ショートショート24 『あなたは3億円欲しいですか?』

『あなたは3億円欲しいですか?』

みんなも自分に当てはめて考えてみて


「お金欲しいですか?」
「え?はい、欲しいですけど」
「3億円欲しいですか?」
「え?はい!欲しいです!」
「ではあなたのその両目を3億円で売ってもらっていいですか?」
「え?いやいや、それはムリ」
「では、あなたはすでに3億円以上の価値のあるものをお持ちなんです」
「…はあ、まあ確かに」

この会話は
お金欲しいのがもちろん私で
何か上手いこといってきた人が
いわゆる“自己啓発”に詳しい人だったんだけど


ネットとかで調べても似たような理屈?っていうか啓発がたくさん出てきた

まあつまりさ
この話の真意はさ
日々当たり前にあるものに感謝しましょう
当然と思ってる事柄にも実は素晴らしい価値があるのです
ってことだよね


分かる分かる


分かるんだけど、なんだろ
リアリティーがちょっと無さすぎるんだよねえ
3億っていうのもピンとこないし、目、っていうのもなんか怖い


もうちょっとさ、女子高生の私でも分かるさ
もっと日常の啓発を考えてみるね
あ、お金もギリギリピンとくる100万くらいにしてみよ

うーん…

例えば…


「100万円欲しいですか?」
「はい!欲しいです!」
「では、あなたの爪を一生、深爪にしていいですか?」
「え、ムリ。かわいいネイルとかしたい」
「ではあなたはすでに100万円以上の価値のあるものをお持ちなんです」
「いや、やっぱ待って。そもそもネイルにもお金かかる訳だから一概にそうは言えないんじゃ、でもつけ爪って手もあるし…うーん」



うーん…
何か違うな…
でも実際ネイルはしたいからネイルできることに100万以上の価値あるのかもね
でもちょっと迷ってる時点でこれは違う





「100万円欲しいですか?」
「はい!欲しいです!」
「ではあなたは傘を一生使えなくなっていいですか?」
「え、ムリかも。髪の毛濡れたらくせ毛すごいもん。ボンバー。ムリムリ。絶対濡れたくない」
「ではあなたはすでに…」
「いや、でも待ってよ。雨の日なんてそんな多い訳じゃないし、でも梅雨の時期しんどそうだしなあうーん」


うーん…
100万て割とむずかしいなあ
いやこれは人によるかもだけどね?
濡れるのけっこうイヤなんだよ私
せっかくのストレートアイロンも台無しになっちゃうよ
でも、なんか迷う
絶妙
別に傘使えなくてもいいっちゃいい
もっといいラインのやつ…
あ!これならどうだろ







「100万円欲しいですか?」
「はい!欲しいです!」
「ではあなたのおっぱいを無くして…」
「もういいです」



違う違う違う
こんなんじゃない
おっぱいは大事
お金に変えられない
そんなにないけど
やかましわ

てかさ

そもそも何でこんなこと考えてるかっていうとさ
何で自己啓発なんてものに乙女が興味もったかっていうとさ
悩みがあるからなんだよねえ
でもなんか考えてるうちに答えは出てきたよ
流石、啓発


そもそも全てに価値はあって
息してることに価値があって
人を好きになることに価値があるんだよねえ
最初から分かってたことだったわ
今日はさ、迷ってる行動の“価値”を確認したかったのだよ
うへへ

つまりこういうことだ




次ラスト




「100万円欲しいですか?」
「はい!欲しいです!」
「ではあなたは一生、好きな人に思いを告げれなくなってもいいですか?」
「ムリムリムリ。待つだけの人生になるってこと?そんなの考えただけで怖いことだよ」
「ではあなたはすでに…」
「うん、分かってる。100万どころか3億でも私には変えがたい価値があるよ」






じゃ、ちょっくら、行ってきますっ






~文章 完 文章~

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