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雑誌編集者からの転身 「らしさ」のある物語を編む

はじめまして。BIOTOPEの石原です。私は2020年12月からBIOTOPEに参画し、企業や行政、ブランドのビジョン・ミッションの策定やリブランディングなどのプロジェクトを主に担当しています。

BIOTOPEでは「編集者」の肩書をつけていますが、前職まではずっと出版・メディアの世界で働いていました。その業界からコンサルティング業界への転身は、自分で言うのもおこがましいですがかなり珍しいのではないかと思っています。

なぜ、メディア・出版業界からコンサルティング業界へと飛び込んだのか。そのなかで、私が考える「編集」の可能性とは何かについて、拙筆ながら書かせていただきます。

編集との出会いと違和感

私が「編集」に興味を持ったのは、高校生の頃。書店に並ぶファッション雑誌やカルチャー雑誌を見て、その世界へのあこがれを抱くようになったことがきっかけです。新刊だけでなく、古本屋で昔の雑誌を漁ったりしているうちに、自分もこんな雑誌を作ってみたい、編集者になりたいといつしか漠然と思うようになりました、

大学入学で上京して間もなく、ご縁があって「anan」という雑誌の編集部でアルバイトを始めることに。電話番やコピー取りなどいわゆる雑務が中心でしたが、たまに撮影現場に行かせていただいていてはキラキラとした世界に心躍らせていた、とても楽しいアルバイトでした。

anan編集部 アルバイト時代の社員証

また、編集部に出入りしていたフリーのライターさんに声をかけていただき、文字起こしの手伝いから始まり、ちょっとしたページの取材執筆を任せてもらえたりするようになり、大学生という身分ながらいろいろな雑誌でライターのお仕事をさせていただくようになりました。

そうしていつしか憧れの雑誌で仕事をさせていただいていましたが、一方で業界としての閉塞感も感じていました。すでに出版社業界は斜陽産業と言われて久しく、先があまり明るくないように当時は感じたのです。

そこで、並行してスタートアップでインターンを始めることに。当時は学生起業が盛んになり、あちこちでスタートアップがぼこぼこと生まれていた時代。そこで私は「これからはウェブメディアの時代だ」と息巻き、スタートアップ数社でとても濃い時間を過ごさせていただきました。

雑誌とウェブメディア、その両方を経験して、雑誌は狭く・深く届ける媒体だが、ウェブメディアなら広く・深く届けることはできるのではないか。そう思い、新卒で当時キュレーションメディア事業を立ち上げたばかりのDeNAに入社しました。

DeNAでウェブメディアの仕事をしながらも、どこかで雑誌編集への憧れが残り続けていたところ、ひょんなご縁から経済誌・Forbes JAPANの編集部に誘っていただきジョインしたのが2017年6月のことです。

異なるテーマや情報たちを組み合わせる価値

2018年、仲間たちと一緒に立ち上げた「30 UNDER 30 JAPAN」

それまでForbes JAPANといえば、表紙でスーツを着た経営者が腕を組んでいるような、どこかお硬い印象がありました。でも、ビジネスに通ずる考え方や価値観は、ビジネスパーソンに限らず、アーティストやクリエイターなどさまざまな領域で活躍されている方々からも学べうると思うように。領域間をブリッジし、異なるものたちを交差させて新しい価値を発信できる媒体だと思い転職を決意しました。

さまざまな企画や特集を担当する一方で、並行して、かつて時代をつくってきた数々の名物編集者のように、どうしたら編集者という枠を広げていけるだろうか。これからの時代における編集とは何なのかについて真剣に考え始めたのはこの頃です。

編集者の仕事は、取材をして、記事にして、発信するだけではないはず。お店一つ取り上げるにしても、「この料理が美味しいですよ」と伝えるのではなく、「このお店のこの人はこんな経験があって、こんな考え方をしているんです。しかも料理も美味しいんですよ」と異なる角度のストーリーを引き出し、組み合わせることでより魅力的にする。それこそ、編集者の仕事だと思ったのです。

また、当時編集部の仲間たちと立ち上げた「30 UNDER 30 JAPAN」という企画を通じて、これまで交わることのなかった人や価値観を経済誌というプラットフォーム上で掛け合わせることで、より多くの人々を引き付ける力強いエネルギーのようなものを生み出すことも編集者だからこそできることだと感じました。

らしい物語をつくるために

私が考える編集とは、読んで字のごとく「集めて、編む」こと。異なる分野・領域・⽂脈や外界にある情報を組み合わせ、ひとつの物語を編み上げて意味を⾒出すことだと思っています。

これまでは編集者というといわゆる読み物としての「メディア」での仕事が一般的でしたが、「デザイン」が広義に捉えられているように「編集」も広義に捉えたとき、必ずしもアウトプットはメディアに限らなくても良いのではないか。むしろメディア以外のフィールドで広義の編集にチャレンジしてみたい、という想いが徐々に強くなっていきました。雑誌編集を始めて約4年が経った頃です。

その後、新たなフィールドを探していくなかで見つかった選択肢のひとつがデザインコンサルティングという業界であり、BIOTOPEという会社でした。

異なるテーマや情報をフラットな視点で組み合わせながら、経営や組織というリアリティがあり社会的なインパクトが大きい領域で働ける点が魅力的でした。それに、いろいろなステークホルダーとの共創が求められるいまの時代において、ひとつの業界のことを考えていればいいわけでもありません。そのなかで掛け算をする人が求められています。そんな個人的な思いの丈を、何度か取材でお世話になっていた代表の佐宗さんに話したところ、共感していただいてジョインすることを決めました。

私がBIOTOPEで主にやっていることは、未来の物語を編むこと、そして過去の物語を未来のために編むことの2つです。

編集者というと最後に形あるものをつくる役割だと思われがちですが、ほとんどのプロジェクトで最初から(多くはプロジェクト全体の設計から)携わっています。Forbes JAPANでの雑誌作りのプロセスに価値を感じたように、BIOTOPEでもプロセスでクライアント自身に気づかせることや新しい意味を見出すことを大事にし、最終的には誰に何を伝えたいのかといった目的を踏まえて、未来の物語=ビジョンストーリーとして、広く伝わりやすい形へと落とし込んでいます。

らしさのある一貫した物語の土台となるのは、組織の一人ひとりの想いです。そのため、感情を含めた一人ひとりの想いをワークショップで引き出すことから始めます。クライアントが何を感じ、何を思っているのかを情報はもちろん、一人ひとりの雰囲気や口調からも察しながら、彼/彼女たちらしく、かつ共通理解が持てるように翻訳します。馴染みのない言葉で言い表しても、きれいな言葉が一人歩きするだけで誰も腹には落ちません。組織を人と見立てたときに、どんな髪型をしていて、どんな服を着ていて、どんな性格で、どんな言葉を使うのかなどの視点から細かく見ていきます。

企業や組織、ブランドの細部までしっかりと血が通った状態にしていくようにするために、私自身がこれまで出会った人・言葉・思想の蓄積を活かし、見立てながら考えることで、クライアントらしさをよりシャープに捉え、何がユニークなのかを見出すようにしています。

編集の可能性

メディアではない領域における編集の可能性としていま感じていることは、組織やブランドの「文化」と「歴史」のかけ算です。

直近だと長く続いたコロナ禍、そして年始早々に起きた震災などにより、私も含め、多くの人々の生活という地盤がいかにもろく、未来永劫続くものではないことを突きつけられたのではないでしょうか。それは、昨今の社会情勢や景気だけでなく、地球規模で起きている諸問題の影響を受ける企業活動も同じことが言えます。社会がより一層不確実性を増すなかで、先のことだけを考えて、解像度の高い未来を描くことは難しい。何を信じ、何を拠り所にすればよいのか。それは決して変わることのない自分たちの軌跡である「歴史」です。

最近、とある組織の社史を編纂するというプロジェクトがありました。その組織は数百人規模にも関わらず非常にフラットで自律的である一方、これまで歩んできた50年以上の歴史がほとんど文書に残されておらず、語り手ごとの断片的な視点から部分的に伝承されている状態だったのです。そこで私たちは、創業時にご活躍された方々から現在若手として躍動されている方々までを対象にインタビューを行い、それぞれを社史のコンテンツとして収めながら、組織文化の変遷や長年暗黙知であった組織の強みを言語化していきました。

誰かとまったく同じ人生を歩む人がいないように、まったく同じ歴史を持つ企業はひとつとしてありません。過ごしてきた長い時間はその企業だけのものであり、そこには唯一無二の物語があります。それを現在〜未来の組織にどのように活かし、インストールしていくか。

私たちはミッション・ビジョンのような未来を考えるときも、組織文化を言語化し浸透していくときも、事業コンセプトやブランディングを考えるときも、まずは固有の歴史を深堀っていくようにしています。

過去の物語を、未来のために編むこと。これがBIOTOPE、ひいては私自身の仕事のひとつだと思っています。

BIOTOPEのValueに「見えないものを観る」という言葉がありますが、社史編纂のプロジェクトはまさに「そこにあるのに見えない組織固有のナラティブと、ナラティブのなかに点在しているさまざまな情報を組み合わせながら形にしていく」ような仕事だったと思います。

雑誌編集が雑多な情報をひとつの特集という束にまとめて魅せる仕事だとすると、私がいましていることは、雑多な情報をひとつの物語に編み上げ、その物語から新たな意味を見出す行為なのではないかと考えています。

終わりに

私にとって編集とは、「仕事としての技術」と「生き方としての姿勢」のかけ算です。より良いアウトプットを生み出すための技術・スキルはもちろん重要ですが、同様に「~すべき」ではなく「~のほうがおもしろい」から入ること、好きなもの/嫌いなものが明確であること、遊ぶように仕事をすることなど、生き方そのものもとても大切だと思っています。

なので、これからもみなさんと楽しみながら、新たな価値創造をご一緒できればなと思います。私たちに何かお力になれることがあれば、いつでもご連絡ください。

石原龍太郎◎Editor。学生時代より出版社でのインターンやライターとしてカルチャー・ライフスタイル誌などで執筆。新卒でDeNAに入社後、経済誌「Forbes JAPAN」にて編集者として勤務。各領域で活躍する30歳未満の30人を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」特集や、オフィス家具メーカーのオカムラと共に働き方の未来を考える雑誌「WORK MILL」などの企画・特集を主に担当。異なる文脈や思想をつなぎ合わせて新たな価値を生み出す「編集」の視点から、コミュニケーションデザイン、ブランディング、ビジョンストーリー策定などを行う。一般社団法人Culturepreneur Collectives 代表理事。

プロジェクトのご相談・お問い合わせは下記より。ぜひお気軽にご連絡ください。

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BIOTOPE HP


text by Nicole Tateo
photographs by Kosuke Machida
special thank to Kunitake Saso

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