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誰かが見てるから

ある穏やかな日の夕食時にね、冷蔵庫の中を見て「あれ?」と気付くんだよ。


「もうすぐ丸美屋の旨味さけのふりかけが無くなりそうだなぁ……」と。


すると、次の日の知らぬ間に丸美屋の旨味さけのふりかけが補充されている事に気付く。


そして、肌寒くなってきたある日の夕食時にね、肉を炒めて味付けしようとすると「あら?」と、気付くんだよ。


「もうすぐエバラ焼肉のタレ黄金の味辛口が無くなりそうだなぁ……」と。


すると、これもまた次の日になると冷蔵庫の中にエバラ焼肉のタレ黄金の味辛口が知らぬ間に補充してある。


これは誰が補充してるかというと、俺の母親のビタミン・マサヨが補充してるんだよ。


これは俺が気付いた事だけを書いただけであって、他にも俺が気付いてない事で母親が先回りしてやってる事が本当にたくさんある。


世の中には自分の子供の評価が甘々の「親バカ」という言葉があるが、俺はマサヨの子供だから「子バカ」として恥ずかしげもなく、俺の母親の評価をここで書かせてもらうが、


「俺の母親は本当に素晴らしい人間だ!」と声高らかに誇らしげに宣言する!!


どこが素晴らしい人間かと言うと、俺の母親は自分の人生の全てを家族の為に捧げている。


大げさではなく、本当に自分の人生の全てをだ。


たった一度の自分の人生なのに、一体、何の楽しみの為に生きてるのかが本当に疑問に思ってしまうほどに、毎日、毎日、家族の為に心と体を動かして今も毎日働いている。


そんな母親は自分の化粧品を買うでもなく、服やブランド品を買うでもなく毎日を地味に過ごしている。俺は今の今まで母親が自分の楽しみや趣味の為にお金を使ってる姿を見たことがない。


そして、このまま家族の為だけに生きる人生のまま、母親は残りの寿命を使い切ろうとしているのだ。


俺は母親のそんな姿を日々見ていながらも、照れ臭くて本人には自分の口から母親を褒める事も感謝を伝える事も一切していない。


でも、この場所では照れずに母親という人間の素晴らしさを書いてる。


母親が絶対に見ないこの場所で母親への感謝を書いているという事は、俺のこの感謝の思いは本当に心からの言葉である事は間違いない。


結局は人が何かをしてると良い事も悪い事も、どこかで誰かが見てる可能性が高い。


もちろん母親は俺が見てるから家のいろいろな事を率先してやってるわけではなくて、本当に家の事や俺や父親や家族の全ての事を自分の人生の一部だと思って日々淡々と生きてるだけなのだとは思う。


本当は母親の心に届くように日々の感謝や労いの言葉を直接本人に言えればいいんだけど、俺は照れ臭くて何も言えてない。感謝の言葉なんて本人に伝わってこそだけど、俺はそんな簡単な事が出来てない子供だ。


でも、子供がこんな風に母親の事を誇らしく思うって凄くないですか?


自分のお腹を痛めて命懸けで産んだ子供が、母親の日々の頑張りをちゃんと見てて、それに感謝してネット上とは言え、誰でも見れる全世界に「俺の母親は素晴らしい人間だ!!」と宣言してるわけです。


この俺の思いを母親が知ったなら、母親は泣いちゃうかもなぁ。俺は本当に母親には迷惑をかけてきた子供だから……


まぁ母親が俺の感謝の思いを知った「なら」だけど……


話は変わるが毎日のようにネットを見てると色々な所で言い争いを繰り広げているのを見かける。


俺は冷静に両方の言い分を見てみるが、明らかにどちらかが間違いだという争いでも、間違ってる方が自分の間違いを一切認めずに反論をしてるのを見て不思議に思う。


そして、その間違ってる人の肩書きを見てみると、結構頭が良さそうな肩書きの人も多いんだよ。


明らかに勝負あり!の争いなのに、間違ってる方は自分の間違いを認めない。一体、この不毛な争いはなんなんだ?と感じる事も多い。


本当に自分の意見が間違っているのを分かってないのか、それとも自分の間違いを分かった上でわざと間違った意見を通そうとしてるのかが俺には理解出来ず、俺の心はいつも戸惑う。


この不思議な現象を調べてみると、すぐに答えが出た。


自分が持っている先入観や仮説を肯定するために、自分にとっての都合の良い情報ばかりを見てしまう傾向の事を、


「確証バイアス」というらしい。


これは自分の思い込みや他の要因によって、非合理な言動や判断をしてしまう心理現象なのだという。


 
これは確かに自分でも思い当たる節がある。


過去に何回も書いてるが、俺は今年前半には国際的なロマンス詐欺に引っかかりそうになった。


これはマジにマジな話であり、俺が本当にロマンス詐欺に引っかかりお金を取られる一歩手前までいった事件だ。


このロマンス詐欺に、一体どの段階で気付いたかと言うと、本当にお金を取られる寸前までは心の底から相手を信じていた。


しかし、詐欺と分かって後から考えると最初から怪しかった。まず、台湾の女性社長と名乗るアカウントから俺のXにDMが来て、そこからDMのやり取りを始めて二往復目で女性の方から「あなた私とLINEでやり取りする!」とカタコトの日本語で誘われた。普通なら女性側が男性より積極的なのがまずは怪しいと疑うはずなのだが、俺はここで、


「なんて積極的でいじらしい女性なんだ……もしかしたら、大きな恋に破れ、その心の傷の隙間を俺に埋めてもらおうと勇気を出して俺の胸に思い切って飛び込んで来てるのかも知れない。分かった!ならば、その心の隙間は俺が埋める!このハートブレイク緊急病棟24時の院長でもあるこの俺がこの女性の心の傷を必ず治してみせる!!」


などと、最初からビンビンに現れてる詐欺師の兆候を俺は自分の都合の良いように受け取っていたのだ。


そしてここから、この詐欺師とLINEのやり取りを1日半ほど繰り返すのだが、その間、お金の話は一切出なかった。なんともほのぼのとした話題ばかりで相手は自分のおばあちゃんだという女性とのツーショットを俺に送って来たり、さらには、夜、寝る前には女性の声で「おやすみなさい!」のボイスメッセージも送って来たりした。もちろん本物の女性の声でだ。カタコトの日本語がなんとも可愛くて俺はすっかり相手の女性にお熱となり、心底騙されていた。相手がボイスメッセージを送って来るなら、ここは心が英国紳士の俺もボイスメッセージを送るべきだ!そう思って、10回ほど撮り直しながら胸の高鳴りを抑えつつ相手の女性に淡い恋心と共に渾身のボイスメッセージを送ったんだ。


「今は部屋の横を流れてる川のせせらぎを聞きながら横になってます。これからずっと、あなたの心の中にも穏やかで優しい川のせせらぎが流れて行きますように……では、おやすみなさい……」


俺は俳優の國村隼のような癒しボイスでメッセージを送ったのだが、この時はまだLINEの相手が訳わからん外国のオッサンだとは気付いてはいなかった……


しか〜し!ある時から相手からお金の話が頻繁に出るようになった。


私のオンラインショップの売り上げが1日5000ドル以上あるとか、ジョージと世界中を旅して回りたい!そのためには二人でお金を稼がなきゃならない!とか、とにかく一緒にお金を稼ごう!と、何度もしつこく言うようになった。


俺はね、海外旅行に行った事もないし、今はまだ行きたいとも思ってない。しかし、この詐欺師の言葉を聞いて「ここが俺の人生の分岐点かも知れない!そうだ!自分が変わるのは今しかない!」そう思った俺は彼女との海外旅行の事を真剣に考え始めていた。


この段階でもう怪しさMAX状態なのだが、ここでも俺に「確証バイアス」が働いて、自分にとっての都合の良い情報だけを選んで考えていた。


そして、この日の夜についに相手が本性を剥き出しにした……


とにかく、一緒にオンラインショップで稼ごう!としつこく誘って来る。その前にオンラインショップで自分の店を登録する事から始めなければいけない。私が教えるからお店の登録だけでもして!と本当にしつこい。


俺はここで、相手が詐欺師と疑うわけではなく、あくまでも相手が女性だとして考え、今後、関わっていくのは難しい女性かも?とは思い始めていた。でも、とにかくオンラインショップに登録するだけならいいかと思って相手の詐欺師が教えるサイトでのショップの登録の仕方を、この女性社長に聞いてみた。すると……


なんと、これまでカタコトの日本語の文章だったのに、急に流暢な日本語の文章に変わったのだ!!

 

さすがにミスターチョロい男日本グランプリの俺でさえも、この段階でやっとこさ怪しいと気付いた。


だから、この詐欺師が俺に登録させようとするサイトをGoogleで調べてみると確かにこの名前の大きなショッピングサイトが調べると出てくる。しかし、登録させようとしてるサイトと本物のサイトのURLが違うのだ。さらに、この詐欺サイトに飛ぶとネット界の番人ノートン先生がビンビンに怪しいサイトだと警告してくる。さらにさらに、この女性社長のオンラインショップの口コミを見てみると、一件も口コミがないのだ。さらにこれとまったく同じ詐欺の手口の被害報告が調べるとゾロゾロと出てくる。


ここまで来て、さすがにこれは詐欺だと気付いた俺は、まだそれでも、もしかしたら本当に相手が台湾女性だったとしたら俺が失礼な事を言って傷付けてはいけないと、やんわりと今日はまだショップの登録は止めておくよと伝えたのだが、なんと相手から「あなたは情けない男だ!!ゴミだ!臆病者!」と容赦なく俺に罵倒の言葉を送って来るではないか!


 
俺は悲しかったね。辛かった。確かにやり取りしたのはちょっとの時間だけだったが、それでも俺は真剣に相手の女性の事を考えたんだ。彼女の故郷、台湾に行ってご両親に挨拶する事まで考えたし、やはり女性を幸せにするにはお金が必要だし、これは果敢にネットビジネスに挑戦するしかないと覚悟を決めていた。


俺を必要としてくれる女性にはちゃんと誠心誠意、真心込めて対応しようと思ったんだ。それなのに、それなのに………


しかし、俺が真剣に将来を考えた相手が訳わからん海外のオッサンであり、極悪非道な国際的な詐欺師だったとは……


……母ちゃん本当にごめんよ。あなたのような素晴らしい人間から生まれた子供が海外の詐欺師のオッサンとラブラブのLINEをして心トキメいて、もうちょっとで大事なお金を騙し取られる所だったんだ。俺は本当に情けないよ……


今の世の中、いろいろな特殊詐欺が横行してる。一生懸命に貯めたお金を何千万も騙し取られたおばあちゃんもいる。電話での嘘情報を信じて、孫や息子を助ける為に出したお金が詐欺師集団に奪われるのだ。なんという無慈悲で理不尽な世界……


確かにお金に色は付いてないし、どんなお金でも価値は変わらない。


しかし、人を騙して奪い取ったお金で食べるご飯は美味しいのか?


人を騙して奪ったお金で自分の愛する家族を養ったとしても、果たしてそれが家族の幸せに繋がるのか?


悪い事をしたら、絶対に誰かが見てるのだ。


いつか必ず報いを受ける。


 
俺はそう思って生きてる。


俺はね、今は過去の事のほとんどを忘れていってる。


小学校の同級生の名前など今は5人ぐらいしか覚えてない。確か小学校のクラスに30人ぐらいはいたはずだが、今はほとんど顔も名前も覚えていない


小学校のある時にね、どこかから転校して来た足の不自由な女の子がいたんだ。


その女の子は足を引きずって歩いてて、当然ながら普通の人のように早く歩けない。


その女の子の歩く姿を見てクラスのヤンチャな男子はその子の歩き方をその子の目の前でマネして馬鹿にして笑ってたんだ。


俺自身はその女の子の歩くマネをする事はなかったけど、ヤンチャな男子と共に一緒になって女の子の歩く姿を見てた。心の中では女の子を可哀想だと思ってたけど、自分が仲間外れになるのが怖くて何も言えずただ見てるだけだった。


 
その子は俯いて、ただ泣いていた。


俺は他の同級生の顔やフルネームを今はほとんど覚えてないのに、その女の子の泣き顔とフルネーム、そして足を引きずって歩いてる姿を今でもハッキリと覚えてる。


その子の家はシングルマザーの家庭で、普通の人よりかなり時間をかけて毎日一生懸命に歩いて家まで帰っていた。


俺はその女の子の歩く姿を、自分の罪悪感と共に今でもハッキリと思い出し心が締め付けられる。


悪い事をしてて誰も見てないからとか、過去の事だから今は関係ないとかではない。


俺の心が今でも過去の自分の罪を許してないんだ。


嘘を付く人、人を騙す人、浮気をする人、お金を盗む人、詐欺をする人、みんな人が見てないからとか誰にもバレてないからとか、だから何してても関係ないとか大丈夫とかじゃない。


必ず誰かがあなたの行動、そして悪事を見てて、その報いが必ず自分に返ってくる。


家族に尽くす母親の生き様は俺が必ず見てるし、必ず家族みんなが母親に対して恩返しをする。


俺が足の不自由な女の子を見捨てた過去の行動は俺自身の心が見てた。


 
そして今も、俺の過去の悪事を一生忘れないように、俺の心が俺自身を一生苦しめる。



良い事も悪い事も、必ず自分自身が見てるのだ。

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