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ノルウェーの介護保険制度


前回の記事「ノルウェー理学療法士の新時代:シフト制導入を巡る議論と未来への展望」で、読者の方から「ノルウェーの介護保険制度についてぜひ記事にしてください」と有難いコメントをうけたので、私なりにまとめて、自分の職場での経験も含めながらお話しさせてください(^^)/出来るだけ分かりやすく説明できるよう頑張ります!

そもそも(高齢者福祉に限らず)ノルウェーの福祉全体を≪まわしていく≫ための財源は?

ノルウェーは包括的ユニバーサル医療システム=すべての人およびすべての地域社会が、財政の困難に遭うことなく必要な医療保険サービスを持ち、わたしたちが払う税金と公的補助金を通じて資金を調達しています。

以下は、ノルウェーの健康・介護サービスの主な資金源です:

1. 一般税金

健康・介護サービスの資金の大部分は、所得税、法人税、付加価値税(VAT)などの一般税金から調達されます。これらの税収は国の財政に集められ、国家予算を通じて各セクターに配分されます。

2. 社会保険料

ノルウェーの労働者と雇用者は、社会保険料を支払います。これにより、国民保険制度(NAV)が運営され、健康サービス、病気手当、年金、失業給付などが提供されます。労働者は収入の一定割合を、雇用者は賃金の一定割合を納めます。

3. 地方税

地方自治体(コミューンとフィルケ)は、主に所得税から成り立つ地方税を徴収し、その資金で一次医療サービスや一部の専門医療サービスを提供します。これには、家庭医制度、訪問看護、介護施設などが含まれます。

4. 国からの補助金

ブロック補助金(Bloktilskudd)は、用途が特定されていない国からの補助金で、地方自治体が自由に使用できる資金です。この補助金は、裕福な自治体と貧しい自治体の間の経済的不均衡を是正するためにも用いられます。

5. 利用者負担金

公的資金で大部分が賄われる一方で、特定の医療サービスには利用者負担金があります。患者は、診察料や物理療法、一部の専門医療サービスなどの利用料を支払います。しかし、年間の自己負担額には上限が設けられており、一定額を超えると追加の費用負担は免除されます。

これらの資金源を組み合わせることで、ノルウェーは国民全員に包括的で利用可能な医療サービスを提供するための経済基盤を確保しています。

では、高齢者のための医療サービスはどのようにお金をふりわけているの?

公的負担

ノルウェーでの高齢者福祉サービスは、主に公的に運営され、地方自治体(コミューネ)が中心的な役割を果たしています。地方自治体は、地域住民に対して必要な介護サービスを提供する責任を負っており、その財源は主に以下のような公的収入から賄われます:

  1. 国からの補助金: 国家予算からの補助金は、地方自治体が介護サービスを提供するための主要な財源です。オスロ市の2022年の予算において、地方自治体の財源の約45%が国からの補助金で賄われています。この補助金は「ブロック補助金」として提供され、特定の用途に限定されず、地方自治体が自由に予算配分を決定できます。

  2. 地方税収: これは住民から徴収される所得税や財産税を含み、地方自治体の運営資金として使われます。

  3. 利用者負担料金: 介護サービス利用者からの一部負担金も財源の一部です。短期リハ施設を利用するのも、老人ホームに住むのも無料ではありません。利用者さんのほとんどの場合負担金が発生します。

どのような高齢者福祉サービスにお金(財源)を使っているの?

具体的な割合や金額は毎年の国家予算によって決定されますが、福祉と医療サービス全体で国家予算の約30%以上が使われることが一般的です。

おおまかなサービス内容

  1. 在宅ケア:

    • 訪問介護や訪問看護、日常生活支援などが提供されます。これにより、利用者は自宅での生活を維持しつつ必要なケアを受けることができます。

  2. 短期入所:

    • 短期間のケアが必要な場合に提供される施設サービスです。例えば、回復期リハ施設や同居する家族が休暇を取る際の一時的な短期施設利用などがあります。

  3. 長期ケア施設:

    • いわゆる老人ホーム。長期的に継続的なケアが必要な場合に入所する施設で、日常生活全般にわたるサポートが提供されます。

サービスを利用する高齢者の方がいくら払わないといけないの?

介護サービスの利用者は、所得に応じて一部の費用を負担します。負担額は利用者の経済状況に基づいて決定され、全体のコストは公的負担によって大幅に軽減されるため、負担は比較的軽いです。例えば老人ホームに入居になった場合、その人の1年の収入の75%~85%がその人が老人ホームに払う金額となります。

例:私の働く回復期リハ施設を利用する場合

どこに住んでいるかによっても少し変動しますが、オスロ市回復期リハ施設の場合、利用者負担金額は1泊最大約3000円(193Krone)(2024年現在)です。利用料には医療費はもちろん、部屋代・食事代・薬代・トレーニング代・介護介助代・滞在中に必要な移動費(病院での検査)が含まれています。利用者さん本人(もしくはご家族)が負担しなければいけないものとしては洋服洗濯・ヘアカット・フットセラピー・ごく一部の商品(ストッキングなど)は自己負担です。

誰もが自分が受けたいサービスを受けられるの?

答えはNOです。介護サービスを受けるためには、利用者さんの希望ももちろん考慮されるべきですが、実際は専門の評価とアセスメント・承認が必要です。利用者さんとともに地方自治体の職員や専門家が利用者の状況を評価し、適切なケアプランを作成します。

。。。が実際のところは?

以下は私の経験・個人的な感想です。
人手不足・財政難・デジタル化が進むノルウェーでは在宅ケアをまずは第一としています。私の働く回復期リハ施設にいらっしゃる利用者さん(患者さん)はほとんどが80歳以上のフレイル度(要介護度)が高い方がほとんどです。「老人ホームに申請したけど、今まで3回却下された」という患者さんを何度も見てきました。

回復期セラピストVS生活期セラピスト/自治体ケアワーカ―

※私の経験に基づくエピソードです。
患者さんの今後に関して、回復期と生活記の専門家の意見が食い違うことは多々です。回復期PTの私は勤務時間の8時から15時まで担当の患者さんの様態を見ています。夜中に起こったことも看護師同僚から話を聞きながら、介護・介助レベルの看護師・介護士の視点から日々検査評価をする日々です。施設の中で起こる自宅退院への不安項目(あきらかな認知低下・改善しないせん妄・痛みの増加・ADL低下・本人自身が自宅に帰りたくない)など定期会議で自治体の方と議論することが多々です。その中で回復期の医療従事者と生活期の医療従事者の意見が真っ二つに分かれることが多いです。議論のテーマは決まって「この患者さんは自宅に退院できるかできないか?出来ないとしたらなぜか?できるようにするにはどうすればいいか?」

私の一言でその患者さんの今後が左右されることも、今までよくありました。この件に関しては他の記事として投稿させてください。

以上、つたない文章でしたが、ノルウェーの介護医療サービスにかんしてお話しさせていただきました(^^)/

参考文献

  1. Commonwealth Fund. (n.d.). Norway | International Health Care System Profiles. Retrieved from Commonwealth Fund

  2. Expat Focus. (n.d.). Norway - Elderly Care. Retrieved from Expat Focus

  3. Oslo kommune. (2022). Budsjettforslag 2022 og økonomiplan 2022–2025. Retrieved from Oslo kommune

  4. Oslo kommune. (n.d.). Pris for sykehjemsplass. Retrieved June 24, 2024, from https://www.oslo.kommune.no/helse-og-omsorg/omsorgsbolig-og-sykehjem/sykehjem/pris-for-sykehjemsplass/#gref

  5. NAV. (n.d.). Grunnbeløpet i folketrygden (G). Retrieved June 24, 2024, from https://www.nav.no/grunnbelopet#om-grunnbelopet




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