新興上場アパレルブランドのクラシコムとyutoriの決算数値比較
株式会社Bizgemでは「すべてのクリエイターに良質な経営を提供する」をミッションに各種コンサルティングサービス、ECサイト開発サービスを提供しております。
弊社ではこれまでにも、上場企業のIR資料を用いて各種分析を提供してまいりました。
今回は2023年11月24日に上場承認がおりた株式会社yutoriと2022年8月に上場した株式会社クラシコムの2社の各種数値を比較してみたいと思います。
売上総利益率は自社生産のyutoriが高いがクラシコムは販管費比率が相当低い
売上総利益率に関してはクラシコムが43.36%に対して、yutoriは54.64%とyutoriの方が10%ほど高くなっています。これはクラシコムは完全オリジナルの商品だけを販売しているだけでなく、仕入商品を販売しているためその分、売上総利益率が低くなっているものと思われます。この点はクラシコムも意識しており、決算説明資料ではオリジナル商品比率の高まりとともに商品原価率が年々下がっていることを伝えています。
人件費比率についてはクラシコム7.82%とyutori8.54%と大きな差がないように見えます。どうしてもInstagramやTiktokなどの動画コンテンツを運用する上では人員数が必要になるため、ある程度高めの人件費比率になってしまうように思います。冒頭でご紹介した「上場D2C企業の一人あたり売上高と人件費比率の比較」で調べたところ、ECモールが売上の大半を占める企業では人件費比率が4%前後となり、その分、モールに対する販売手数料が高くなり、その他販管費の比率が高くなるようです。前職の子供服の経験からもこの人件費の比率と販売チャネル・マーケティングに対してどの程度コストをかけるかの決定がそのブランドの強みに直結するものであると感じています。
販売管理費の比率ではクラシコムが27.43%に対して、yutoriが56.57%と大きく差がついています。クラシコムが100%自社ECにて販売しているのに対して、yutoriは新規上場の目論見書においてもZOZOの売上比率が31.5%とECモールの比率が高いことが影響し、販売管理費が高くなっているものと推測されます。一方で目論見書にも今後は自社ECサイト強化により、ZOZOの売上比率は下がっていくことが書かれているため、販売管理費も同様に比率が下がるのではないかと思われます。
一人あたりの売上総利益には大きな差がない
2023年7月期のクラシコムの従業員数は87人、yutoriの従業員数は47人となっています。一人あたりの売上高はクラシコム6,966万円に対して、yutori5,255万円と差がありますが、上記の通りyutoriは自社生産比率が高いため一人あたりの売上総利益では3,020万円に対して2,871万円と差が小さくなります。
クラシコムは仕入モデルゆえに在庫日数が短い
クラシコムは仕入モデルを採用しているため、必要な時に必要な在庫を仕入れればよいため在庫日数を短くコントロールしやすいと言えます。同様のことが仕入とオリジナル商品を販売しているしまむらにも言え、しまむらの在庫日数も他のアパレルブランドに比べると短くなっています。
それでも1ヶ月分の在庫を持っているだけなので、相当効率よく仕入→販売のサイクルが回っていると言えます。在庫日数をもう少し伸ばして売上を伸ばすという選択も取れそうな財務諸表に見えます。
一方でyutoriに関しては在庫日数が146日と、トレンドを扱うアパレル企業であれば60〜120日程度の企業が多い中では若干重たく映り今後の課題なのかもしれません。ここは急成長しているがゆえの成長痛とも言え、適切に在庫コントロールすれば問題ない範囲に収まると言えるでしょう。もちろん在庫が入るタイミングによって在庫日数は膨らんでしまう指標のためまったく問題なく健全な水準である可能性もあります。
顧客層の違いからか注力SNSは大きく異なる
SNSをマーケティングの主力ツールと使うとは言っても、SNSごとにメインユーザーが異なり注力しているSNSが異なるというのが各SNSの数値を比べた時に見えてきます。アパレル事業のため相性のよいInstagramについては両者とも積極的に取り組んでおりフォロワーが100万人を超えています。一方でX(旧Twitter)についてはどちらも10万フォロワーを超えておらず、注力度も低いように感じられます。
10〜20代を中心としたZ世代をターゲットにするyutoriはInstagramに加えTikTokにも注力しており、フォロワー数がInstagramよりも多くなっています。
それに対してクラシコムはLINE・Youtubeを重視しており、顧客層としては30代以上の女性を中心としているように感じられます。特にアプリは300万ダウンロードを超えて最も注力しているように見られます。IR資料にもアプリダウンロードを促進するために広告宣伝費を投下していることが書かれており、注力度が高いことが見受けられます。
300万ダウンロードを超えたタイミングでリリースも出しており、リリースによると2023年5月には65%がスマホアプリ経由の売上となっていると書かれており、アプリによる定期的な顧客接点の構築が効果的に行えていることが伺えます。
同業者の上場資料を読み解くことで自社に活かせることは非常に多い
その他Twitterでもつぶやきましたが、同業種の上場資料には自社に活かせるヒントが数多く書かれています。yutori、クラシコムともにSNSマーケティングを中心としたアパレル業という業界の中で注目している人の多い領域かと思います。他にもyutoriのIRでは、広告宣伝の際にCPCが10円切っている動画が全体の10.9%であること、Sランク商材を500万円以上の売上と定義し、約2割がSランク商材の売上であることなど、アパレル事業を運営する上でキーとなる指標がたくさん書かれています。
読み慣れていない人にはなかなかとっつきにくい資料ではあるかと思いますが、ぜひ一度チャレンジしてみることをオススメします。
株式会社Bizgemでは上場企業のIRデータを元に、各ブランドごとの目指すべき数値、在庫日数の設定などから管理オペレーションの構築といった業務も請け負っております。時代の波に乗ることで一気に売上拡大が可能な一方で、トレンドを外し時代に見放されてしまうと売上が一気に落ちてしまう怖い事業だからこそ、厳格なキャッシュフロー・在庫管理が重要と言えます。こういった管理業務の構築もお手伝いが可能ですのでお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。