小説 受験の季節 1/4話
「はい、では今日の授業を終わります」
先生がチョークを置くと同時に、学校のチャイムが鳴り響く。
ジーッと黒板を見つめながら、身じろぎできない自分に気がついた。
あーあ、やっべーな。
3-Aと書かれた表札のあるクラスの真ん中らへんで、鞄に教科書を詰め込みながら考え事をしていると、同級生の中条亜由美が話しかけてきた。
「ゆーくんは、どこの高校受けるのー?」
カールのかかった髪をふわっとさせながら、大きな目でこちらを見ている。
「俺?堅城高校だよ」
言ってしまってから、やべっと思った。
「えっ?堅城高校??」
「う、うん」
「んんー?」
堅城高校というのは、自分達が住む町にある、県内有数の進学校だった。
「あそこって、偏差値60くらいじゃなかったっけ…?」
「そうだけど…」
中条亜由美は、不思議そうな顔をしながら、そうなんだぁと呟いた。
「わかってるよ、分不相応だってことくらい…」
俺は、頭が良くない。中学生活を通して、成績は下から数えたほうが早いぐらいだ。
「なんで堅城高校なの?」
「いやぁ、あそこ、サッカー強いからさ」
「あ〜、なるほどね。ゆーくん、サッカー部だもんね」
「うん」
俺は、クラスで目立つ方ではなかったが、スポーツができるやつだと認識されていた。そして、サッカー部であることも知られていた。
「そっかぁ〜、頑張ってね!」
「おう!」
しばらくしてホームルームが始まり、部活を引退していた俺は、家に帰った。
今日の授業のノートを開き、眺めてみるが、やっぱり内容が全く分からない。
やっぱ、サッカーに打ち込み過ぎたよなぁ。
そう思いながら、自分の書いた文字を一文字ずつ追っていく。ダラけている暇はない。
夜の11時。静けさが漂う部屋の中で、俺はテレビを見ていた。
青いユニフォームを着た選手たちが、緑の芝の上を自由に駆け巡っている。
俺は、どうしても堅城高校に行きたかった。
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