小説「エクステリアの園」②
早川勤は、中学時代の同級生であるイソヤマススムの家を訪れた。
「おう、勤」
「やあ、久しぶりだね」
磯山進の家は、早川家の近所にある。しかし、高くて見晴らしが良いので、景観は大分違う。
「どうしたんだ、またこんなところまで」
「いやいや、そう遠くないだろ。やぁね、今度庭づくりを始めようと思ってさ」
「あぁ、園芸かい。まぁ中に入りなよ」
磯山進は、早川勤を中に招き入れるとそのまま庭に案内した。
「俺の自慢の庭だ。何にもないけどな」
確かに、磯山家の庭にはモノが少ない。地面一帯にはコウライ芝が植えられている。
その青々とした空間に、ヨーロッパ風の緑の椅子が2つ。遠くの山々まで見渡せる柵の近くに寝椅子が1つあるだけである。
「君が園芸に凝ってたことは知ってるよ」
早川勤は、緑の椅子に腰掛けながら言った。
「そうだな。昔はそんなこともあったかもな。今はもう、この青空と山々の景色が、俺の庭の主景さ」
「あぁ。開放感があって素晴らしいよ」
事実、磯山進の庭は晴れた日には気持ちの良い日光浴ができたし、視界を遮らない景観は、どこまでも爽快だった。
「で、なんで園芸を始めようと?」
磯山進が、当然の疑問を口にするように早川勤に訊いた。
しかし、早川勤は答えない。手を組み、肘を膝に当てて、じっと前を見据えたままだ。
「また、君の出来心じゃないのか」
磯山進は、手を振って返答を遮った。足元は、軽い貧乏揺すりで小刻みに揺れている。
「快適な庭の作り方を教えて欲しいんだ」
「快適な庭?そんなの、この庭が答えだぜ?」
早川勤はフフッと笑うと、好意的な目を磯山進に向けた。
「そうだな。でも、俺が知りたいのはもうちょっと落ち着く庭の作り方だよ」
「落ち着く庭か」
2人は、磯山進が淹れた紅茶を飲みながら、園芸の話をした。
空に赤みがさした頃、早川勤は礼を言って磯山家を後にした。
早川勤が磯山家を訪れてから1週間後、早川家の玄関を出ようとした早川勤に、妻の早川秋が呼びかけた。
「あなた、今日も図書館に行くの?」
「うん。そのつもり」
「あまり根を詰めすぎないようにね」
早川秋は、戸惑ったように言った。
「うん」
早川勤は、早川秋の着ている白のフワッとした花柄のエプロンに目を目の端に捉えながら、自身の一軒家を後にした。
やがて、近所の市立図書館に着いた。
磯山家を訪れてから1週間、毎日この図書館に通って園芸・造園について調べるのが、早川勤のルーティンになっていた。
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