海を望む小さな食堂、花鳥風月。
特別じゃない、なんでもない日を祝いたい。
創作和食と美味しいお酒、思い切りの笑顔でお待ちしています。
これは、そんなお店のしあわせな夏の日の物語。
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#お仕事小説部門
連作短編「おとなりさん 〜海の見える食堂から」#1
第一話「海の見える食堂から」
出入り口付近に立ったまま、進行方向の右側に目を凝らす。窓の外に水平線が広がる。突き刺さる陽射しに、一瞬、目を細めて、昨日と同じように太平洋を見つめた。波飛沫に注がれた光を受けて、弾けて、跳ね返す。開け放たれた窓から、かすかに届く潮風。今日から夏服。おろしたての真っ白な半袖シャツ。その気楽さ。開放感。夏の自由な気配。夏の長いこの地域は、夏服の開始が早いのだ。
私が
連作短編「おとなりさん 〜海の見える食堂から」#2
第二話「看板娘」
茹だる夏の夕、と、季節と気温以上に真夏感を感じさせてくれる歌が小さなスピーカーから届けられたのは、ある、土曜の午前十一時半。うだるって、どんな漢字だっけ。
茹だるとまでは言わないけれど、窓から射し込む陽射しはすでに夏。床に揺れる陽だまり。
まだ五月。まだ午前。夏でも夕でもないけれど、空調が入る前の店内清掃は充分に夏の暑さで、作務衣を着ていた私はしっかりと汗をかいていた。作