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纏う。

 先日の夏日。

 季節が過ぎて、いつものように衣替えの作業に手を出していたら、真逆の夏日。

 よく考えてみたら、いつから季節と季節の変わり目が薄れるようになったのだろう。異常気象、温暖化問題もあるし、秋らしい秋や春らしい春って、実に短い。秋や春はお洒落に最適なのにね。だから、その季節の洋服の売上が上がらないんだよね、との声も聞いたりする。

 また先日、あるコートを手離した。それはセリーヌのカシミアでブルーのもの。型はオーソドックスなチェスタータイプ。3回の秋冬を一緒に過ごした。クリーニングや手入れにも気をつけてたし、それなりの価格で購入したものだけど、年を重ねて、今の自分の気分ではなくなった。恋人のように熱を上げて相思相愛だった季節が巡り、悪くないし、嫌いになった訳じゃないけど、もう身体に触れられたくないの。みたいな。某サイトに出品して、大切にしてくれる誰かの元へ。良い人。コメントのやり取りで、感謝する意を込めて39(サンキュー)プライスに。包装しながら…新しい場所と人に大切にしてもらってね…。

 学生時代。よく着用していたアニエス・ベーのライダースジャケットを、代官山で偶然見つけたイギリス製の黒のスカジャンに変えた時期がある。ビンテージだけあって、丁寧な手仕事を思わせる美しい刺繍。柄が思い出せるような思い出せないような。当時、ゴルチェのタートルニットのロングワンピースを購入したばかりで、モスグリーンの絶妙なカラーに、そのスカジャンはピッタリで、アッシュブラウンのショートボブにプラットホームの編み上げブーツ、ピタッとスリムなヒップラインが映えて、鏡で何度もチェックして楽しかった。

 友人で、変わった子が居た。いや、美大や服飾だと、それがスタンダードであって極普通。でも、繊細な子で、先日購入したある古着を処分したと言う。しかも、リサイクルはせずにゴミとして。

「なんだか、着用すると、かなしくなるんだよね」

「だから、これは一緒にいちゃだめなんだって」

   古着は、気をつけないと持ち主だった人の残像、記憶、その時の気持ちなども包み込んでいるものなのかもしれない。身体を包むのが役割りなのだとしたら、魂も包む。

 そして、わたしも。あのスカジャンを暫くして手離した。何故か?スカジャンを着用すると、体調を崩すようになった。最初は気のせいだと思っていたけど、あの夜、間接照明に薄暗く照らされたスカジャンは、重く、一層暗く感じた。そんな経験は初めて。年代物だったし、オーナーが何代かに渡っていても不思議じゃない。ユニセックスなものだけど、細身であるから、着用出来るのは、たぶん女性。どんな歴史を辿って、海を渡って、日本へ来たのか。

 纏うものには、思いを残さずに、感謝して流す。プラスマイナスじゃないゼロが最適。パソコンの初期化みたい。あらゆる物質にはエネルギーがあるものだから。

 と、そんな記憶を遡ってから、某メゾンのコートをオーダーした。
仕上がりは11月中旬から下旬。

 纏う愉しみを、心待ちにしながら、秋の夜長を過ごしている。


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