25 隙間の季節
新緑の渡し場に白鳥が来ている
まっとうに渡る冬鳥であれば、春先には渡りを終え、今頃シベリアで子育てに勤しむのであろう
彼はその豊かな白い羽をきちんと畳み、所在なさげに岸から伸びる桑の若葉をつついていた
遠くの茂みから、時折雉が鳴く
隙間の季節
暑くも、寒くもない。明るくもないが、暗くもない。死にたいわけでもないが、生きているには物足りない。ひととおりすべて揃っているようで、なにもない。寂しくはないが、ひとりだ。
人生の節目節目にも、この隙間の季節というのは到来する
あわただしく一瞬である場合もあれば、数十年、続くこともある
羽毛のような隙間の季節に挟まって、あてもなく、心地よく、ひとり漂う白鳥たちが、世界中に果たして何万羽、溢れていることだろう
それでも、世界は、美しい
思いがけず巡り逢えた白鳥の白さにいくぶん遠慮しながら、もう少しだけ一緒に、隙間の季節を味わおうと思う
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?