物語の尽きせぬ深みともなり、また、表現者としてのウェバーにとっても特別な意義を持つ作品なのではないかと思います。(動画だとどうしても人間に目が行くので、音声だけの方がよいかもしれません。)

 クリスティーヌ=ミューズのことを想うとき、世界はにわかに彩りに満ちていく――そんなかすかな期待を込めた孤独なる夜明けに、彼は幾度、立ちつくしていたのでしょうか。

🌹    🌹    🌹

 いつもいろいろと思い悩む質の私。(note含め)なぜいつも書いているのか、ことばに焦がれるその果てに何を見ているのだろう、と...無心に書いている時間だけではなく、自分に問いを投げかけつつ手を止めることもしばしば。

 でも、こういった感情の直球勝負に耳を傾けると、いらない思いがすべてほどけて、浄化されたようなすがすがしさの中に立つ自分を発見します。(パッションに浄化されるっておもしろい。全力疾走したあとの、心地よい微睡みなのかもしれません。)

 幼い頃から出会いを重ねてきた物語や音楽などに、深く心を揺り動かされた、驚きや喜び。それらに対する、ごくシンプルな憧れが、今に到るまで私を書くことに向き合わせ続けているのかもしれません。

 ラミンの歌や声によるお芝居を聞いていると、思うのです。
 我が身のつたなさを省みず「誰かの心に触れたい」と、かりそめにも願うなら、気取ったり恥ずかしがっている場合ではなく、真摯に向き合うしかないのだと。結果、誰の胸にも響かなかったとしても、全力を出さなければ、と。

 書くことはまた、私の心を感動で包んだ様々なものたちへの感謝でもあるのだと思うのです。それが一見、感謝とは真逆のものに見えるときがあっても。

 あとは、創作する人たちへのエールでしょうか。外野から応援するのではなくて、私も同じ所まで降りて( "down to the core" ) いって、手をつなぎたいのです。

 ファントムも歌い上げているように、創作とは孤独を見つめる孤独な作業。お互いにそれを知る者同士として、絆で結ばれていたいと願っています。

 星をつないで星座を作るように――たとえその星々が、互いに何百光年も離れていたとしても。

🌹    🌹    🌹


 最後に、3人の歌い手
 ☆ Ramin Karimloo
 ☆ John Owen-Jones
 ☆ Ben Lewis
を比較している動画を見つけたので、ご紹介しておきますね。


 聞いていると、論評(ツッコミ)したくなるのですが、ここはもう口を閉ざして...それぞれお好みがあろうかと思いますが、やはりラミンはオリジナルキャスト最初に白羽の矢が立った人だけのことはあると思います☆


 さて、さて――。
 それぞれの【熱情】Appassionataに耳を傾けているうちに、青ざめた薔薇の蜜したたる夜も、ますます色を深めて参りましたね?

 どうぞ今夜は、みなさま、魅惑のダークファンタジーの夢の狭間へと、いざなわれますように。



※写真は@pixabayより

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