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【童話読み聞かせ】花火

ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって​子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。

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▼まずは動画で聞いてみよう!

童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。

▼読み聞かをしてみよう!

このお話の目当て
美しい花火も、まちがうと、人にけがをさせることもある。そんなヒントから創作しました。心のやさしい子どもが、危急なばあい、花火をうって助かる痛快さを味わっていただきたいと思います。

読み聞かせのポイント
話に出てくるおおかみは、憎いけれども、無知なおおかみです。うち殺すのはかわいそうなので、最後に、らんぼうはしないと、約束をさせました。ヤギノおじいさん、ウサキチとピョンタ、それぞれに、やさしい豊かな愛情の持ち主であることを心して読んでください。

おはなし:出村孝雄 / え:工藤美咲 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans

▼おはなし

 ピョン、ピョン、ピョン。うさぎのウサキチと、ピョンタが、山道を歩いていました。
 よく晴れた秋の日なのに、長い道を歩いて、つかれてしまいました。
 「ああ、つかれた。この木かげで休むことにしよう」
 ウサキチも、ピョンタも、大きな木の根もとに、すわってしまいました。すると、どこからか、変な声が聞こえてきました。
 「おや、なんだろう、あの声」
 ウサキチも、ピョンタも、耳をピーンと、立てました。
 声は、だんだん近づいてきます。
 「エンヤラヤー、エンヤラヤー……」
 「あっ、あの声。この坂の下の方で聞こえるね」

 しばらくすると、坂の下から上がってきたのは、メー、メーやぎの、ヤギノおじいさんでした。ヤギノおじいさんが、大きな車に、なにかいっぱい積んで、上がってきました。
 「あっ、ヤギノおじいさんだ。ヤギノおじいさん、こんにちは……」
 「おう、ウサキチちゃんに、ピョンタちゃん。ここは、えらい坂道だのう」
 「ヤギノおじいさん。おじいさんは汗びっしょりだね」
 「ああ、この車が、とても重いのだよ。汗はタラタラ、つかれはでるし……。でも、この山のてっぺんまでいけば、もうあとは楽だからね。いま、力をいっぱい出して、やっと、ここまで上がってきたのだよ。だが、これから山のてっぺんまでが、たいへんだよ」
 ヤギノおじいさんは、手ぬぐいで顔の汗をふきました。

 そこで、ウサキチとピョンタは、そうだんをしました。
 「ウサキチ君、ヤギノおじいさんの、おてつだいをしてやろうか」
 「うん、ぼくたちが、あの車をおしてやろう」
 ウサキチとピョンタは、おじいさんの車を、おしてやることにしました。

 ヤギノおじいさんが、車をひっぱりました。
 「エンヤラヤ、エンヤラヤ」
 ウサキチとピョンタが、車のあとおしをしました。
 「ホラ、エンヤラヤ、エンヤラヤ」
 車は、ガラカラ、音をたてて動きはじめました。

 とうとう、車は山のてっぺんにつきました。ヤギノおじいさんは、大よろこびです。
 「やあ、ありがとう、ありがとう。ウサキチちゃんと、ピョンタちゃんのおかげで、この山のてっぺんまでくることができた。あとは、下り坂だからな。力を出さなくても、車はおりていく...。いや、ほんとにどうもありがとう」
 ウサキチとピョンタは、にこにこしながら、いいました。
 「ピョンタ君、おじいさんが、よろこんでくれて、よかったねえ」
 「うん、ぼくたち、いいことをしたねえ」
 ヤギノおじいさんは、美しい絵のかいてある細長いぼうのようなものを、くれました。
 「さあ、ウサキチちゃん、ピョンタちゃん。おてつだいをしてくれたお礼に、これをあげよう」
 「おや、おじいさん。これ、なあに?」
 「花火だよ。打ち上げ花火だよ」
 「えっ、花火」
 「うん、この筒のさきに、火をつけるとね、シュシュシュッ、ポーン……。それは美しい花火なんだよ。さあ、この花火をあげよう」
 ウサキチとピョンタは、ヤギノおじいさんから、花火を一本ずつもらいました。
 ウサキチもピョンタも、大よろこびです。
 「おじいさん、ありがとう」
 「はい、はい。あっそうだ。花火に火をつけるのには、マッチがいる。マッチもあげよう。それからね、火をつけるとき気をつけるんだよ。この花火を人のいる方に向けると、花火の火がとんでいって、大やけどをさせることがあるからね。花火は、いつも、空の方を向けるんだよ。わかったね」
 ヤギノおじいさんは、また、車をひいて山道をおりていきました。

 ウサキチもピョンタも、花火をもらって、おどりあがって、よろこびました。
 「ピョンタ君。この山のてっぺんで、ポーンと、花火をあげようね」
 「うん、この花火は、空でパーンと開いて、花のように美しくなるんだよね」
 そのときです。どこかで声が聞こえました。
 「こらっ、こら、こらっ」
 「あっ、あの声は、だれだろう」
 声は、だんだん近づいてきました。
 「こらっ、こら、こらっ」
 ウサキチとピョンタは、びっくりしました。やぶの中から、おおかみが、出てきました。

 「あっ、おおかみ」
 「こら、こら、子うさぎたち。このおおかみさまに見つかったら、もうおしまいだ。さあ、かみついてやる」
 「わあ、こわい、こわい」
 ウサキチもピョンタも、ピョン、ピョン、ピョン、逃げだしました。

 「なあに、こんな子うさぎども、逃がすものか」
 おおかみは、どんどん、追っかけてきます。
 「わあ、こわい、こわい、おおかみだあ」
 ウサキチもピョンタも、いっしょうけんめい逃げました。
 「さあ、子うさぎども、つかまえて、かみついてやる」
 おおかみはすぐそばまで追っかけてきます。ところが、ウサキチもピョンタも、こまったことになりました。高いがけの上まで、きてしまったのです。

 「ああ、どうしよう。このがけ、もう逃げることができないよ」
 おおかみは、すぐ近くまで、やってきました。
 「ヘッ、ヘッ、ヘッ。どうじゃ、もう逃げられないぞ。さあ、つかまえてやるぞ、かみついてやるぞ」
 おおかみは、大きな口をあけて、とびかかろうとしています。

 このときです。ウサキチは、がけの下をみて、
 「おやっ」
 と、声をたてました。ピョンタも、
 「あっ、これはよいところがある。ここにあながあるよ」
 と、いいました。それは、がけのそばに、あなのあるのを見つけたのです。ちょうど、ウサキチやピョンタが、はいれるくらいのあなでした。
 「うん、早くこのあなの中に、はいってしまおう」
 ウサキチとピョンタは、そのあなの中に、もぐりこみました。

 おおかみは、あなの外に立って、
 「こら、こら、子うさぎたち。あなの中にかくれてもだめだぞ。このあなを大きく掘って、お前たちをつかまえてやるぞ」
 おおかみは、あなを掘りはじめました。
 あなは、だんだん、大きくなっていきます。
 あなの中で、ウサキチもピョンタも、こわくてふるえていました。
 「ピョンタくん、どうしよう。きっと、おおかみがこのあなの中に、はいってくるよ。はいってきたら、もう、おしまいだ。ぼくたち、かみつかれてしまうよ」

 すると、ピョンタが、耳をピーンと立てました。
 「ウサキチくん、よいことがあるよ」
 「よいことってなにさ」
 「ほら、ぼくたち、ヤギノおじいさんにもらった花火がある。この花火に火をつけると、ポーンと、火がとび出るんだよ。だから、あのおおかみを、この花火でうってやろう」
 「うん、ぼくたちうさぎにかみつく、わるいおおかみだものね。よし、花火で、おおかみを、うってやろう」
 ウサキチとピョンタは、おおかみのはいってくるのを、待ちました。

 そのことを知らないおおかみは、あなを大きくして、中にはいってきました。
「さあ、子うさぎども、もうおしまいだ。このとおり、おおかみさまは、あなの中にはいれたんだぞ。さあ、かみついてやる」
 おおかみは、ギョロリと、目を光らせて、ウサキチとピョンタに近づいてきました。
 このとき、ウサキチとピョンタは、一ぽんの花火に火をつけました。
 花火は、シュー、シュー、と、音をたてました。

 おおかみは、目を、パチクリさせました。
 「おや、子うさぎども、暗くなったので、火をつけたな。これは、ありがたい。 明るくなった。さあ、かみつくぞ」
 目を光らせ、大きな口をあけて、おおかみが、とびかかろうとしたときです。
 花火は、シュ、シュー、ポン、と、大きな音をたてて、おおかみの顔にあたりました。
 「いたい、いたい……」
 と、さけびながら、あなからとび出したおおかみは、顔にもからだにも、大やけどをして、歩くことができません。

 山の悪者、あばれ者のおおかみは、らんぼうをやめることを、ウサキチとピョンタに、やくそくしました。
 その晩、山の動物たちは、みんな山のてっぺんに、集まってきました。ウサキチとピョンタは、ヤギノおじいさんからもらった、もう一本の花火を、うちあげました。
 花火は、まっくらな空に、花のように開きました。それは、それは、美しい花火でした。

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