見出し画像

上場企業の開示について

3月決算の上場企業の皆様にとっては、今月中旬には決算発表を行い、ようやく決算監査が落ち着いてきた頃かと思います。
手続的にはこれから1ヶ月くらいのうちに、株主総会、有価証券報告書の提出があるものの、監査法人による結果報告会が5月中くらいには行われ、監査対応は実質的に終わりつつある状況ではないでしょうか。

上場企業の期末の決算開示においては、金商法に基づく有価証券報告書、会社法に基づく計算書類、証券取引所の規則に基づく決算短信を作成しなければならず、また四半期においては金商法に基づく四半期報告書と、同じく証券取引所の規則に基づく四半期決算短信を作成しなければならないことから、企業の事務負担が大変であることが言われてきました。

先月、上場企業に四半期ごとに開示を義務づけられている四半期報告書について、政府が廃止する検討に入った、とのニュースが流れました。内容的に重複が多いため、企業側の事務負担を軽減することを目的として、四半期報告書を証券取引所の規則に基づく決算短信に一本化する方向とのことです。金商法に基づく開示義務はなくなるものの、四半期開示は維持されるため、一本化された後のボリューム、監査法人によるレビューの要否等で実際の負担軽減にどの程度繋がるか現時点でははっきりしませんが、経理の現場では関心が高くなっています。

そこで今回は、四半期開示制度の変更が予定されていることを機に、上場企業の開示についてあれこれと検討してみたいと思います。

1.四半期開示は必要か?

日本において四半期開示が行われるようになったのは、実はここ20年くらいのことです。今年の東証の市場再編によりグロース市場に統合されましたが、その前身の1つであるマザーズ市場が1999年に創設された際、マザーズ上場企業では当初より取引所規則で四半期開示が要求されていました。四半期決算短信が全て上場企業に拡大されたのは2003年からで、金商法での法定の四半期開示が義務化されたのは2008年からと、意外と新しい制度です。

このように日本で四半期開示が導入されたのは、当時は欧米、アジア諸国では四半期開示が一般的となって来たため、国際間での比較可能性を担保して日本企業の国際競争力を高めることが必要との認識や、企業を取り巻く経営環境の変化が激しい時代となったことで、投資家に合理的な投資判断を促すためには上場会社の経営成績・財政状態の変化等に係る有用な情報を、より高い頻度で定期的に開示されることが適当と考えられたことによるものでした。

それがここに来て見直されている背景として、企業に四半期開示を要求することが、投資家や経営者にとって中長期的な企業の成長よりも短期的な利益を志向することを助長しているのではないか、ということや、作成負荷が働き方改革の流れに反する、といった意見がある他、この10年内に英国やフランス、ドイツで四半期開示の法定義務が廃止されてきた国際的な流れも影響しているようです。

但し、法定の義務はなくなっても、国により大半の上場企業は四半期開示を続けたり、取引所の規則では市場により四半期開示義務を残しているように、日本で現在検討されているのは四半期開示そのものをやめるわけではなく、四半期決算短信と四半期報告書という、一部内容の重複する開示書類を一本化して作成の事務負担等を軽減することを狙ったものになります。

やはり四半期開示そのものをやめてしまうと、情報開示の後退になりますので、四半期開示そのものは維持し、簡易であるがスピード重視の四半期決算短信と、監査法人によるレビューを受けるので時間がかかるが内容がより充実した四半期報告書のいいところを合わせて、バランスの取れた開示内容、開示制度となることを期待したいと思います。

2.非財務情報の開示の充実

また、最近では財務情報以外の開示情報として、相対的に財務情報の価値が低下し、非財務情報の重要性が高まって来ています。ある分析によると、主要企業の時価総額から有形資産の評価額を引いた額を無形資産の価値と考えると、日本が32%に過ぎないのに対して、米国はこの比率が90%を占めているようで、その理由の1つに、非財務情報の開示が遅れているため、潜在的には日本企業にも存在する無形資産の価値を投資家に伝えきれていない可能性があります。

非財務情報とは、有価証券報告書等の制度開示で言えば、事業リスクやMD&Aと言われる経営者による財政状態や経営成績の分析、コーポレートガバナンスの状況などがあります。また制度開示を離れると、中期経営計画の他、CSR報告書やサステナビリティレポートのようなESGについての開示情報が挙げられます。

国連による持続可能な開発目標(SDGs)が採択されてから、持続可能な社会への企業としての貢献が重視されるようになり、期間投資家もESGに積極的に取組む企業へより多くの投資を行う傾向が顕著になって来ており、非財務情報の中でも、ESG関連の情報を充実させ正しく伝えることで、無形の価値として評価され、企業価値を高めることに繋がるかもしれません。

非財務情報については、財務情報と違って統一的な開示基準や監査の制度がないため、その信頼性や比較可能性が課題でしたが、サステナビリティ関連の開示では国際的な流れとして統一の動きがあります。その1つとして、IFRS財団が昨年、サステナビリティ報告基準の設定主体となる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、ISSBは2022年の3月末には、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連開示基準の公開草案を公表しました。

このような世界の動きに呼応する形で、日本においては、2021年の6月に金融審議会でディスクロージャーワーキング・グループが設置され、サステナビリティに関する企業の取組みの開示や四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング等につき、企業情報の開示のあり方が検討されてきました。その報告案によると、今後、有価証券報告書の中で、サステナビリティ情報を一体的に提供する枠組みとして、独立した「記載欄」を創設することが提言されるようです。

また、2018年に公表されたISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)において人への投資の重要性が強調されており、これを受けて2020年にSECが人的資本に関する情報開示をルール化したことに伴い、日本においても2021年のガバナンスコードの改訂で補充原則として追加されました。そこで、人件費を単にコストと捉えるのではなく、人的投資を資産と捉えて適切に投資しているかを投資家が判断出来るよう、人的資本や多様性に関する情報について開示を充実することも、当該ワーキンググループの報告案に盛り込まれています。具体的には、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報に指標とともに記載したり、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」について、有価証券報告書の「従業員の状況」の中で開示することが提言されています。

政府は、早ければ2023年度の有価証券報告書から人的資本に関する一部の情報が記載される方針で、来月辺りには、人的資本への投資を企業がどのように開示すべきか、19項目に整理してまとめるようです。

このように、今後近いうちに、四半期開示の統一や非財務情報の充実が図られる意味で、上場企業にとっては情報開示の大きな転換期にあると言えます。環境変化のスピードが速く、将来が不透明・不確実で、また各社とも事業が多角化している現在の状況において、時間をかけて多大で画一的な情報開示をしても、投資家にとって有益な情報かどうかは分かりません。
投資家に伝えるべき情報の原理原則を定め、情報の重要性に応じてどこまで開示すべきか、開示する場合の表現の仕方は各企業が創意工夫をしていくことが、今後は期待されるのではないでしょうか。企業の競争力の原動は差別化です。
差別化することこそ戦略ですから、企業も情報開示を重要な経営戦略の1つと位置付け、法定、あるいは取引所の規則で要請される開示は最低限とし、今でも多くの企業が行っている決算説明会資料等、企業がそれぞれ自社の情報開示として適切なものを開示する時代になっているのではないかと考えます。(作成日:2022年5月25日)

■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 花房 幸範

6/10開催オンラインセミナー「ESG投資の正しい理解ーそして、サステナブルファイナンスへ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?