アルスラーン戦記21巻 【ネタバレありマンガ感想文】 血統主義を切り裂いて
★★★★★
Amazonでレビューしたものです
0.神と剣と魔の時代
中世ペルシャ風のパルス王国に、一神教を信じ他の宗教を頑なに認めないルシタニア王国の軍が攻め入った。パルスの圧勝と思われたが、アトロパテネ平原での戦闘で大敗を喫する。その影にはパルス将軍の寝返りと、怪しげな魔道を使うものたち、そしてルシタニアに協力する銀仮面の男の策略があった。国王と王妃は捉えられ、王都は侵略支配され、パルス国民の血の雨が降る。
国王の一子・王太子アルスラーンは14歳。この戦いが初陣だったが、万騎長ダリューンとともに2騎で敗走して追手の手を逃れ、ダリューンの旧知である智将・ナルサスとその従者で元奴隷のエラムを仲間にする。その後も、女神官ファランギース、楽師ギーヴなどの頼もしい仲間たちを得て追手をかいくぐり、まだルシタニアの手が及んでいない東のペシャワール城へ辿り着く。
東に残った将軍と兵たちと王都奪還を目指すが、パルスの状況を見た、インドっぽいシンドゥラ国、モンゴルっぽいトゥラーン国の攻撃を受け、それぞれを退ける。その中でたくましく成長しつつ、ナルサスに真の王とは政とは正義とは何かを教わり、奴隷制の廃止について考えるようになるアルスラーン。しかし、銀仮面の男は現王の兄の息子で、現王に暗殺されかけ生き延びたヒルメス殿下であり、アルスラーンは現王の血を引いていない可能性が浮上した。そこへ脱走した王と王妃が逃げ延びアルスラーンの元へ合流。アルスラーンは王によって5万の兵を集める指令を受け、事実上の追放となり、わずかな仲間と共に南の港町へ向かった。
王都を占拠したルシタニア軍内部にも綻びが生じた。国王は政を王弟に丸投げ。大司教ボダンは国王や王弟に反旗を翻して遁走。さらに王弟と手を組んでいたヒルメスも、パルス将軍を味方にして兵を集め袂をわかった。ヒルメス軍は王都をルシタニア軍から奪取したが、都は水も壊され宝物も奪い取られ荒廃し切った状況にされていた。そんな王都へ、パルス国王軍が向かう。
都から移動するルシタニア王弟・ギスカールの軍に対し、アルスラーン軍がアトロパテネの平原で再度激突。そこへ大司教ボダンの軍が両者に襲り三つ巴の戦闘になるが、アルスラーン軍が勝利した。
そして、アルスラーンは、国王軍を忍んで訪れ、王妃から自分が実の子供ではないことを知る。。
1.王家の血統を守るために
前の巻で、パルスに侵攻し長らく支配してきたルシタニア軍を追い出すことできました。
まあ、まだ囚われた国王・イノケンティスが残っていますが、とりあえず外敵の排除には成功した形になります。
しかし国内は分裂状態となり、突如現れた先王オスロエスの息子を名乗るヒルメスが王都を支配しており、それを国王軍が取り囲むこう着状態となっていました。
ルシタニア軍を排除したアルスラーン。彼が密かに国王軍を訪ねた時、丁度すれ違いでアンドラゴラス国王は密かにヒルメスに会いに行っていました。
アルスラーンと王妃タハミーネ、ヒルメスと国王アンドラゴラスの対話が並行して描かれます。
タハミーネの語る内容は、アルスラーンは王と王妃の子ではないという、ある程度予想された内容を補強し、詳しく説明するものでした。
一方、アンドラゴラスの話す内容は、意外なものでした。
①人妖タハミーネ
タナミーネも可哀想な人ではあります。
当時の時代から、彼女の美しい容姿は整形ではなく、生まれ持ったものでしょう。
醜く生まれたのがその人のせいでないのと同様に、美しく生まれたものもまたその人の罪ではありません。
婚約したら、美しいからと夫の上司に無理に奪われあるいは差し出されて妻にされ、その結果国が滅んだと言われ、今度はその国の王に、その弟のものとされ。
人はものではないのに、女は権力のある男のものとされてしまう。希望しないのに無理やり手籠にされて、力づくで連れ去った相手に笑いかしづくことを強要される。相手が国家元首で、力づくで手に入れた女の魅力に夢中になり政が疎かになると、傾国の美女と恐れられ疎まれる。
しかし、彼女は、15年も表面上は母子であったアルスラーンに愛情をかけることはなく、むしろ自分の子供を思い出して憎んでいたと告白します。
入れ替えの養子とはいえ息子を前にしても、自分の娘の話ばかり。
さらには、アルスラーンの実父を養父母を利用して殺すことに、特に葛藤も後悔もない様子です。
母親ってそこまで自分の子供が可愛いものでしょうか。
自分の子供さえ良ければそれで良いのでしょうか。
アルスラーンは、自分を最後まで理解しなかった母に決別します。
彼女とその娘の再会を祈りながら。
②呪われた王家・呪われた血・呪われた子
ヒルメスの生まれも結構複雑かつ忌まわしいものでした。
元々は呪術師の予言ということですが、今回出てきた魔導士でしょうか。
ヒルメスは現王の兄である先王オスロエスの子ということになっていましたが、実は、その先代、オスロエスとアンドラゴラス兄弟の父である、ゴタルゼス王の子だったのでした。
パルス王家の血が絶えるという予言に悩んだゴタルゼスは、それを解決するため予言に従い、息子の妻を自分に差し出させて子供を作ったのだそうです。
そして、それに苦しみ悩んだ息子たちは、父を殺した。
ヒルメスは王家の血を引いてはいるものの、正当な子ではなく、呪われた子でした。
父と慕っていた兄に死を望まれるほどに。
マクベスのようですねえ。
予言にうまく操られ破滅の道をいく。
このヒルメスのお母さんはどうなったんでしょう。先王の妃になるはずの人ですが、ヒルメスの回想でも出てきたのはお父さんと思っていた人でした。
一度も出てきていないので、きっと亡くなってしまったんでしょうね。
こちらも秘密を守るために口を封じられたのでしょうか。後継を産んだら用はないと。
ヒルメスの支えであった”正当な王位”は揺らぎます。
2.抜けない剣を手に
血統こそ全てのヒルメス。
血統があり、尚且つ実力もなければ認めないアンドラゴラス。
血統のため無能なまま王になったイノケンティスに、能力が高くても王になれなかったギスカール。
奴隷の血を跳ね除けて王になったラジェンドラ。
色々な王が今まで出てきました。
血統を持たないアルスラーンは、ついに自らの意志で王位を手に入れると宣言します。
自らの手で王位をとりに向かうアルスラーン。
一方正当性が揺らぐヒルメスは、愚かにも戴冠式を執り行い、苦しむ民衆の不信を煽り、怒りを買います。
民のことを考えて行動したアルスラーンに、民衆からのコールが重なります。
皆に鍛えてもらった結果得た実力と声援、確固たる覚悟により、見事ヒルメスを追い落とし、勝利を宣言しました。
しかし、そこへ現れたのは・・・。
3.蛇王参戦
蛇王ザッハーク。
300年経っているんだそうです。
一気にファンタジーの本当の化け物が姿を現してしまいました。
そろそろお話も終わりが近そうな印象ですが、ここへきて新たな参加者が。。。
どうするの、こいつ。。
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