見出し画像

【BI-TO #03】未来の社会×備前 陶器ごみから生まれた再生備前「RI-CO」(株式会社the continue. 牧沙緒里さん)

「土から生まれた陶器は、土に還らない」

 土そのものの風合いが魅力の備前焼ですが、これは意外にも知られていない事実です。そんな中、2021年に耐火レンガのリサイクル技術を活用した再生陶器「RI-CO(リッコ)」が誕生しました。発売から3年ーー。今「RI-CO」がどんな未来を目指しているか、株式会社the continue.の牧沙緒里さんにお話を伺いました。(文:南裕子)

株式会社the continue. 牧沙緒里さん。溌剌とした明るさが印象的でした。

――再生備前が生まれた理由
 前職では司法書士としてさまざまな経営相談を受けてきた牧さん。そこで備前焼について相談を受けた時、大量の陶器ごみの存在を知ります。限りある貴重な資源として土を大切にする意識が高い一方で、破損や焼き損じが理由で生まれた陶器ごみは、ただ廃棄処理をされていると知り衝撃を受けました。

破損や焼き損じが理由で生まれた、備前焼の陶器ごみ

 しかし、同じ備前市内の産業・耐火レンガ業界では、社内の廃レンガを99%リサイクルできる技術があり、それを備前焼に応用しない手はないと牧さんは考えます。ただ破砕設備を作家個人で導入するのは至難の業。そこで牧さんは、親族が経営していた耐火レンガ会社「三石ハイセラム」で、再生備前の開発に挑むことに。今では、RI-CO定番のナチュラルカラーのほか地元の備前焼作家とコラボした伝統工芸モデル「登り窯」「火襷」なども作られています。

Ri-CO定番のナチュラルカラー

――RI-COが繋ぐサステナブルな社会×備前焼
 RI-COの存在は、備前焼との接点のなかった層が備前焼を知るきっかけとなっています。備前焼は、伝統工芸品として百貨店の美術売場やギャラリーで扱われるのが主流でしたが、RI-COはサステナブルなライフスタイル用品として、東京や関東圏のファッションビルや、SDGsをテーマにした展示会に進出し、社会課題に関心の高い若者の注目を集めています。

 「伝統的な備前焼とRI-COは、やっぱりちょっと違う。でも、だからこそこれまで出会えなかった層と出会い、市場全体で見たら備前焼の売場を広げることに繋がっている。伝統あるものと新しいもの、互いの個性を生かして一緒に前に進んでいけたら」

と牧さんは語ります。

今夏発売のふた付き片口酒器。内側にはTIMEシリーズのデザイン模様が入っている。
くりかえさない曲線は、人生で一度の特別な時間を表す。

 最近では、美術売場でも環境に配慮した作品の出展が求められることも。そんな時「RI-COの再生土を使ってみたい」と相談に訪れる作家もいるそうです。
 環境に配慮した取り組みや、「一人一人の行動が持続可能な未来をつくる」という考えが世界中に浸透してきた今、備前というまちが未来の社会と共に生きるためにも、こうしたサステナブルな営みが不可欠だと感じます。

伝統的な備前焼とはまた異なる表現ができる。

――大切なのは地域の資源を地域で循環させること
 今、陶友会の協力のもと回収している陶器ごみの量は年間約10〜15t。他にも「思い入れがあって捨てられなかった器も、別のかたちに生まれ変わるなら…」と、家で眠る備前焼を持ち込む方もいて、市内に設置された回収ボックスには年間700kg以上が集まります。
 驚きの量ですが、陶器リサイクル先進地域の岐阜(美濃焼)や愛知(瀬戸焼)と比べると圧倒的に少ないそう。

備前以外でも、各地で陶器リサイクル事業が推進されています。

では、陶器ごみの回収量やエリアを増やし事業を拡大すべきかというと、そうではないと牧さんは語ります。

 「地域の資源を地域で循環させること、それが循環型社会の鉄則です」

 釉薬を使わず、自然の土だけを使った備前焼は、自然そのものといえる焼き物。そこに釉薬を使った他の陶器や食器以外の製品がまざると、釉薬が反応して意図せぬ色に焼き上がったり、食器以外の製品から人体に有害な物質が出て、価値を損ねてしまうおそれがあるのです。
 また、もし東京から備前まで陶器ごみを車で運んだら、果たしてどのくらいの燃料が必要でしょう? 事業を拡大することで逆に環境に負担をかけてしまっては、RI-COや牧さんの目指す未来とは異なります。では、何を以って事業の成長とするのでしょう?

 「目指すべきは、地域で土という資源をきちんと循環させ『備前は陶器ごみゼロのサステナブルな産地です』と胸を張って語れるようになること。それが何よりの価値だと考えます」

――「陶器ごみゼロの産地・備前」へ
 最後に、今目指すことを尋ねると、「陶器ごみゼロの産地・備前として、全国の学校で紹介されるようになりたい」と、牧さんは笑顔で答えました。そして、その夢は着実に実現に向かっています。
 学校現場からの問い合わせは年々増え、最近では、清心女子大学の学生が小学生向けSDGs講座を開催するのにRI-COを教材として紹介したり、岡山理科大学と三石中学校が行った特別授業に参加した子どもたちの発案から、無印良品とコラボしたポップアップショップが実現するなど、教育現場に存在が広まり新たな展開が生まれています。

 「備前焼という伝統を守りながらも、新しいチャレンジもしていきたい。これまでの作家さんたちも、きっとそうしてきたはずだから」

 古来からの歴史と未来の社会。それを繋ぐことがRI-COの役割なのかもしれません。

牧沙緒里(まき・さおり)
株式会社the continue.代表取締役。耐火レンガのリサイクル技術を活用した再生備前「RI-CO」を開発し、循環型社会の在り方を発信している。現在は再生エネルギーにも事業領域を拡大。2024年6月には耐火レンガ会社・株式会社三石ハイセラムの代表取締役にも就任。


「BI-TO」紙面でほかの記事もチェック!

この記事は、岡山県備前市の<人>と<文化>を見つめるローカルマガジン「BI-TO」に掲載されたものです。こちらから誌面もご覧いただけるのでぜひチェックください!

■目次
・ISSUE#03 備前焼から広がる世界
【AIR×備前焼】国際交流で広がる、備前焼の可能性
【産地交流×備前焼】珠洲焼の歩み、備前の地で前へ
【未来の社会×備前焼】陶器ごみから生まれた再生備前「RI-CO」
【GALLERY BAR×備前焼】文化を囲んで人が語らう移動式GALLERY BAR
・「大人のしゃべりBAR」開催レポート
・Do you know…?
・巻末コラム:肇さん、備前焼でお酒が美味しくなるって本当ですか?

2024年9月20日発行
企画・発行:BIZEN CREATIVE FARM
制作:南裕子、藤田恵、松﨑彩、吉形紗綾、加藤咲、池田涼香、藤村ノゾミ


「BI-TO」寄付サポーターも募集中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?