見出し画像

エッセイ129. オーディオブッククラブ

私はここしばらく、5時ごろに起きています。

トマトの芽欠きをして、行燈型の枠に、枝を無理やり誘導することから1日が始まります。
次に 夕顔の葉っぱを毎朝わしわし食べているトロい瓜葉虫をペットボトルに誘導し、だいぶ食べられてしまった葉っぱに、ピリカレ500倍希釈液をかけます。夕顔とへちまのつるのうち、本葉が数枚になっているものがあったら摘心しておきます。
今年のグリーンカーテンは葉っぱがわさわさのものにしたいです。

家に入って、二十日大根の葉っぱにまだしつこくたかっている葉ダニを
セロテープでペタペタ取っていると、夫が昨夜タイマーセットをした洗濯機が、静かな音を立てて注水を始めます。

6時ちょっと前になると、夫がスピーカーとスマホを2台ずつ持って降りてきますので、私はそこで一旦 台所に引きこもります。

夫がNZの母と続けているオーディブッククラブが始まるのです。
始まる前に、音のうるさいコーヒーメーカーで、ガーッと豆を挽かなくてはなりません。

Boseのスピーカーから、本の朗読が流れてきて、母と息子が一緒に聞くようになって、1年半が経ちました。

きっかけは、義母が加齢黄斑変性症という目の病気にかかってしまったことです。
目の中心からは見えませんので、まだ独り暮らしはできているものの、本を読む、テレビを見る、料理をするなどは、できなくなってしまいました。

それまでは、お互いのお薦めの本を読んだり、こちらからは字の大きいクロスワードパズルを送ったりしていたのですが、それもなくなりました。

誕生日やクリスマスに必ずカードとプレゼントを送ってくれていた母ですが、
品物を選ぶこともできなくなったので、この辺でやめさせてもらうね、と言ってきました。
なんだか寂しくなりました。

それで夫が考えて、毎朝仕事の前に、一緒に本を聴くことになりまして、
それが続いているのです。


母:おはよう。
息子:おはよう。元気?
母:元気よ。こっちはすごくいい天気。
  部屋の中の私のところまで朝日が差し込んでいるよ。
息子:じゃあ、今日は昨日の続きね。いい?
母:あ、ちょっと待って。今日はジャネットが一度注射打ちにくるので、
  来たら一回中断させてもらっていい?
息子:いいよ。

日本との時差が、季節によって3時間か4時間あります。
夫は、出勤する時は7時半ごろには出ますので、オーディオブッククラブは日本の6時から7時ごろ、NZの9時から10時からになります。

どんな本を聴くかは、義母は一切、息子に任せています。
義母はとても昔かたぎの人で、一緒に映画を見ていて、あまりに剥き出しのシーンが出てくると、す〜っと席をはずしてしまう人なのですが、本の方は全然大丈夫です。

なので夫は遠慮なく、好きな本を選んでいます。
連続殺人、サイコパス、SF、ファンタジーと、なんでもありです。

また夫は、Podcastの本の虫向けの対談番組をずっと聴いていて、そこで取り上げられた本もよく選びますので、時によると、その本を聴く前とか後に、Podcastも聴いて、盛り上がったりしています。

ときどきは選択に失敗して、夫にさえ残酷すぎだったり、退屈だったりすることがあって、そんなときは、

息子:ちょっと待って。これちょっと・・やめとく?
母:う〜ん・・でもこのチャプターだけ聴いて、それから決めない?
息子:そうしようか。

とか、

息子:お母さん。
母:・・・・・
息子:おかあさーん。マ〜ム!
母:あ、ごめん寝てた。

なんていうこともあります🤣

私も最初のうち、たまーに参加していましたが、なんとなく、

長く続くためにはあんまり余計なファクターがない方がいいのではないか。
淡々と始まって、ルーティンで聴いて、また明日、がいいのではないか。

と思ったので、台所でお弁当を作っていたりするようになりました。
今でも、それがいいんじゃないかなと思っています。


義母は、親戚に起こったいろいろな事を話してくれます。
また、一人暮らしは好きなんだけど、そろそろ限界かな、などと言い出すのに対し、息子が、

わかるけど、一度個室を出てグループリビングになると、
もう今の部屋は次の人が入ってしまうでしょ。
よく考えた方がいいよ。

などと答えています。

この頃は、フランク・ハーバードの 「デューン」を聴いています。
長大なものなので、一冊終わったら、別の本を挟み、また先へ続けるそうです。

今朝も始まりました。

母:Good morning!
息子:Good morning.
母: How’s everything?
息子:Yeah, everything is great.
母:Well, then, we should get on our story, then?
息子:Yes, we should, we should.
母:And I don’t have any interruption this morning.
息子:Good, good. Well..
母:OK, love.
息子: Here we go!

訳さないほうが雰囲気がわかるかと思って、ちょっとそのまま書いてみました。

オリンピックのこと、コロナのこと、日本とNZの政治のこと。
本を聴く前後にいろいろ話している日もあります。

義母は来年の10月で100歳になります。
そうすると、宗主国のイギリスのエリザベス女王から、お祝いの電報が届きます。
夫は母の誕生日には、コロナがどうであっても、行くつもりだそうです。
女王の直筆サインを私も見たいので、女王にも義母にも、ぜひ元気で100歳を迎えてほしいなぁと思っています。

もしかして、世界で一番、息子と喋っている100歳かもしれませんね。

義母がんばれ!

サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。