【童話読み聞かせ】さらわれたタロちゃん
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
人間の愛情は、だれの心にもしみこんでいく。母の愛情が、子どもと動物にそそがれることから、愛の深さを知らせたい。
読み聞かせのポイント
この童話は「今昔記」からヒントを得た作品です。タロちゃんが、大きなワシにさらわれて、どうされるかという不安、助かればよいという期待、助かってよかったという喜び、この不安、期待、喜びをたどるところに興味があると思われますので、事件の変わる場面では、なるべく間(ま)をおいて、想像させてやってください。
おはなし:出村孝雄 / え:安田裕美 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
むかしむかしの、お話です。海べの村で、たいへんなことが、おきました。
どこからか、大きなわしが飛んできて、にわとりを、さらっていきました。次の日は、ねこを、またいつかは、小犬をさらって、いきました。
もしも、この大きなわしが、子どもを、さらっていったら、たいへんです。村の人たちは、みんなこわくて、ビク、ビクしていました。
そのころ、この村に、タロちゃんという、かわいい赤ちゃんが、いました。
タロちゃんのおとうさんは、舟で海へいって、さかなを釣る漁師です。
おとうさんは、家を出るとき、いつもおかあさんに、いいました。
「おかあさんや、気をつけておくれよ。わしが飛んできて、タロちゃんを、さらっていくと、いけないからな」
おかあさんは、ニコ、ニコ、タロちゃんに、ほおずりしながら、いいます。
「おとうさん、だいじょうぶですよ。タロちゃんには、このおかあさんが、いつもついていますからね」
ある日のことです。
タロちゃんが、ホギャア、ホギャア泣いて、泣きやまないので、おかあさんは、タロちゃんを、抱っこして外へ出ました。
おかあさんは、浜べにくると、子守唄を歌いました。
ねんね、ねなさい、ぼうやが泣くと、
山から大わし、飛んでくる……。
そこへとなりの、ゲンちゃんという男の子が、走ってきました。
「おばちゃん。タロちゃん、まだおねんねしないの。よし、おいらも、歌ってやる」
ねんね、ねなさい、ぼうやが寝ると、
山の大わし、もうこない……。
そこへハナちゃんも、きました。
「わたしも、一しょに、歌ってあげる」
ねんね、ねなさい、ぼうやはよい子……。
タロちゃんは、おかあさんに、抱っこされたまま、眠ってしまいました。
おかあさんも、ゲンちゃんも、ハナちゃんも、浜の上にすわって、海の方を見て、びっくりしました。
波うちぎわの岩の上に、大きなサルが、一ぴき立っていました。
「あっ、サルだ、サルだ。大きなサルだ」
ゲンちゃんも、ハナちゃんも、さわぎ出しました。
タロちゃんのおかあさんは、
「シッ、静かにしなさい。あのサルは、なにをするんでしょうね」
みんな、ジッと、いきをころして、岩の上の、サルのようすを、見ていました。
と、どうでしょう。サルは手を海の中に入れて、さかなをつかまえようとしますが、うまくつかまりません。そのうちに、岩にかたくついている、大きな貝に、指をはさまれてしまいました。
「キャッ、キャッ、キャー」
サルは、大声をたてて、手をひっぱりますが、ひっぱれば、ひっぱるほど、指が痛みます。サルは、悲しそうな声をたてました。
「キャッ、キャッ、キャー」
浜の方から、このようすを見ていた、タロちゃんのおかあさんは、サルが、かわいそうに、なってきました。
「ゲンちゃん、ハナちゃん。あのサルはねえ、きっと岩についている貝に、指をはさまれたんですよ。かわいそうにねえ」
ゲンちゃんが、立ちあがって、いいました。
「よし、あのサルを、つかまえてやる。棒を持ってきて、あのサルを、なぐってやる。そして、なわで、しばってしまえばいい」
ゲンちゃんは、なわと棒を持ってくると、岩の方へ走りだしました。タロちゃんのおかあさんと、ハナちゃんは、ゲンちゃんのあとを、おっかけました。
「いけません、ゲンちゃん。らんぼうしてはいけません」
タロちゃんのおかあさんは、タロちゃんを、ハナちゃんに抱っこしてもらうと、ゲンちゃんの持っている棒を、とりあげました。
「ゲンちゃん、らんぼうしてはいけません。この大ザルには、山で待っている、子どものサルが、いるんです。子どものサルに、さかなをとって、たべさせようとして、こんなことに、なってしまったんですよ」
すると、ハナちゃんが、
「このサルをつかまえたら、子どものサルが、かわいそうだね」
と、いいました。ゲンちゃんも、これをきいて、大きくうなずきました。
「じゃあ、おばちゃん。ぼくたち、このサルを、助けてやりましょう」
タロちゃんのおかあさんは、棒を海の中につっこんで、棒の先を、貝のふたの間にさしこむと、力をいれて、ふたをあけました。
サルはやっと、貝から指を、抜くことができました。
タロちゃんのおかあさんも、ゲンちゃんも、ハナちゃんも大よろこびです。
「ああ、よかった。サルを助けることができた」
サルは、キョロ、キョロ、あたりを見まわしていましたが、ハナちゃんに、抱っこされている、タロちゃんを見つけると、ジーッと、顔を見つめました。いつまでも、タロちゃんの顔ばかり見ていますので、タロちゃんのおかあさんは、
「これ、これ、サルさん。おまえにも、かわいい、タロちゃんのような、小ザルがいるんだろう。さあ、早く山へお帰り」
と、いいました。サルは、キャッ、キャッ、キャー。声をたてながら、山の方へいってしまいました。
ある日のことです。大きくなって、すこしずつ、歩けるようになったタロちゃんは、ヨチヨチ歩いて、家を出ると、浜の方へいってしまいました。
おかあさんは、なにも知らずにのき先で、洗たくをしていました。
とつぜん、バタ、バタ、はばたきがしました。おかあさんが、びっくりして見あげると、一羽の大きなワシが、飛んできて、アッと思うまに、タロちゃんをつかまえて、飛んでいってしまいました。
「わあ、だれかきてえ……。タロちゃんが、大ワシに、さらわれたあ」
おかあさんは、大声で呼びつづけました。けれども、男の人たちは、みんな舟に乗って、海へいってしまって、ひとりもいません。あわてて外へ出てきたのは、女の人と子どもばかりです。
「えっ、タロちゃんが、さらわれたって……。ワシはどこだ、どこだ」
さわいでいる村の人たちを、見おろしながら、大きなワシは、タロちゃんをつかまえて、山の方へ飛んでいってしまいました。
「タロちゃん、タロちゃーん」
と、呼びながら、村の人たちは、山へのぼっていきました。深い、深い、山おくまできましたが、タロちゃんは見つかりません。村の人たちの中には、
「かわいそうに、タロちゃんは、あの大きなワシに、殺されてしまったんでしょうね。もう、だめでしょうね。帰りましょう……」
と、いい出す人もいました。タロちゃんのおかあさんは、オロオロ、泣きながら、それでも、呼びつづけました。
「タロー、タロー、タロちゃーん」
と、どうでしょう。遠くの方で、子どもの声がしました。
「おかあちゃーん、おかあちゃーん」
この声を聞いた村の人たちは、元気づきました。
「あっ、タロちゃんだ。タロちゃんだ。タロちゃんの声だ……」
タロちゃんのおかあさんは、
「タロー、タロー、タロちゃーん」
呼びながら、村の人たちと一しょに、声のする方へ、近づいていきました。
「タロー、タロー、タロちゃーん」
そのうちに、大きなしいの木の下にきました。そのときです。
「おかあちゃーん、おかあちゃーん」
その声に、みんな、びっくりして、上を見ました。高いしいの木の枝に、ぶらさがっているのは、タロちゃんでした。タロちゃんの着物のひもが、枝にひっかかって、ブラリ、ブラリ、ぶらさがっています。
「ああ、よかった。タロちゃんが見つかった」
と、よろこんだ村の人たちは、枝の上の方を見て、おどろきました。
大きなワシが、上の枝にとまって、大きな目を、ギョロリ、ギョロリ、光らせていました。
「さあ、だれか、早く木にのぼっていって、タロちゃんを助けないと、タロちゃんは、ワシに殺されるよ。早く、早く……」
みんなでさわいでいますが、女の人ばかりで、大きなワシの恐ろしさと、木のぼりができないので、ただ、さわいでいるだけでした。
そのうちに、ワシは大きな羽を、サーッとひろげて、今にも、タロちゃんに、とびかかろうとしました。
「あっ、タロちゃんが、あぶない」
みんなが、叫んだときです。どこかで、
「キャッ、キャッ、キャー」
と、声が聞こえました。どうでしょう。むこうのしいの木の枝に、一ぴきの大きなサルが、あらわれました。大きなサルは、木の枝の先を、グッと、ひっぱりました。木の枝は、弓のように、しなってまがりました。 サルは、その枝にぶらさがると、ワシに向かって、サーッと、飛びかかって、とうとうワシを、けとばしてしまいました。
ワシは木から落ちて、グッタリしてしまいました。
やがて大きなサルは、タロちゃんを抱っこして、木から降りてきました。
「まあ、サルさん、ありがとう」
タロちゃんのおかあさんは、サルからタロちゃんを渡してもらって、大よろこびです。そばにいたゲンちゃんと、ハナちゃんが、かわるがわるいいました。
「あ、この大きなサル、おばちゃんに、助けてもらったサルだ」
「そうねえ。指を貝にはさまれていた、あの大ザルよ」
「これは、これは、サルの恩返しだね」
助けてもらったタロちゃんは、元気にそだちました。恐ろしいワシは、村の人たちが、退治したので、もう恐ろしいものは、なくなりました。
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