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ジョブ理論のルーツを探る

お金と時間をかけずに失敗しないプロダクト/サービスのコンセプトを作る方法」の第2回目で、人々が特定のプロダクトやサービスを購買/利用する理由に関する様々な分野における研究結果を、クリステンセン教授がジョブ理論と称して、自身の洞察を加えながら上手くまとめたものであることをご紹介しました。

今回は、番外編としてジョブ理論のルーツを探っていきたいと思います。時代を約半世紀まで遡り、様々な専門家の見解をご紹介していきましょう。ジョブ理論をご存じの方は、納得するかもしれません。

古い順からいきましょう。

⼈は本来的にプロダクトを購買しているのではなく、課題解決に対する満足のバンドルを購買し、これらの満足は物理的、感情的、社会的な次元をもちあわせている。」(1968年、マーケティング学者︓チェスター・ワッソン&デイビット・マコノーイー)

私たちが歯を磨く(歯ブラシと歯磨き粉を雇う)のは、虫歯を予防したい(物理的/機能的ジョブ)だけでなく、すっきりとした気分になりたい(感情的ジョブ)、周りから清潔な人間だとみられたい(社会的ジョブ)こともあるのでしょう。

プロダクト自体は本質的な価値はもっておらず、⼈は課題解決のアクティビティに対してプロダクトを使用する。」(1969年、マーケティング学者︓セオドア・レビット)

第2回目のブログでもご紹介しましたが、元ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授でマーケティングの大家であったセオドア・レビットがよく口にしていたといわれるフレーズ「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」の方が有名でしょう。

セオドアレビット

続けましょう。

人は何かを成し遂げるためにプロダクトを使用する。⼈は実現したいゴールをもち、プロダクトはそれらのゴールを実現するために必要なステップの履⾏を可能にする。」(1988年、認知科学者︓ドナルド・ノーマン)

⼈はニーズが発生したら、精神的なシミュレーションを構築して実⾏する。それは現在のニーズが望ましい状態に変わっていく方法の輪郭を描く⼀連のアクションであり、その成果を評価するために使う基準を⼈はもっている。」(1989年、⼼理学者︓ゲイリー・クレイン)

最新のゴルフクラブを雇う人は、タイガーウッズのようなスイングをしながら、颯爽とコースを闊歩している自分を頭に思い描くのかもしれません。

さて、

1999年になると、IBMにて従事した後、コンサルティングファームStrategyn社を立ち上げたアンソニー・ウルウィックが、これらのコンセプトをベースに「成果指向のイノベーション(Outcome Driven Innovation)」という方法論を確立しました。

この方法論は、後にクリステンセン教授のジョブ理論の展開に大きな影響を与えたと言われています。

ところで、クリステンセン教授らによる有名な書籍「イノベーションのジレンマ」の続編「イノベーションの解」にて、はじめてJobs To Be Done(JTBD)というキーワードが登場しました。2003年のことです。

面白いことに、それを追いかけるように、ウルウィック氏は2005年に「What Customers Want」を著し、成果指向のイノベーションの持論を展開しています。

成果指向のイノベーションでは、プロダクトやサービスに関するニーズと区別するために、ジョブを上手く成し遂げる上でのニーズを望ましい成果と同氏は呼んでいます。また、後にクリステンセン教授が「顧客が最終的に手に入れたいものは、プロダクト(製品)ではなくプログレス(進化)である。」と言っている進化に対する一連のステップを普遍的なジョブマップ(下記)として示しています(いわゆるPDCAと呼ばれるものに近いかもしれません)。

普遍的なジョブマップ

成果指向のイノベーションは、顧客の様々な課題を解決するための包括的なソリューションを提供しようとしている企業にはフィットするでしょう。特に、デジタルトランスフォーメーションの一環として、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に代表されるように、XaaS(顧客が成し遂げようとしていることを支援するために、デジタルテクノロジーを活用して全てをサービスとして提供する)を検討している企業にはベストマッチだと思います。

例えば、オランダのフィリップス社は、数多くの電球の管理をしなければならない地下鉄や商業施設などの施設保有者または管理者に対して、センサーネットワークにつながったLED電球を通じてライティング・アズ・ア・サービスを提供しています。これは、電球のオンオフ、光度の調節、予防保守など電球の管理に関する様々なサービスをサブスクリプション形式で提供しています。

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もう1人、クリステンセン教授のジョブ理論に影響を与えたのが、イノベーションコンサル企業であるRewired社を率いるボブ・モエスタ氏であると言われています。一概には言えないのですが、ウルウィック氏がプロダクト開発寄りなのに対し、モエスタ氏はマーケティング寄りのような気がします。

同氏は、スイッチ(下記)というコンセプトを紹介しています。これは、これまで利用しているプロダクトやサービスを捨て(解雇して)、新しいプロダクトやサービスを選択する(雇う)までの顧客心理(例.やっと慣れてきた現在のゴルフクラブを解雇してまで、新しいゴルフクラブを雇うべきか?)を上手く図式化したものです。

スウィッチ

近年では、UX分野の第一人者であり、「マッピング・エクスペリエンス」で有名なジム・カルバッハが今年2020年に「The Jobs to Be Done Playbook」を著し、UXとジョブ理論の融合を推進しています。

今回ご紹介した以外にも、JTBDに関する多くの論客や著書が存在します。また、デザイン思考とジョブ理論の融合に関する多くの議論もネット上でなされています。かくいう私も、この試みには大賛成なのです。


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