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未来は予測できなくても、波を読む事はできる~コンテナ物語からの教訓(2)

※誤って記事が削除されたため、2020年9月23日の記事を再掲致します。

前回、コンテナ物語という本を読んで、”自分が最初(パイオニア)ではないからと諦める必要はない。”をテーマに記事にした。

繰り返しになるが、コンテナ物語の教訓は、”パイオニアではないからと諦める必要はない。”と言う事。
先発か後追いか、開拓者か二番煎じか、というよりも、時流の流れを読むことの方が大切だと気づかされる。

『”二番煎じ”だからと諦めていませんか?~無名の後発が世界を変える』

今回は、前回の記事の最後で締めた、以下の『時流を読む』について考えていきたい。

先発か後追いか、開拓者か二番煎じか、というよりも、時流の流れを読むことの方が大切だと気づかされる。
先発だろうが後発だろうが、都度大きな流れを読み、柔軟に合わせていく。
大きな変化であればあるほど、流れは複雑だ。


未来を予測する事は出来ない


不確実な時代、VUCAの時代と言われて久しい。
激動の時代になったと言われ始めたのは、2000年代後半の頃からだろうか。
確かに、この10年、20年の変化は凄まじいものがある。

以前の記事『どうして「視野」を広げるだけでは不十分なのか?~不確実性時代のキャリア志向』の中でも、
世の中の変化を予測するのは困難だと書いた。

我々は、数十年先の社会を予測することなど出来ない。

かろうじて、専門家が叡智を集めて、限定した分野の来たるべき複数のシナリオを描くのが精いっぱいである。
ざっと30年間を振り返っても。社会の価値観は変化を続けている。

・1990年の冷戦終了
・1995年の阪神大震災。その後のNPO法へ。
・1995年の地下鉄サリン事件。無差別テロの時代へ。
・1997年のアジア通貨危機
・2001年の911。
・2000年前半のインターネットバブルの崩壊
・2008年前後の世界金融危機
・2010年のトッドフランク法以降のSDGs、ESG
・2011年の東日本大震災、原発事故
・2017年のトランプ大統領就任
・2016-2019年のイギリスのEU離脱
・2019年からの米中貿易摩擦
・2020年の新型コロナウイルス
それぞれの出来事を通して、世の中の価値観は大きく変わっている。。

社会の変化が、個人のキャリア形成に与える影響は想像以上に大きい。
仕事とは、誰かの役に立ち、対価を頂くことだ。
”誰か”は社会の一部であり、仕事は社会の状況から相対的に決まる。

世の中の価値観の変化を加味せずに、20年後の個人のキャリアを予想する事にどれほどの意味があるのだろうか?

確かに、この30年は激動の時代と言えるし、今後も続いていくのだろう。

が、もう少し時間軸を広げてみると、この30年に限った話ではないと気づく。
前時代を生きていないので想像に過ぎないが、常に激動の時代だったのではないか。
15世紀の中世までは”永遠の過去が繰り返される”と考えられていたのかもしれないが、
少なくともルネサンス期や科学革命以降、何百年も想定外な事ばかりで、人間が未来を正しく予測できたことはなかったように思える。


コンテナ物語でも、各時代に色々な専門家が予測した未来が紹介されている。

コンテナが使われ始めた当初、コンテナは近距離輸送でのみ有効と言われていた。
しかし、実際には近距離どころか、世界中の国同士の貿易で使われる。

その後、コンテナが海運業界に広まり始めた頃、鉄道輸送、トラック輸送には広がらないと言われていた。
実際には海運に限らず、陸運、そして空運の輸送をシームレスに繋いだ。

これからは高速船だ!と燃費のかかる高速船が台頭してきた矢先に、オイルショックで原油価格が高騰。高速船は無用になり燃費の良い大型船の時代になる。
その大型船の時代も、長く続くと思われた矢先に、原油価格が大幅に下落し、高速船の時代になる。

誕生から60年、何度も今を上回る輸送能力は必要ない。と言われてきたが、
世界経済、世界貿易量の増加率を大幅に超えるスピードで、今も伸び続けている。
パナマ運河を通る以上の巨大船(パナマックス級)は生まれないと言われていたが、あっさり超えさらに巨大化している。

本当に未来の予測は当てにならない。
コンテナ物語のまえがきに、著書の主張が書かれている。

だが私には、『コンテナ物語』が教えてくれるいちばん重要なものは「予期せぬ結果」が果たす役割だと思えてならない。
(中略)
だが、コンテナリゼーションの歴史は予想を裏切る展開を示し、この種の合理的な分析の限界を雄弁に物語っている。
(中略)
コンテナリゼーションがグローバル・サプライチェーンを大幅に再編し、物流における規制緩和の誘因となり、北大西洋が中心だった世界貿易に東アジアを組み込むことになるだろうとは、だれ一人創造していなかったのである。
※コンテナ物語のまえがきより

コンテナ物語を追うだけでも、昔から人は予測を外している事がわかる。
不確実性の時代は今に始まった事ではない。

ここから得る教訓は、過去に行われた予測が当たったかどうかを表面的に取り上げる事ではない。
専門家の予測が当たったか外れたかで一喜一憂するのではなく、『どうして、あなたはそう予測したのですか?』という予測の根拠だ。

その根拠は、当時の常識が色濃く表れる。
前提条件が変わってしまえば、未来予測は役に立たない。

『どうせ未来なんて予測できないのだから、何も考えずに流れに身を委ねましょう』という声も聞こえるが、
それでは行動に移せない。。他人任せになってしまう。

未来は創るものだが・・

未来は他人任せなのか?
”未来は予測できる?、できない?”という話をしていると

『いや、そもそも未来は予測するものではなく、自分で創って、つかみ取っていくものですよね?』

という意見を聞く。

僕もこの意見には100%同意だ。
”他人の未来予測に身を委ねるのではなく、描きたい未来を自分で切り開いていく。”方が前向きだし、実際的だ。

”世の中はこう変わるだろう?”と他者に未来を依拠するのではなく、
”世の中をこう変えたい!”と未来に主体性を持ちたい。

ただ、社会変革を見ていると、どうもそれだけではない。
世の中には流れがあるようだ。

プロジェクトX、ガイアの夜明けのような感動するストーリーを観ると、あたかも一人の勇敢な開拓者が周りを動かして社会を変革したように見えてしまう。

だが、実際そう単純ではない。。

勇敢なチャレンジャーの偉業だけでは変わらない。
偉大なチャレンジが、世の中の流れ(ベクトル)に重なった時に、大きな変革に繋がる。

コンテナ物語にリアルさを感じたのは、この部分である。
以下、まえがきの一節を紹介したい。

『中でも予想外だったのは、多くの読者がイノベーションについて型にはまった見方をしている事だ。
マクリーンはどうやってコンテナを思いついたのか、よく質問されたものである。
(中略)
この「閃きの瞬間」を私は『コンテナ物語』で取り上げていない。そんな瞬間は無かったと考えたからだ。
(中略)
ところが大抵の人は、埠頭でのひらめきといったエピソードが大好きだ。
(中略)
みんな、ヒーローが大好きなのである。だが、技術の進化は複雑なプロセスであり、一人の人間の英雄的な努力だけでやり遂げられる事はめったにない。
現実の世界でのイノベーションの実際を学べることは、『コンテナ物語』の効用の一つと言えるだろう。
※コンテナ物語のまえがきより


変化の幅が大きいほど、勇気ある開拓者、先見性のある一企業、特定の業界など、少数の偉大な開拓者がリードするわけではない。
確かに、開拓者は、世に新しいものを生み出し最初のきっかけを創り出した点で、偉大であり変えがたい存在である。
しかし、開拓者たちは後の大きな流れを主導していない。
ゲームチェンジが起きて、業界の弱者だけでなく、全く無関係の新参者が主導権を握るようになる。

大きな変革は一人(一社、一業界)の思惑では動かない。

周囲を巻き込こむと同時に、
世の中の流れに注意を払う必要がある。

不確実性を計画に入れ込む

世間は気分屋だ。
昨年まで見向きもされなかったことが、何かの拍子で流れが変わり注目を集める。

いま、取り組んでいる事が世の中に注目されていなくても、何かの拍子で注目される可能性は十分ある。


気分屋なのだとしたら、今の取り組みが社会の変化に乗る、いつかその時が来るまで待ち続けなければならないのか?
いつ来るかもわからない偶然に未来を委ねて良いのだろうか?

ウガンダで事業を続けていると、似たような虚無感を抱くことがある。
アフリカ発の世界を変えるイノベーションを生みたいと思っているが、二ッチなアフリカ、物流業界が注目を浴びる事は少ない。ここから世界は変わると信じて、全力投球している。
ただ、大きな流れが起きないと、変わらないのも実感している。

その流れはいつ来るのか?その偶然をひたすら待ち続けるしかないのか?
世の中の大きな流れを半歩早く感知して、近くに波が通った時に上手く乗る方法はないものだろうか?

そんな思いもあり、3年程前から、世の中の流れに興味を持ち始めた。

ちなみに、僕は創業して1年を過ぎたあたりから、事業計画を作らなくなった。
元々コンサル出身で、事業計画は基本中の基本と叩き込まれてきたのだが、創業して1年が経つと、無理して事業計画を作る事に違和感を感じていた。
事業計画に縛られるようになり、臨機応変な意思決定が出来なくなったように感じたからだ。

その頃、友人で先輩経営者であるクルミドコーヒーの影山さんに相談したところ、『私も事業計画は作りません。』という。
影山さんはマッキンゼー出身で、ベンチャーキャピタルの創業も経験されているような方だが、その方が事業計画を作らないと。
その理由を聞いて、自分も自信をもって事業計画を捨てたのを覚えている。

※影山さんの『事業計画を作らない』については、こちらの記事にも載っていました。


事業計画は一種の未来予測だ。
事業計画は中長期の活動を規定する。その間、計画通りに!と無思考になる。
世に新たな流れが来ているのに、見ないふりをする。惰性で進みやすくなる。
一度立ち止まって戦略を練り直すタイミングを逸してしまう。

その度に立ち止まって作り直せばいいではないか?と思うだろうが、
事業計画に落とし込むのは時間を要する。
小さな変化(予兆)は常に起きていて、その度に何度も作り直すのは億劫だ。
うちのような零細企業では、いちいち事業計画を作り直す時間があったら、新しい種を撒く方に注力した方が遥かに効果的だ。

もちろん、投資家やVCなど外部から問われれば、作る。
しかし、その事業計画に活動を縛られる事はない。
事業計画が独り歩きする事はなくなった。

話しを戻す。
世の中の大きな流れを半歩早く感知して、近くに波が通った時に上手く乗る方法はないものだろうか?

時流に乗るとは?

未来は予測できなくても、世の中の流れ、社会の動きを早めに察知する事は可能ではないか?
そう思うようになった。

具体的に、”予測”と”時流を読む”はどう違うのだろうか?

第一に、予測は具体性を要する
『2030年のEC業界の市場規模はxx億ドルになる。』『2025年には、EC事業の主要プレイヤー上位3社が寡占しており・・』
と具体的な数値、時期、姿を持つ。

時流を読むとは、『2030年には(こういう条件が揃えば)現在の4-5倍の市場規模になるかな』
『今後5年で、(こういう風潮が広がれば)EC業界は垂直統合されるかな』
程度の事で良い。

第二に、予測は一つの答えを求める
時流を読むのであれば、『市場が拡大する方向性にある』とさえ決めつけなくてよい。
『こういう条件ならば、市場は大きく拡大する方向にある』『こういう条件なら、市場は停滞する』と複数のシナリオを用意してもよい
突飛押しもないシナリオもあれば、保守的なシナリオも用意すればよい。

第三に、予測は結果が独り歩きする性質がある。
予測結果の数字やキャッチ―なメッセージだけが広まる。
予測した本人も、『予測を当てなきゃ!』と予測が義務感に変わり、中立性を保てなくなる。

時流を読むのであれば、中立性を保ちやすい。
描いたシナリオにコミットする義務感も出てこない。
世の流れが変わり、前提が変わったら、またシナリオを作り直せば良い。
定期的にアップデートする事に躊躇はない。

予測は結果に注意が向くが、時流を読むではプロセスに重きが置かれる。
”こういう条件が揃えば”と前提に注意が向く。

大きな波が発生する前には、小さい波という予兆がある。
その小さい波が前提条件となる。

その予兆の波は、自分の活動(事業)が意図的に引き起こす事もあれば、
社会の流れ、潮目が変わって現れる事もある。

どちらにせよ、複数のシナリオをイメージする中で、この予兆のピースを具体的にイメージできるようになる。
それぞれの予兆を具体化しておく事だけでも、時の流れを察知できるようになるだろう。


私のいるウガンダの宅配業界でも様々な変化が起きている。
こちらの記事で、2019年9月、ちょうど一年前にウガンダ宅配業界の転換期について紹介した。

一年後の現在、この記事とは全く異なる市場環境であり、前提が変わっている。
もちろん、コロナ・ウイルスが与えた影響は大きいが、それだけではない。

当時考えていたシナリオとは大分違う状況になっているが、その時に挙げていた条件(予兆)は今も活きている。
コロナウイルスは世界に多大な影響を及ぼしているが、新しい流れが突然沸いて出てきたわけではない。
それ以前から発生していた小さい波の数々が、コロナ禍の大きな流れに乗って増幅したり、沈んだりしている事が多い。

シナリオ・プランニング

時流を読むにあたり、
自分の状況、事業にあったやり方を模索すれば良いと思うのだが、

最後に、一つ、シナリオ・プランニングという手法を紹介したい。

1970年代にオイルショックの前に、シェルが起こりうる未来をシナリオを想定して備えていた事で有名な未来洞察手法である。

僕自身、今年の4月までシナリオ・プランニングの言葉自体知らなかったのだが、
友人にシナリオ・プランニングを活用し、アフター・コロナの世界を描くワークショップにお誘い頂いたのをきっかけに触れた。

【シナリオプランニングとは?】
未来洞察手法であるシナリオプランニングでは、幅広い外部環境情報に触れながら変化の構造を理解し、不確実性の高低や自社へのインパクトについて多角的に議論を行いながら、起こりうる未来について複数のストーリーを構築、適応策を検討していきます。

-- シナリオプランニングの成功例
シナリオプランニングの成功例としてはシェルの事例が有名です。

「もし、石油メジャーではなく産油国が石油産出量の決定権を握り、世界的な石油供給がかつてなく逼迫したら…」

これはオイルショックに先立つ1970年代初頭にシェルが起こりうる未来として想定していたシナリオです。シェル経営陣は起こりうる未来シナリオを十分に理解し、それに備えていたことで、中東諸国の動きから石油危機シナリオが現実化しつつあることに気づき、それに基づく戦略的意思決定を行うことで、危機に適応し、石油メジャーの上位企業に躍進したと言われています。

不確実な時代の戦略的思考「シナリオプランニング」を用いた2030年の社会

具体的な事例を知りたいならば、こちらのYoutube動画がわかりやすい。
10分でシナリオ・プランニングの概要、要所、そして2020年時点での実例を示してくれる。

シナリオ・プランニングのおもしろいところは、
不確実性の低いこと(高い確率で起こる事)を所与の前提として区別し、不確実性が高いこと(=実際に起こるかが不明なこと)と分けていることだ。

先ほどの条件(予兆)を、高い確率で起きそうなこと(所与の前提)、起こるか分からないが起こったら影響が大きい事に区別している。
不確実性の高いことは大前提として切り分け、不確実性の低い(起きるかどうか分からない事)を組み合わせてシナリオを作っていく。

また、大組織のディスカッションツールとして、大変有用なツールだと思う。
複雑な利害関係者が絡み合うような大企業で、将来に向けた大きなかじ取りの合意形成は簡単ではない。

シナリオ・プランニングでは1ステップずつ確認を持って進めるため、前提条件(所与の前提など)を合意しながら進むことができる。
また、一つのシナリオに絞り込むことがないため、反対派や保守派の意見を切り捨てずに議論を進める事ができる。

最後に

前回の記事から2回に渡り、コンテナ物語を読んで得た教訓を紹介させて頂いた。

未来は予測できない。偉大な開拓者だけで創れるものでもない。
偉大な開拓者の想いが時流に合わさった時に大きな流れを引き起こす。

単に、流行りに乗っかっているだけでは、現場感もなく、軸がブレて薄っぺらくなってしまうが、
いくら自分が信じた道があるからといって、世の中の流れを無視して大きな変化を引き起こす事もできない。

描きたい世界は大事にしつつ、
主軸となる活動は現場感を持ち、深めつつ、
世の中の時流を読み、その予兆を感知して、自分の軸となる活動を波に乗せる事が、
大きな変革に近づく一歩なのではないか。

コロナ禍で世界の潮流は大きく変化をしている最中だ。
僕も今後の潮流の流れを掴むべく、4月から様々な分野の方とディスカッションしている。

興味のある方、お声がけください。一緒にディスカッションしていきましょう。

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