見出し画像

日本語教師日記64.言うべきか言わないべきか: 味醂と酢

プライベートレッスンの最中に、
一息ついての雑談が、相談タイムになることもよくあります。

話しているうちに、これはどうしたものか、と悩むことも。
今日はそんなお話を。



食べ物に禁忌のある人はたくさんいます。
宗教により、豚肉を食べない人、飲酒しない人は多いですが、
過去に外国で、日本食品の精製過程で豚を「間接的に」使っていたのがわかり、
大規模な不買運動に発展したこともあります。

ウィキペディアより
【味の素追放事件】
「インドネシア味の素事件」と呼ぶ場合もある。
2000年にインドネシアで「味の素」の原料にイスラームの食品禁忌(ハラーム)とされている豚肉が使用されている疑いがあるという噂が流れた。材料としては豚の成分の使用は無かったが、発酵菌の栄養源を作る過程で触媒として豚の酵素を使用していたために、現地法人の社長が逮捕された事件。



すでに日本語教師をしていたので、これはよく覚えています。
宗教的な禁忌は、私たちの思うよりずっと大事でシリアスです。

さて、先日生徒から、味醂(みりん)とお酢についての質問がありました。

先生、私の国で味醂と酢がたくさん売られていますが、
お酒は入っていますか?
こっちに回転寿司がいっぱいあります、大丈夫ですよね?

お店に並んでいるものの写真を送ってくれました。
見てみるとそれは、「味醂風調味料」。

私の認識では、醤油・酢・みりんにはお酒が含まれています。
けれど、和食もお寿司も大好きでよく食べている人ですので、
確認せずにうろ覚えのことを言うことはできず、かなり悩みました。

それでその場での即答は避け、宿題にさせてもらいました。
レッスン後 さっそく、味醂との違いを調べてみましたが、
アルコールは お酢・みりん・醤油にもそれぞれ違う度数で
入っていることを知りました。

まずみりんですが、「本みりん」のほうは昔ながらの製造法で、
アルコール度数は14%。

味醂風調味料は、1%以下だそうです。

「酒類」になるのは1%以上ですので、「本味醂」は酒税もかかり、
販売許可のある店でしか売れません。

ちなみに昔、味醂は、甘さを楽しむ高級なお酒でした。
「柳かげ」という、味醂1:焼酎2のカクテルで、
暑気払いによく飲まれていたそうです。

それに対して、「みりん風調味料」は1%以下のアルコールなので、
酒税はかからず、酒類販売許可を得ていない店でも売ることができます。

しかし、1%という微量であったり、
法律で「酒類」に分類されないとしても、アルコールはアルコールです。
飲料のお酒扱いされていないとしても、
入っているかいないかといえば、入っています。
生徒によると、どんな微量でも、お酒は絶対に飲んではいけないそうです。


それで思い出しました。脱線します。

昔のことですが、宗教上の理由で豚肉を食べない人と食事に行ったとき、
一行の中の誰かが、大根の挽肉あんかけを頼みました。
当然、豚肉を食べない人は、それは食べません。

見ていると、親切で、

なに、君は豚肉だめなの?
じゃあほら・・

と、割り箸で大根から挽肉をこそげ落としてあげた人がいました。
親切ではあるのですが、ひょっとすると豚肉を食べないのを、
「偏食」「好き嫌い」の枠でくくったのでしょうか。
肉のところを食べなければいいんでしょう、ということになったと思われます。
もちろん、そうしてもらった人は恐縮しつつも、
大根を食べることはありませんでした。


さて、ムスリムの生徒さんを教えていた間は、
しょっちゅう食品のパッケージの成分を、頼まれて読んでいました。

ラードが入っていますね。
これしか書いてないから、わからないですね。
では、会社に電話して訊きましょう。

お菓子の会社には、よく電話をかけました。
日本でも普段の食材は、ハラール食品
(イスラム法で食べて良いとされている食品)
のお店で買えますが、お子さんはやはり市販のお菓子が食べたいでしょう。
製菓会社に問い合わせてみると、わからないことが多かったです。
前記の「味の素事件」を見て、海外での厳しさはわかりましたが、
日本で製造会社に問い合わせてみると、
製造の過程で何を使ったまでは、オペレーターさんは知りません。
そういう質問も想定外だったでしょう。



さて、お酢のほうですが、これはお酒を酢酸菌で発酵させて作りますから、
いかにもアルコールが含まれているように感じました。
しかし、調べてみると、製造の過程で、アルコールが酢に変じるため、
含まれるアルコールはわずか0.2%だということです。
これは知りませんでした。

さらに検索していくと、
ハラル認証を受けた食品についてのサイトがありましたので、
さっそくその生徒に情報を送りました。

お国でも、和食特にお寿司を楽しみ、日本滞在経験があり、
上手に和食も作れる人ですので、このサイトにあるハラル認証の調味料を使えば、もう心配ありませんね。
安心して、たくさん食べてもらいたいです。


ついでに、お酢についてもう少し書きますね。

私は、ミツカン酢の創業者、中埜(なかの)又左衛門さんが大好きです。

愛知県半田市の酒造家一族の出身の人で、
半田運河添いに酒の文化館を構える中埜酒造も(国盛)
又右衛門さんの親戚です。

https://www.nakanoshuzou.jp/museum/


又左衛門が酢の醸造を手掛けようとした時、一族が大反対しました。
なぜなら、たとえ一粒でも、酢を作る酢酸菌が酒蔵に入ってしまうと、
そこの酒の全てが、酢と化してしまうからなのだそうです。

しかし、親戚中に大反対されながらも、挫けることなく、
美味しい酢を作ってくれた又左衛門のおかげで、
今私たちはおいしいお寿司を食べることができるのです。
なんとありがたいことではありませんか。

ちなみに、お寿司はもとは、「熟鮓(なれずし)」といい、
魚などを米と塩でで長期間発酵させた食品で、
今のお寿司とは似ても似つかぬものです。
琵琶湖畔の名物で、鮒寿司というのが有名です。

その酸っぱさを、長期に亘る発酵ではなく、お酢を用いて作り出し、
魚介とご飯を早く食べられるようにしたのが、
今私たちが食べているお寿司だということです。
これを昔は「熟鮓(なれずし)」に対して、「早寿司」と言いました。

お酢について、楽しく学べる博物館が愛知県にあります。
今はコロナのため、ずっと休館で残念ですが、
愛知県半田市のミツカン本社にある、ミツカンミュージアムです。
中埜又左衛門が江戸にお酢を運んだ船の(すごい立派!)
実物大模型に乗り込んで、めくるめく映像で又左衛門の偉業を偲んだり、
お寿司の模型を作るワークショップや、
自分の写真をラベルにして「味ぽん」のボトルに貼れる写真館があるなど、
たっぷり楽しめる体験型の博物館です。

コロナがおさまったら、是非おいでください。
付近の運河も素晴らしいし、おいしいお店もたくさんあります。



恥ずかしいので顔になんか貼りましたが、私が作ってもらったラベルです。

画像1

ちゃんとあのメロディ〜、ミツカン、あぁぁ〜じぃぽん♪が聞こえてきますね。

サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。