見出し画像

構想発起人への問答集(後編)

びわ湖上のメガソーラー発電所で、滋賀県の家庭用電力の50%を賄うーー。
これは、半導体の技術開発に40年間従事した父(滋賀在住:廣部嘉道)と、東京の都市デザインに関わる息子(滋賀出身:廣部嘉祥)の構想です。一市民の日常的感性を出発点に、現行の都市・エネルギー政策にはない“オルタナティブな未来”を探求します。

今回は、構想発起人の父に、狙いやきっかけを訊くインタビュー後編です。
「水上エコビレッジ構想」の概要はコチラ

3.環境問題を意識するようになった原体験


Q:そもそも環境への問題意識はもとから高かった?

A:僕が新卒だった50年前、つまり1970年代から話は始まります。当時、水銀による公害(水俣病)が認定され、社会問題となっていました。半導体製造現場でも危険なガスや薬品を使用するので、企業も環境を意識せざるを得ない状況にありました。

そのため、新卒時、僕が最初に与えられた研究テーマは、写真技術を応用した半導体シリコン表面加工の工程で、感光性有機薄膜を除去する方法として、酸素ガスプラズマを使う技術の開発でした。これは、重金属クロムを含む酸性溶液を用いる、従来の除去方法に比べて、環境負荷が格段に少なく、業界では注目の技術開発だったのです。ですから、質問に回答すると、最初の仕事が環境問題対策に資する研究開発だったということもあって、僕が環境問題に関心が高かったのは必然でした。そして、びわ湖上のメガソーラー構想の原点はここにあると言っても過言ではありません。

(話の本筋からズレるけど、せっかくなので続けると)70、80年代にかけては日本の半導体企業は強く、世界10大メーカーの中に東芝・富士通・日立・日本電気・三菱の5社が入っていました。これらの企業間では開発競争は熾烈を極めたが、楽しいことも多かった。例えば、春と秋の学会では、別企業の開発担当者であっても互いに研究成果を発表し、夜には一緒に会食して議論したものでした。仲間のような意識があったのだろうね。そして、僕だけでなく、そこに参加していた技術者たちも、環境・安全意識が高かったと思う。


Q:メガソーラー建設を目指しているわけだけど、日本は脱原発すべき?

A:実は、原発と僕とは不思議な縁があって、半導体の技術開発を進めていた20代の頃、茨城県東海村の原子炉にお世話になったことがありました。というのも、半導体表面に付く微量の不純物を分析するのに、原子炉内で中性子を照射し、不純物からの放射線を計測する必要があって、東海村の実験炉の協力を得ることになりました。そのため、原子力の有用性は理性的に理解しているつもりです。

一方、原発に対して、漠然とした不安が昔からありました。それは、原子力の有用性ではなく、原発のリスクマネジメントやコンプライアンスなどの運営的な側面についてです。そして、2011年の東日本大震災でその不安を再確認しました。

ただ、僕は国レベル、そして地域レベルの指導者ではないから原発をどうしたらよいか、などの高次の課題を云々出来る柄ではありません。しかしながら、一市民の立場で思うことは、全廃したいが、原発は残るでしょうね。いや数は少ないが残すべきかもしれない。自然エネルギーを大幅に採用したとしても、自然エネルギーの供給が細る、言わば端境期(例:太陽光発電の場合、梅雨や冬場)には現実的に必要ではないでしょうか。とは言え、最大の注意を払い、安全対策を徹底してから、というのが僕の考えです。

実は、2022年に原発廃止予定のドイツでは戦後、各国が(勿論日本も)原子力の平和利用なら良しとする世論が巻き起こったなかで、ドイツの哲学者ハイデガーだけは原発反対の論陣を張ったそうです。その歴史があるドイツだから、メルケル政権が福島原発事故の直後、ドイツは早々に原発停止の方向性を出せたのではないかと推察します。僕はこのことから、一極に流れず多様性のある社会風土の大切さを再確認しました。そのため、地域へのインパクトの大きい「水上エコビレッジ」では、透明性ある経営を前提にスタートしたいと考えています。

4.仲間集めに結びつかなかった自費出版プロジェクト

Q:構想をまとめた本を、自費出版で2冊出した。その動機は?

A:ハローワークでの職業紹介業務を通して、離職した若者の厳しい実態を見て、温めていた構想を一刻も早く、発表・共有したいと考えました。僕の構想がすこしでも実現すれば、海外の経済変動や政治動乱にも影響を受けず、安定的な職場を築け、失業者を出さないで済ませられるはず、との強い思いを抱いていたからです。

実は当初、本にまとめず、自身のHPやFacebookページを開設し、そこで情報発信し始めました。冒頭でも言った通り、届けたい相手は30代ぐらいの未来世代だったので、オンラインが良いかなと。ただ、僕の考えが甘かったのだが、賛同者は現れず。そもそも見つけてもらうこともできず。つまり、Facebookページなどをうまく使いこなせなかった。そこで、構想を本という形にまとめて、滋賀県内の図書館に寄贈し、関心のある方々と課題を共有しようと、活動の方向性を変えました。

自費出版という形にもこだわりました。その背景には、CO2削減の京都議定書が発効していながら、後ろ向きな日本政府の姿がありました。政府がその程度なら、市民が立ち上がるべきではないかと。そこで、一市民の本気を、滋賀県民に知らせる手段として、自費出版に思い至ったのです。オンラインから本に切り替えて1年後(2013年)、琵琶湖上の150万kWの太陽光発電と中山間地の木質バイオマス火力発電1万kWの要点を著した「びわこ太陽光発電」を創栄出版から自費出版しました。その時は、水上エコビレッジのアイデアはなく、エネルギー事業を中心に据えたものでした。


Q:出版後に行なったことは?

A:滋賀県内のほぼ全て63の公立図書館の他、近隣府県自治体と原発立地の自治体の公共図書館へ合計100冊を寄贈しました。20,30代の志ある若者が読んで、何かの参考にしてくれたらと思っていたが、残念ながらこの本を読んだという反響は未だありません。

向こうから来なければこちらから仕掛けようと、思いつくままに、自然エネルギー事業者、電力企業、政治家、自治体首長、大学、イベント(長浜環境ビジネスメッセ)出展等へ提案しました。ですが、ほとんど反応なしで、惨憺たるものでした。しかし時間は容赦なく過ぎていきました。

しかしこれで懲りればいいものを、なんとかしたいという思いは続きます。世界を見渡せば、温暖化の影響で巨大台風、旱魃、山火事等々の災害が世界中で多発し始めました。当時感じていたのは、危機が迫っているのに日本社会は動きが鈍いな、ということでした。居ても立ってもいられないから、若い世代の読者を狙う想定で、「琵琶湖でデザインする持続可能社会 ― 滋賀モデル」をアマゾン電子版で出版(2017年)しました。しかし、電子版の出版後の反響も得ていません。とある出版社からは、書店店頭に配布する販促を提案されたが、さすがに年金生活者では無理な金額感だったので諦めました。結果的に、自費出版に端を発したこの一連のプロジェクトは若者世代へのアピールとしては失敗でしたね。

5.実現に向けて

Q:実現に向けての障壁は? そのために何が必要?

A:最大の障壁は、「そこまでしなくても良い」という先延ばしの思考を多くの滋賀県民が持つことではないかと思います。滋賀県は地勢的に恵まれている。京都・大阪の近くで便利でありながら、穏やかな田舎生活もできる。幸いにして大災害にもあって来なかったし、さらに今後30年以内に70%の確率で発生すると言われる南海トラフ地震の直撃も深刻化しにくい。つまり、滋賀県民は皆、安心しているのです。当然、水上メガソーラー建設となれば、びわ湖活用の許認可や、莫大な資金調達、市民主導の体制確立など幾つも課題はあるが、僕は先延ばし思考が最大の壁だと感じています。逆に言えば、今やらなくてはいけない、私でも何かできるという人が集まれば、構想は少しずつでも前進するでしょう。

その際、30年後も社会の中軸にいる、今時点で20代~40代の若者が、このプロジェクトに参加してくれることが肝です。また、彼らの多様なバックグラウンドも重要です。太陽光発電技術者だけではなく、経済、社会、アート、土木・建築、福祉、行政等の分野で働く人が一市民として寄り集まって議論を重ねてほしいですね。各分野の専門性と市民としての日常的感性を併せ持ちながら、2050年に有りたい姿、残したい風景を思い描くことができれば、この構想の具体的な課題は整理できるでしょう。この世代の若者が不作為の現状を打破するかが2050年以降の地域社会の良否を決定することになるはずです。


Q:ベンチマークにしている先行例は?

A:僕がバイブルのように繰り返し読んでいる本が、藻谷浩介氏の「里山資本主義(2013年・角川書店)」です。

この本には日本各地で実情に合わせた地域再生の取り組みが紹介されており、この本をきっかけに、滋賀でもヒントになる事例を探し、ものによっては現地に視察までして調べたものです。その一つがバイオマス資源を用いて地域活性化を行っている岡山県真庭市です。真庭市の事業展開は下記のように図示できます。

画像1

個人参加のツアーで真庭市のバイオマス事業を見学した時の最大の成果は、彼らの持つ危機感の強さを感じとったことです。ツアーを案内してくれた観光協会に勤務する人や、施設の説明をしてくれた施設従業員の言葉の節々から、組織の中の個人というよりは、地域社会の一員からの危機感の発露のようなものを感じました。地域の住民が自ら、地域の資源を活かして立ち上がることこそが地域を活かすことになるのだとつくづく思い知りました。だからこそ、滋賀においても、地域の未来に当事者意識を持てる人がどれだけ集まれるかが一番大切だと考えています。

あとがき(取材を終えての息子としての感想)

2回にわたる構想者インタビュー、いかがでしたでしょうか。構想の狙いや、きっかけについて、すこしでも理解が進み、興味を持っていただけたなら嬉しいです。特に、メガソーラーは手段であって、目的は「滋賀県ならではの持続可能性の実現」、という目的設定を共有できたことは重要でした。

今後の重大アジェンダは、資金調達やビジネスモデルの検討、湖上利用の許認可、市民を巻き込むプロセスや、地域事業者と連帯するサプライチェーン構築、発電装置やモジュールの実証実験など、盛りだくさんです。寧ろ、ほぼ何も決まっていません。そのため、自然エネルギー発電の専門家ではない方でも、滋賀の未来社会へのオーナーシップさえ持てれば、ぜひ一緒に議論・実装していく仲間として参加いただきたいです。
ただ、一例として挙げるとすると、下記のような人たちと議論できればと思います。

環境問題に関心のある人(例:環境学者、アウトドア愛好家)
例えば、温暖化による琵琶湖の全層循環を調査をしている人とは、水上エコビレッジの環境負荷の予測や、その対策を一緒に研究したいです。

太陽光発電や木質バイオマス発電に関心のある人(例:起業家、投資家)
「水上エコビレッジ」を通じて、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みを一緒に進めましょう。

地域の再生や持続化に関心のある人(例:経済学者、街づくりプランナー)
自然エネルギー事業で、地域が様変わりする夢を描き、実現に汗をかきましょう。

木材を売りたい方、林業を再生したい人(例:林業者、地主)
計画的な伐採が見込める需要を、ともに創造・喚起しませんか。

新たな切り口の政策立案に関心のある人(例:行政職員、議員)
雇用創出や自然エネルギー普及の切り札を、市民と共創しましょう。

持続可能性に貢献する金融サービスに関心のある人(例:金融関係者)
3,000億円超のコストを賄うための知恵と胆力を貸してください。そして、2050年に向けた最も確実な投資先を、一緒に目指しませんか。

さて、今回の取材で、構想者の息子として30数年生きてきて、初めて知ったこともありました。例えば、新卒時の初仕事が、環境共生的なテーマだったこと。この10年、熱心に取り組む姿を目の当たりにしてきましたが、環境問題への取り組みの原点が50年も前に遡るとは想像が及びませんでした。同時に、70代の下の世代で、環境問題意識が高いのはどこかと思いを巡らすと、40~60代は飛び越えて(多感な時期に環境問題が顕在化しなかった)、気候問題やSDGsに関心が高いと呼ばれる10,20代なのではとも思いました。つまり、環境意識の高い10,20代は、40,50代よりも、父のような70代と共感できるのではないかと。逆に言えば、この構想に、10,20代の若い感性が必要だと再確認する機会にもなりました。

最後に。私は普段の仕事では、企業や自治体のコミュニケーションの課題を解決していますが、父の自費出版プロジェクトでは力になれませんでした。今回、noteを始めたのには色々な理由がありますが、今度こそは構想の意図や可能性を、今はまだ見ぬ仲間に届けられたらと思います。

1. びわ湖・水上エコビレッジ構想 
2. 構想発起人へのインタビュー(前編:エコビレッジ構想の本当の狙い)
3. 構想発起人へのインタビュー ←本稿

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?