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スケートシーンの撮影方法から米大統領選まで。ビン・リュー監督『行き止まりの世界に生まれて』を語る。オンライントークレポート@ヒューマントラストシネマ渋谷<全文>

「全米で最も惨めな町」イリノイ州ロックフォード。閉塞感あるラストベルトの小さな町で必死にもがくスケーター3人の12年間を描いた傑作ドキュメンタリー『行き止まりの世界に生まれて』が、日本で大ヒット公開中です。アカデミー賞&エミー賞Wノミネート、サンダンス映画祭をはじめ59の賞を総なめ、ロッテントマト満足度100%、さらにはオバマ前大統領に絶賛された本作のビン・リュー監督によるオンライントークを、9/12(土)ヒューマントラストシネマ渋谷にて行いました。ご来場のみなさまとの充実のQ&Aの再録をお送りします。

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―まずは一言ご挨拶をお願いします。

今日は来てくださってありがとうございます。アメリカではまだ映画館があまり開いていないので、こうやってみなさん足を運べているのがクレイジーだし羨ましいです。この映画を大きなスクリーンで観てもらえて嬉しいです。

―この映画作ろうと思ったきっかけを教えてください。

僕は小さな頃から、生きていくのを助けてくれる家族が必要だと感じていて、スケーター仲間が僕にとっての家族でした。前に進むため、学び、成長するために、僕たちは家族の中の色々な問題について話し合う必要があると思うのですが、それを今までスケーターの家族とできていなかったから、今回立ち戻ってやってみようと思いました。

―友達とはいえ、キアーやザックが今まで誰にも話さなかった心のうちをここまで語ってもらうことができたのはなぜでしょうか?

キアーに関しては、あれが素のキアーだったんだと思います。今まで子ども時代や父親や母親について聞かれたことがなくて、僕が初めてそういった質問をしたというだけで。ザックに関しては、正直そこまでいつでも胸の内を吐露してくれるというわけではなかったので、何度か心を開いて話してもらえたなと思えたところが映画に収められています。スケートボード仲間は信頼で結びついていて、なかなか説明するのは難しいのですが、特別な関係性があるので、それも大きかったと思いますね。

―撮り始めたのは何歳からで、何年撮っていたのでしょうか?この長い期間には価値があると思うのですが、今後もザック、キアーを取り続ける予定はありますか?

まずスケートビデオを撮り始めたのは14歳からです。その後色んなプロジェクトをしながら、20の頃にスケートボーダーと家族との関係性、その関係性が彼らが育っていく中でどんな影響を与えているのかをテーマとした企画を始めました。その中で、昔の映像を見直して、この映画にはその時の映像をたくさん使っています。本作では、心を開いてもらうことで彼らに驚くような結果がもたらせたと思いますが、そのようなサプライズなくして同じような真に迫る映画体験を生み出すことはなかなか難しいと思うので、新たな映画を作るために、キアーやザックを撮り続けるという予定は今のところはありません。

―映画素晴らしかったです。ありがとうございます。完成した作品を見て、キアー、ザック、あなたのママはどのような反応をしましたか?

ありがとうと言ってくれてありがとう。
キアーについては、まるで映画の中のキアーのエモーショナルな鏡を見ているようでした。スクリーンの中の自分が笑えば笑い、泣けば泣く。映画の中のことをもう一度生きているかのようでした。最後には涙をし、とても気に入ってくれました。ザックも最後に涙を流していました。カメラを通して、初めて自分をしっかり見てもらえたと感じることができて圧倒されたんだと思います。同時に、キアーや僕が同じような体験をしていたことを初めて知り、胸に響いていたようです。母は、僕がこの映画を作ったことをとても誇らしいと言ってくれました。完成した映画を観て、僕が何をしようとしていたのかがようやく理解できたと言ってくれたのが嬉しかったです。

―キアーがザックとちょっと疎遠になって若い世代の子達と付き合いはじめた時、彼らがすごく将来のことを考えていたのが印象的でした。それは世代間の違いなのか、それともたまたま彼らがそうだったのでしょうか?

世代的なものではないと思います。グループによって違った優先順位があるものです。僕が子どもの頃も、自分の人生をよりよくするために将来を考えるということをしない友達もいれば、将来を見据え、親と同じ間違いを繰り返したくないと思っている友達もいた。どんな世代でも未来への考えが違ったグループがいるのだと思います。

―どこで撮影を学んだのですか?

カメラや編集ソフトを(独学で)いじるところをから始めました。そこからオンラインで撮影に関する情報を集め、映像撮影用のカメラを手に入れて、あとは本を読んだりして学びました。そして、映画業界でインターンの機会を得て、カメラアシスタントとしてASC(全米撮影監督協会)で仕事をしながら現場で学んでいきました。その傍で自分のプロジェクトも行っていました。

―家族の問題を捉えた映画であるのと同時に、ロックフォードにおける経済格差などの問題も強く感じ、それは世界中で起きていることだとも思いました。映画の中ではロックフォードという街の問題として描かれていたようにも思うのですが、監督は地域性と普遍性どちらに比重を置いて捉えていますか?

ロックフォードのアメリカにおける社会経済的位置付けを描いたのは、若者にとって未来への希望やチャンスがほとんどない場所だと伝える重要性を感じたからです。でも、まさにおっしゃる通りだと思います。これはロックフォードに限った問題ではありません。貧富の差などは、いつもそこにはありましたが、最近では様々なデータや透明性のある情報が出てきて、より光を浴びているのかなと思います。この世代の人々にとって、失業率が高いことや経済的な問題を抱えていることをわざわざドキュメンタリーやメディアを通して知る必要はないし、この問題は色んなところで起きていると思います。それが多くの人がストリートで声をあげている理由でもあるし、最近では、僕が生まれてから初めて、社会主義の候補者が多くの支持を集めているという実情もあります。

―編集上カットした場面やインタビューの中で、監督が印象に残っている、気に入っているところがあれば教えてください。

キアーがロックフォードを離れてデンバーに行く前に、最後にもう一度父親のお墓に立ち寄りました。彼はエモーショナルになって泣いていました。僕がロックフォードを離れてシカゴに行った時どんな感じだったか、どんなに大変だったか、彼と長い会話をして、最後に僕は彼の幸運を祈り、彼は車に乗って去っていきました。最終的にこのシーンはカットしたのですが、僕はこの時のことをずっと忘れないと思います。彼のストーリーに見出した自分自身のストーリーの一つの完結を迎えたような瞬間でした。

―次作の構想をお聞かせください。

シカゴの地域、主に黒人コミュニティの中で多発している銃暴力をテーマに、そこで活動している2つの団体に焦点を当てた企画に取り組んでいます。

―ものすごい膨大な素材があったと思うのですが、ドキュメンタリーを作る際、使い所によってストーリーや伝えたいメッセージも変わってくると思います。どのように使い所を選んだのでしょうか?選ぶ上で大事にしたことは何ですか?

ルールブックがあったわけではなく、手探りでした。時間を見つけては自分の作業しているガレージに通って、色々編集を試す作業をしている中で、いるものといらないものが見えてきて、素材を減らしていきました。直感的な、暗闇の中での手探りの作業だったと思います。何度も編集を試みる中で残っていったものが、大事なものになっていったのかなと思います。

―前は一緒にスケボーできてとても嬉しかったです。映画を見て印象に残ったのが、「もう一度生まれ変わっても黒人でいてほしい」というキアーの父親の言葉でした。ビンさんも大変な経験をしてこの映画を作れたのだと思いますが、これを経験した上で、今自分の過去に対してどう思うか、もう一度選べるならどんな道がいいのかを聞いてみたいです。
(通訳:この方は中国で監督と一緒にスケボーしたことがあるらしいですよ!)

Hey!また会えて嬉しいよ。来てくれてありがとう。
良い質問ですね。どうだろう…。何も変えないと思います。キアーと同じように、生まれ変わっても、何も変えないかな。過去の経験、ボジティブなものもネガティブなものも、両方と向き合って、理解して、それらが変わることはないとわかった上で、唯一自分にできるのはそういった経験から学び、成長することしかないと思うから。

―映画素晴らしかったです。二回目の鑑賞です。色々と印象的な映画だったのですが、家族の関係や、生死について描かれていて、新しい生命に責任を持つことになったザックと、亡くなった父を徐々に受け入れていくキアー、二人の今後が気になりました。そして、エリオットは一つの鍵なんじゃないかとも思いました。私たちが、次の世代に向けてできること、意識すべきことはなんだと思いますか?

ジャッジする(裁く)ことを減らす。愛することを増やす。もっと思いやりを持つこと、そして自己中心的にならないこと。まずはそれがスタート地点なのではないでしょうか。そして、その信念を行動に移す必要もあります。政治的に言えば、私たちはもっと分かち合うべきだと思います。もっと資源を分かち合うこと。現行の各国のシステムは不健全だと思うので、もっとみんなが分かち合っていけるものに変わって行かなくてはならないのではないかと思います。

―冒頭のスケートシーンがカメラワークも含めてとっても素晴らしかったのですが、どのように撮影されたのでしょうか?

グライドカムというものを使っています。ステディカムと仕組み的には近いものです。普段は走って撮ることが多いけれど、この時は長い距離移動するとわかっていたので、フィルマーボードという撮影用のスケートボードに乗って撮っていました。ウィールが通常のものより柔らかくて大きいので、音がしづらく、石などに引っかかりにくいものです。

―監督が影響を受けた作品などあれば教えてください。

リンクレーターの映画が大好きです。この映画では、『 6才のボクが、大人になるまで。』を引き合いに出されることが多かったけれど、僕にとっては『 6才のボクが、大人になるまで。』よりも、『 ウェイキング・ライフ』というもっと変な映画の方が近いと思っていて、それは僕たちの人生や存在、現実に対しての問いで満ち溢れた映画です。それからハーモニー・コリン!彼の『ガンモ』を観て、変わった視点、ダークな視点、普段見ることのない視点で、自分の故郷を撮ってみたいと思いました。

―ラストベルトの現実を人間に迫って知ることができる素晴らしいドキュメンタリーでした。あと2ヶ月足らずで大統領選挙があって、トランプさんはこのラストベルトで支持を得て、バイデンさんはラストベルトに向けた政策を打ち出された。ラストベルトとの関連でこの映画は見られがちだと思いますが、そういった見られ方について監督はどう感じますか?また、ラストベルトを描いた監督として、この大統領選挙をどのようにご覧になっていますか?

政治的に見てもらえるのはむしろ嬉しいです。アートは政治的であるべきだと考えているからです。アートは、信念を持った誰かの視点で作られているものですから。ロックフォードは二分していて、ほんの少しトランプ寄りのエリアです。少なくとも、2016年の大統領選ではそうでした。それが今回の選挙で大きく変わるとは思いません。置き去りにされていると感じている人々の、機会を与えられていないというフラストレーションは依然としてあって、おそらく以前よりも強くなっていると思います。大統領選については、誰も何が起きるかわからない。トランプが勝つかもしれないし、勝たないかもしれない。今回はどうなっても驚かないと思います。でも、もしトランプが負けたとしても、この国の多くの人が感じている、トランプに投票したいと思う気持ちというものはなくならないし、これから何世代にわたって、その人たちの気持ちに向き合っていかなければいけないとのだと思います。

―映画の日本版ポスターデザインをした三堀です。2年前にアカデミー賞にノミネートされてからずっと気になっていた映画でした。コロナもある中、これだけ良質なドキュメンタリーを配信ではなく劇場でしっかり上映できて、こうやって多くの方に見てもらえること、とても嬉しく思っています。
監督にお聞きしたいのは....日本版ポスターはいかがでしょうか!?
(場内、爆笑)

日本版ポスターがあることだけでも嬉しいですが、デザインも最高ですね!!AWESOME!!
(場内、拍手)

―最後に一言

改めて、この映画を観に来てくださって本当にありがとうございました。ぜひお友達やご家族にもこの映画を観てもらって、この映画で語られているようなことを、語り合い続けてもらえたら嬉しいです。次回作が日本で公開されることになれば、ぜひ日本に行きたいし、スケボーして回りたいです!

『行き止まりの世界に生まれて』は、新宿シネマカリテ 、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて大ヒット公開中!

前回新宿シネマカリテにて行われたオンライントークイベントレポートはこちら


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