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ホラー初心者が読んでおもしろ怖かったホラー小説おすすめ5選

トガり散らしていた時期の弊害

 小説を書くにあたってそれなりには本を読んできた……とは思うのだけれど、人間がたかだか10年程度で読める本なんてせいぜい3000〜4000冊くらいなもので当然ながら網羅性は乏しい。
 よって嗜好によって偏りが出てくるのは当然なわけですが、ぼくの場合は日本のエンターテイメント小説というものをほぼ読んできませんでした。特に20代の頃なんてひどくて「第三者に翻訳される程度の評価がない小説を読んだところでねぇ……」みたいなイキり散らしムーブをカマしていたわけです。なので家には日本の作家よりも海外の作家の本の方が多くありました。

 読む本に偏りがあるというのは個性になりえます。しかしその一方で、いざじぶんが小説を書くとなるとこの「個性」はあくまでも良し悪しではない「特徴」であって、かならずしも強みとはなりません。ひとと違う読書をしていればひとと違う言葉を使ったひとと違うものを書けるというのは間違いではない一方、その「世間離れ」した感覚はある地点で調整が必要になってきます。ぼくの場合、35歳を超えてようやくその地点に達したわけです。

 そこで「読書好きの多くが読んでいるけれど読んだフリをしてやり過ごしていた小説」のことを「伸びしろ」と呼ぶことにして、これから集中的にこの「伸びしろ」を読んでいこうと決めました。
 今回のテーマは「ホラー」です。
 有名作品やTwitterのフォロワーからのオススメを読んで、そのなかでおもしろかったものを5作品紹介します。

おもしろ怖かったホラー作品5選

「恐怖」が芽生えるプロセス──スティーブン・キング『1922』

実家の牧場の利権をめぐって夫と息子が妻を殺害し、遺体を井戸に隠す……という事件をきっかけに、二人や周囲の人生が崩壊していく記録が綴られている中編。スティーブン・キングといえばモダンホラーの超大御所ですが、恥ずかしながらこれがぼくにとっての初キングでした。
この作品で感じたことといえば「恐怖はどのように生まれるか」という過程が高い解像度で書かれている点です。そしてそのなかで、まだ身に起こっていない「恐怖」の感覚は想像力のなかに存在しているのだと示している強い作品だと感じました。

最高の最悪──飴村行『粘膜人間』

デカくてヤベェ小学生の義弟の暴力に困り果てた兄弟が、彼の殺害を河童に依頼するという何処か間の抜けたお伽噺みたいな設定ですが、凄惨極まるお話です。グロ小説の極北と言ってしまえるかも。
なんといっても読みどころは幻覚剤「髑髏」を使った拷問シーン。もうとにかくひどいわけですが、そのひどさゆえに拷問への美意識さえ感じられ、心を動かされるものがありました。先のキングの作品でも「想像力のなかに恐怖は生まれる」みたいなことを考えたわけですが、この小説で描かれる幻覚剤「髑髏」はその究極系です。幻覚では肉体的に死ねないからこそ、疑似的な死からの蘇るともう死にたくなくなる──二度と読みたくない最高に最悪の傑作でした。

シリアルキラー界の村上春樹──大石圭『殺人勤務医』

ある個人的な正義から特定の人間を十数人殺している中絶専門の勤務医の日常と宿命の物語。怖い、とはまた違う不思議な読み心地が印象に残りました。
主人公は完全に理性を保ったシリアルキラーで、自身がどういう人間でどういう感覚で人を殺しているのかを客観的に理解できている。それに由来する文体・語り口の静謐さがあって、これはシリアルキラー界の村上春樹(特に『風の歌を聴け』)だと感じました。

爆笑の実話怪談──村田らむ『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』

怖い話のYouTubeチャンネル「OKOWA」で知った本です。「人怖」というのはホラージャンルのひとつで、心霊/怪奇現象とは違って、生きている人間の恐怖のお話です。
冒頭収録の「ハムスター」は実際に「OKOWA」で話されているのでまず観てみてください。ヤバい話をとぼけた口調で話すのが村田らむさんの特徴ですが、本書もその雰囲気がよく出ていて、なんだか笑ってしまいます。

ぼくのオススメは「樹海で死体を探すKさん」のお話で、ポルシェで樹海エントリーをキメるおじさんの姿を想像して爆笑してしまいました。

SFミステリとしても大傑作──トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』

300年前に死んだ魔女が棲みつき、彼女の呪いと奇妙な共生をする町の物語です。その魔女は神出鬼没で、目が糸で縫い合わされているグロテスクな姿で、その糸を切ると誰かが死ぬ。魔女を見かけても風景として扱おうとする町の日常、魔女の存在を町の外に漏らさないよう必死に立ち回る組織「HEX」も緻密につられていて、管理社会ディストピア系のSFとしても高い完成度の作品だと感じました。マジのオススメです!

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