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「鉄の犬」

風のにおいを探しているのは
擦った踵が砂を踏んでいるからすぐに海があるとわかったからだ、
かためられた舗装路に、
混じりきれない粒が数百、

置き捨てられて、風雨に褪せた廃車の陰には
白髪の犬が横たわる、

寄り添い合うひとりとひとりは
強く残る夏の光のなかにいた、
細い鼻を震わせて、
生まれた青みの気配を探る、
光らない、ふたつの目は右が既に割れていた、
けれども南を向き続け、
鉄の犬はいつか走った海の風を頬に受けてた、

重ねた命を振り返ろうとしてはみる、
けれど其れは遠く過ぎゆき、
手繰り寄せるももつれた糸が手元に残る、
ふたりは時折、目を合わせ、
言葉にはせず、いまここにいるだけを、
前後よりも、唯、
いまだけが私たちに与えられているのだと、

砂の流れる時間のように、風の流れる波打際に、
鉄と毛、ふたりはそれぞれながら、
青の南の潮風だけを探してた、
きっと昨日も今日もまた、
明日もそれを続けるだろう、
まるで砂の流れる時間のように、
ひとりとひとりが褪せながらも
重ねているのは残り僅かな刻の追憶、




photograph and words by billy.

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