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Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.7 2021/2

 すっげえ寒い日もあったけど、どうやら春はちゃんと近くまで来てるようだ。最近はそんな陽気が感じられる日もちらほら。皆さん、元気ですかぁ?(猪木風)さて、それでは今月の3作品をば。


優しい金魚屋/さく

 ノスタルジーとファンタジー。理屈が通ってないと読む気がしない人には面白くないかも知れない。でも、小説なんてどこか理屈にほころびがあるものだ。というか人生自体が不条理に満ちていて、不思議だらけで、理屈の通らないことだらけだ。それが故に人間は空想とか妄想が出来るようになってるんじゃないか。そして、その人間の中でも想像力がある人たちは、理屈を超えたところと毎日の暮らしの間を行ったり来たり、くっつけたり離してみたり出来るんじゃないか。その結晶が小説なんじゃないだろうか。

 この物語は短い割には登場人物がそれなりに出てくるのだけれど、舞台は金魚屋だけだ。ショートショートの一つの法則として、まるで舞台のようにセット一つで物語が演じられるという典型はあるかもしれない。

淹れたてショコラの香りに誘われて/ぽっぽ

 この話もワン・シチュエーション。

 まどろっこしい話だ、まったく。でも誰にでもあるんじゃないか。いつも随分と偉そうに書いてるオイラだって、子供の頃は「あんたは気が小さいから。ほら、もっとハッキリと言いや」と母親に窘められたものだ。

 そういう言わば『恥部』をじっくりと描写しているところが「まどろっこし」と感じるんだろう。「こちとら、そんなちっぽけなことにクヨクヨするのはとっくに卒業したんだよ。うっせーんだよ、あっち行けバーカ」ってな感じ。でも、本当は今もってその感覚が気持ちの底の方に眠っている。それが人生の肝心なところで目を覚ますような気がする。臆病な自分が怖い。だから空威張りする。バーカ、なのは読者の中のちっぽけな自分だ。でも、その小ささは謙虚さの中心地でもある。佳き人は謙虚で臆病だ。

新しいちいさな夢ができたな。私はこうやって、ちいさな夢をみて、叶えて。途絶えることはない。そんな日々を、楽しんでいける。

 そういや、近所に行ってみたいカフェがある。オイラにとっては「夢」ってほどではないけど…行ってみるか。この小説のようなマスターがいてくれれば嬉しいんだけど。

インディアン・サマー/左頬にほくろ

 男きょうだいで育ったオイラに女きょうだいの気持ちなんてわからない。にも関わらず、この話に登場する姉妹の会話にはぐんぐん引き込まれる。自分ではリアルに体験をしたことがない「女きょうだいの会話」が、すごく生々しい感覚で身の内に立ち上がる。いったい何故だろう?

 リズムかな。

 二人の会話が挟まれていることで、読者の頭の中で喋り言葉が再生されて、リズムが出来る。そのことに加えて料理やらDVDBOXやら身近なアイテムが登場する。加えて場面ごとの心情の描写は細やかだ。そういうわちゃわちゃした場の雰囲気とざらっとした心理の描写が合わさって、この二人の会話劇がリアルに感じられるのかも知れない。

 欲を言えば姉と妹それぞれの恋愛関係についてはもう少しゆっくりとわかりやすく説明してもらえたほうが良かったかなあ。二人ともけっこう微妙な関係の恋人を持っているので、リズムが早くてそのニュアンスが頭の中に浮かぶ余裕がなかった(ような気がする)。

🍌

 noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで批評を加えて配信中。結構な数の中から選んでるんだよっ✌

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