システム思考の本流!~フォレスターの多角的視野と超長期視点
2023年9月の郡上の森への視察の記録を残したいと思います。
今回、フォレスター(森林総合監理士)の 小森 胤樹さんのご厚意で、郡上の森を案内頂きました。小森さんはフォレスターズ合同会社を設立されています。
『森林管理に正解はない』
って言葉が印象的でしたー
システム思考
フォレスターの仕事はまさに複雑な課題を解くシステム思考のど真ん中の世界でした。
非常に多岐にわたる要素が関連しあい、かつ人の一生を超える超長期の視点でグランドデザインを描く。
林業というビジネスに、環境保全、脱炭素、生物多様性、災害対策・・・それらを総合的に鑑みて、少しずつ人の手をいれて変えていく。壮大なアートの世界ともいえます。
林業の現場で見てきた実例を元に、上記の複雑性を体感頂ければと思います。
本来なら前提知識となる歴史的背景、政策背景、林業先進国(EU)との違いを語ってから入るべきだけど、退屈になると思うので今回は飛ばします。
最近はやりの『複雑なものを複雑なまま理解する』『単純に決めつけない(Negative Capability)』の訓練にもよいですー!
今回のツアーのきっかけ
まずは簡単に小森さんの紹介
森林監理に携わり20年。現場仕事から入り、現在は岐阜県郡上の石徹白にある民有林の管理を行いつつ、各自治体の森林管理のアドバイザーを行っています。
日本に長期目線で森林管理のできるフォレスターを育成するため、上述のフォレスターズ合同会社を設立しています。
6月に秋田県五城目町に行った際に、たまたまご一緒して意気投合!
全国を飛び回っており非常に多忙にも関わらず、小森さんの管理する森を案内頂きました!
さすがに私一人で見に行くのは、とってもお忙しい小森さんのお時間を頂戴するのは悪すぎる。。ということで、所属しているサスコミュのメンバーから参加者を募りました。計10名ほどが参加しています。
サスコミュは、企業のサステナブル担当(通称サス担)のメンバーを中心に、サステナ・ESG系のコンサル、サステナ系の事業を行う起業家などが集まるコミュニティです。
詳しくはこちら
(ここからは「である」調で記載します)
森林後進国な日本
本題に入る前に少し前提を羅列します。
日本は国土の2/3が森林で、非常に高いポテンシャルがあるが、欧州・北米と比べて圧倒的に遅れている
日本に限れば森林は減っていない。有史以来、乱獲が続いた森林だが、エネルギー革命で薪・木炭を使わなくなり、戦後から森林は増えている。(正確には森林面積は変わらないが、密度が急増。戦後と比べて蓄積量は3倍近く)
という前提を経て、、多様な要素を紹介する。
高付加価値の木材
林業(ビジネス)の視点から考えると、その森の資源から価値のある資源を育てて出荷、売却するのが目的だ。
人間の都合で言えば、真っすぐで太く、傷がついていない木の方が価値が高い。
逆にいえば、細い木、曲がっている木、傷がついた木は価値が低い。
森林密度が高すぎたり、陽の光が十分でないと細くなる。
近くの木の枝が陽の光を邪魔すると、陽の光の方へ曲がっていく。
他の木を伐採する時に当たってしまえば傷つく。雪や動物が傷つけることもある。
木の育成
現在の日本は、スギとヒノキなど針葉樹にはは安定した市場があるが、広葉樹は市場がない。
かといって、単一の木種だけ育てるのは、生物多様性の観点だけでなく、林業の視点からも必ずしも良いとは言えない。
日本は、戦後の拡大増林政策で、闇雲に植林しまくった。
(高度経済成長時に、都会は仕事があるが、田舎にも仕事を作るために、とりあえず木を植えたら補助金を出す政策)
今回の森は、スギが主要だが、単一でスギだけ育てても、高付加価値なスギは育たない。
長い時間をかけて、スギ以外の品種も混ぜ合わせていく。カラ松、朴木(ホウノキ)など。
ちなみに、ここではヒノキは育ちづらい。
冬に2mの積雪のある豪雪地帯でヒノキは育ちづらい。
表杉と裏杉
また、一言でスギといっても、多くの種類がある。日本は5区に分けていて、別の区のスギの苗木を移すのを禁じている。
豪雪地帯にあるスギは裏杉と呼ばれる。冬に雪に押しつぶされても這い上がれる力がある。
一方で、太平洋側は表スギ。表スギの苗木を雪国に持ってきたらすぐに死んでしまう。表スギは花粉を遠くに飛ばすことで種を増やす。
裏杉は地面に押しつぶされるので、花粉を飛ばさず、地面の周りに受粉させる。
(花粉症の原因になりやすいのは表スギ)
植生のコントロール
単一のスギだけの森が良くないから広葉樹を植えるとする。
広葉樹を植えるにしても広葉樹は自然には50mくらいしか花粉を飛ばさないので、森の中に広葉樹がなければ自然には育たない。
外から広葉樹の苗を持ってきて植えるとする。しかし、日本では広葉樹のマーケットは(ほぼ)ないので、大々的にやっても、数十年後に木材として価値があるかはわからない。そもそも、これまで広葉樹がなかった森に持ってきてもきちんと育つかもわからない。
そこに時間とお金、労力を投資すべきか?は難しい。
それよりは、森の中にある種類を把握して、育ちやすいものを選んで増やしていく。広葉樹かもしれないし、ブナ、カラ松などかもしれない。
森の状況に応じて、どの木が合うか?を考えながら植えていく。
ゼロから森を作るわけではないので、今ある木々の植生を活かしながらデザインしていく。(現代の近自然林業)
スギの木が苗木から生育して伐採するまで長いものは80年以上かかる。この80年のサイクルの中でデザインしていく。
唯一コントロールできる陽の光
森の中で、一本の木を育てる場合、土壌、微生物、動植物、水、雨、風、天候などは人間の手によるコントロールが難しい。
フォレスターが手を加えられるのは「陽の光」だけだ。もちろん、太陽の日は変えられないけど、間伐や枝落ちをすることで、一本の木に降り注ぐ光の量、光の方向は調整できる。
どの木を育てるかを決め、その木が育つように、周りの環境を少し調整していく。
枝落ち
陽の光と枝の関係
太陽が多く降り注ぐと、それだけ枝が生えてくる。
森林密度を高くして陽の光が当たらないようにすれば枝は生えてこないし、間伐して陽の光を入れれば枝が生えてくる。
枝も小さいうちに枝落ちさせれば木材としての価値は保たれるが、大きくなったあとに枝が折れると、幹に穴が開き木材価値が下がる。
枝は、木々がぶつかり自然に落ちることもあれば、間伐時に倒れる木が枝にぶつかり落ちることもある。
ただし、裏杉は弾力性に強いので中々落ちない。既に死んでいる枝も残り続けてしまう。
ある程度木が育った後に、間伐などで陽の光が入ると、低い部分に枝が生える。人工的にその枝を切り落とすこともある。
草
陽の光は草にも関係する。
森林密度が高ければ、地面に草は生えづらい。間伐して森林密度が下がると陽の光がはいり草が生えてくる。
樹齢の高い木を残すために間伐して森林密度が下がった土地に、苗木を植えると育ちづらい。
周りの草の生命力に負けてしまう。
逆に、一度大きく育てば、地面の草に影響は受けない。
真っすぐに育てる
陽の光が上手に当たれば木は真っすぐに生えるが、そうでないと曲がってしまう。
2-3m育ったくらいだと、多少曲がっていても戻すことはできるが、7-8mまで育った若木は戻すことができない。
何も考えずにスギを植林しまくって、高密度でスギが育つと、曲がっているスギばかり。
7-8mだとまだまだ細い。この段階で手入れすれば間に合うと思いがちだが、もう手遅れ。
林業として使うには活用できない。。(その部分を少し伐採して植林するとか?)
苗木(保育)
森の中には、多種多様な年齢の木が存在する。全てが同級生なわけではない。
(戦前に、法制林という同じ時期に植林した方が効率的だという森林管理はあったが、実際には自然環境の多様さで上手くいかず、現在では使われていない)
間伐した場所に苗木を植えるなら、草から守ってやる必要がある。
また、雪が降った後には、ひもを使って雪起こしをしてあげる必要もある(その方が良く育つ)
雪被害
雪が降ると、木にダメージを与えることがある。
雪圧害といい、幹折れ,幹曲がり、幹割れなどの被害が出る。
幹割れしてしまったら、その時点で木材の価値は下がってしまう。
動物と獣害
森には熊や鹿も住んでいる。(人間の居住区に来てもらっては困るので、森の中などにしか居住できる場所はないともいえる)
雪以外だと、熊が爪で幹をえぐる、クマハギの被害もある。
クマハギされた木は木材の価値がほぼなくなる。
鹿もやっかいだ。鹿は草を食べる。
普通に苗木を植えたら、鹿がいる森では食べられてしまう。
フォレスターは森に入る時に、かがんで鹿の目線で森を見る。(ディアラインという)
一見すると草がたくさん生えているところでも、1.4m以下の草が全く生えていない土地に出会う。
ディアラインで森をみて、草が生えていないということは、鹿が多く生息しており、そこには新たに苗木を入れて育てるのは難しいそうだ。
多少の鹿の生息であれば、忌避剤(コニファー)、柵を付けて守ることはできるが、あまりに多いと害獣対策で頭数を減らしても難しい。
現在、岸田政権で、花粉症対策で、スギの木を皆伐して森を作り直す案が出ているが、森林関係者からすると無謀だという。
木々が生息していれば、それをベースに数十年かけて森を有効活用できるようにデザインできるが、
一度切り倒したら、一気に日光が当たり草がぼうぼうになり、鹿が増殖する。その土地に苗木を植えるのは難しいだろう。
ちなみに、今回の土地は豪雪地帯なので、鹿もそこまで多くない。
バイタリティVSクオリティ
林業には『クオリティよりもバイタリティを優先する』言葉があるという。
最終的な80年経った木材価値(クオリティ)だけを考えれば、枝葉が伸びる15m以内の木は伐採し、その一本にたくさんの陽が注ぐようにすれば、大きく太く、真っすぐな木が育つだろう。
しかし、森は雪も降れば、動物もいる。災害もある。生命力が弱ければ死んでしまう。
その木が最後まで(80-100年間)キレイに生えているかは分からない。
なので、クオリティ以前にちゃんと生き残れるか?が大事で、生き残れるかは運の要素も多い。
間伐する際も、最終的に15mの範囲で、その一本を残すにしても、10年目、20年目、30年目、40年目と候補となる木は残しておく。
今回間伐で40年生の木を伐採していたが、40年生だと細い。それでも、多少の付加価値はつく。
間伐は、伐採で収入を得る行為と同時に、保育行為でもある。
加工のサプライチェーン
ここまでは木の育成だけに焦点を当てたが、林業の視点では、木をチェンソーで切っておしまいではない。
切った木を林道まで落とし、加工してトラックに載せて、製材所に運ぶ。
※このサプライチェーンの効率化が先進国欧州との大きな違いでもあるようだ。(ここは別の機会に)
林道整備
日本の場合は、林道が整備されていない。整備されていても狭い。
林道が整備されていないと、50mを超える巨木を運び出すことができない。
森林経営において、どこに林道を敷くか?はとても大事な要素だ。
40年生で10mの高さの木ならば、20m置きに林道がないと、道に落とせない。(重機の手の届く範囲+上下のどちらに倒すか)
ヨーロッパでは20トントラックが行き来できる林道が整備されているという。
日本は10トントラックが通るのも難しい道が多い。
そうなると、12mの木をそのまま運び出せない。森の中で、4m×3本に分割して運ぶことになる。
森の中で作業する手間が増え、荷積みの手間が3倍になる。
さらに、製材所ではレーザーで歪みをみて、その木材が最も高い価値を出せる位置でカットできるが、森の中では難しいので、均一で3-4mで切るしかない。
どこに、どの幅の道を作るのか?もフォレスターの重要な要素だ。
とはいえ、山の斜面が急だと、作れる林道の選択肢も少ない。土地の地形と作業性を鑑みて最適解を考える。
災害対策
大型のトラックが通れる道だけを考えれば、真っすぐな道を敷くのが効率がよい。
フォレスターが指示なく依頼すると、土建屋さんは真っすぐな道を敷いてしまう。
しかし、50mの真っすぐな道を作れば、大雨の際に、そこが水の通り道になり、鉄砲水が起きる。土砂崩れの原因にもなる。
基本は山の等高線に従いうねった道を作る必要がある。
大雨や台風時の水の流れも計算して道を設計しなければならない。
一部区間、林道の上に水が流れる道をつくることもある。その地点の林道はコンクリートにすれば、水は上を流れる。
脱炭素
現在、日本の林業に大きな補助金が払われている理由は、脱炭素(気候変動)の文脈が大きい。
単純に脱炭素だけを考えれば、間伐せずに放置していた方が吸収量は高い。(林野庁のページに、間伐するとCO2吸収量が上がるとの記載があるが、様々な研究で、間伐により1本の木のCO2吸収量があがっても森全体の吸収量は多少低くなるとされている)
一方、森には木材以外にも多くの資源がある。獣害の問題もある。
木材としての利用価値が高く、人間が活用しやすい森と脱炭素を両立させていく必要がある。
収益化できない日本の林業
ここまで色んな視点で書いてきたが、現在の日本の林業の難しいところは、収益化ができないところだ。
苗木を育てて、森林を丁寧に手入れして、間伐して、、、
今回みた40年生くらいだと、1本あたり1-3万円にしかならない。
今回間伐したエリアで、間伐の作業費だけで800万円ほど。
一方で木材の収入は700万円。
木材収入だけでは間伐の作業さえも賄えない。
さらに今回の作業のために新設の林道を作っており、その林道は800万円ほどの費用がかかっているという。。
ヨーロッパの林業
ヨーロッパでは、林道や木材加工、森林管理など総合的かつ長期に取り組んだ結果、日本よりもずっと収益性が高い林業が営まれている。
もちろん、日本とは育種も異なり、環境も異なるので、一概に比べられない。
でも、これだけ森林資源が豊富な日本で、色々なことがチグハグなために、
上手くやれば今よりもずっと(経済的にも自然環境的にも)価値のある森を作れるポテンシャルはあるのに、「もったいない」と感じてしまう。
どこかで時間があったら、この前提となる、歴史的背景、政策背景、林業先進国(EU)との違いについても纏めたい。
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