Sweet Stories Scrap Vol.8 2021/8
や、やあ。しばらくぶりだな。
ちょっと勝手忘れちゃったんで、これまでと書きっぷりが違うかもしれないけど、気にするなよ。半年もサボっておいて、さも毎月やってる特集記事でございって顔で、しれっと記事が書ける強心臓がオイラの真骨頂だ。
では、今月のオススメ3作品を紹介するZeeee!。
アナタのためという雨/紀平リナ
こう見えてもオイラも人の親だ。こういう小説は正直冷や汗が出るね。自分のエゴを自分の子供に押し付けてたんじゃないかという不安(もしくは間違いなく押し付けていたという確信)が、まったくないっていう親はいないと思うな。それは「申し訳なさ」から来る反省でもあるし、いつか子供にしっぺ返しを食らうんじゃないかという恐怖でもある。そういう感情のひだをぐりぐりとつつき回すような書きっぷりは、子ども側の心情をストレートに書ききっているからだと思う。
母は自分の知っている世界だけで物事を判断する。そして、“善意”を振りかざせば何を言ってもいいと思っているのだろう。
「母」を「おまえ」と置き換えて読んでみる。あるいは親子関係だけではないかもしれない。上司と部下。恋人や友人同士。およそ愛があるところ全てに「アナタのためという雨」は降り注ぐ。
ちなみにこのストーリーは連作になっているので、厳密に言うとショートショートじゃないのかもしれないけど、これだけ読んでもじんわりと沁みるものがあったので選んだ。いいの、独断と偏見が選考基準なんだから。
ボウルの中のわたし。/依万理 イマ
四月から新しい街で働いてるオイラも、この物語の主人公と同じでしょっちゅう街を散策してる。環境に慣れるためには街を歩くに限る。帰宅途中に味わいのある店を見つけた。豆腐屋だ。この物語の舞台と同じ。
えっ?それだけ?それだけで選んだの?
いやいや、そんなもんだよ。本屋で買う本だってそんなもんだろ。なんかこう自分の人生や生活と交錯するようなポイントがあるから、自分の気持ちに軽く引っ掛かる何かがあるから手に取るんじゃないの。これが今回は木綿の豆腐だったってこと。
でも、作品は良いと思ったなあ。短いけど。
もういい大人なのに、こんなにも初めてな事で世の中は溢れているのか。
これなんて良い言葉だと思うな。先に紹介した作品とも通じることなんだけど、世の中は広い。多様性なんて言葉がもてはやされるようになる前から世の中は初めてな事だらけだ。自分の狭隘な視野、経験、人生観なんてこの世界から見ればちっぽけなもんだ。それをボウルの中の豆腐から知る。
ちなみに冷ややっこはネギと擦りおろし生姜を載せて醤油を掛けて食うのが好き。絹ごしよりも木綿豆腐のごっつい感触のほうが好き。
ヨシダは死にました/野やぎ
4月に書かれた作品。ショートショートというには長いかもしれない。でも長く感じない。ストーリーがどんどん展開していく筆のなめらかさ。きっと作者の頭の中にはパッと閃いて、次から次へと話が湧いてきて、それをそのまんまキーボードに叩き込んでるに違いない。
んな、訳ねーだろ。
「ヨシダはいねぇのか、ヨシダを出せコラ!」
「ヨシダは、死にました。」
冒頭部分でこの通り。おそらく物語の重要人物であろうヤツが一人、真っ先に死ぬのだ。これで読者のハートは鷲掴みにされて、「ヨシダってだれ?なんで死んだの?殺人事件?えっ、そういう話なの、コレ?」と否応なく興味がそそられる。で、どんどん読み進んでしまうのだ――。
が、しかし。
最後まで読めば分かるのだが、この作品は時系列に沿って書かれている訳ではないのだ。この冒頭部分はストーリーの真ん中あたりの重要部分を、わざわざ前に持ってきたのだ。おそらくは、読者の興味を惹くために。
かーっ、狡猾。ズルい。ニクい。いやそれだけに格好いい。
要するにこの冒頭は映画の予告編みたいなもんである。えっ?何、どういうことなん。アレ、なんやったん。どんな話なん、それ。うわー、ストーリー丸ごと知りたい。それだけでホイホイ映画館に足を運ぶ。あれと同じ。
とは言え、予告編がよく出来てるからって名作と決まった訳ではない。お読みいただいた諸氏は気づいてると思うが、もちろん作品としてよくよく書けた物語である。少々オチが気に入らんが(幸せなヤツなんて嫌いだ!)。
🍌
一番最初に紹介した『アナタのためという雨』に、この歌を捧げとく。
ガンバレ!
🍌
noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで批評を加えて配信中。半年ぶりに書いてみたけど、完全復活には程遠いか。気になる作品があれば教えてタモレ🥺
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