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盲亀浮木

 亀のデザインの商品を集めたネットショップをやっているので、お店のTwitterやFacebookのネタ探しにちょくちょく「亀」をキーワードにニュース検索していたりします。
 今日はニコニコニュースで仏教用語の「盲亀浮木」が紹介されていたので、以前から少し考えていたことを。

 盲亀浮木とは仏教のたとえ話です。「広大な大海原に一本の穴の開いた木が浮かんで、あちらこちらへと漂っている。そして海の底から100年に一度浮かび上がってくる、目の見えない亀がいる。亀がちょうど木の穴に頭を入れるということがあるだろうか」という譬えで、人間に生まれてくるというのがどれ程ありえないことで、どれ程幸運かということを言ったものです。

 宗教ベースのお話が嫌、という方はここらへんでブラウザを閉じていただいても結構です。

 仏教に限らず古代インドの思想では、輪廻転生が前提となっています。生き物は死ねば、別の生き物に生まれ変わるという思想です。そして今生に人間に生まれてきたからと言って、次も人間に生まれてくるわけではありません。獣や鳥、虫や魚に生まれてくる可能性の方が遥かに高く、人間に生まれてくることはほとんど有り得ないと言っても良いほどの幸運なのです。「盲亀浮木」はそれを表現した言葉です。
 もともと仏教は悟りをひらいて、この輪廻の輪から解脱することを目的にしているのですが、人間に生まれて仏教に巡り合わないと解脱のためのスタートラインにも立てないのです。浄土真宗では「人身受け難し」「仏法聞き難し」と表現しますね。

 現代的に考えれば「生まれてきたこと自体を幸運だと思って、一度きりの人生を大事に生きていきましょう」という話なんですが、元々は「今生の内に悟りをひらかないと、未来永劫輪廻から抜け出すことはできないぞ。生まれ変わるからと言って、次のチャンスがあると思うな」というわけです。結局、仏教を信じないと救われないと言っているわけですが、そもそも宗教というものがそういうものなのですよね。

 ここでちょっとご注意。今、どうしようもなく気持ちが沈んで、追い詰められたような気分でいる方は、ここまででブラウザを閉じてください。自殺をテーマにした話になります。


 キリスト教では自殺は罪とされています。キリスト教は神と人との関係を重視する宗教で、神の意志に反する行動は全て罪です。詳しく調べずに迂闊な事を書くといけないのですが、自殺は神から与えられた生命を自ら断つ故に人と人の間に生じる罪よりも重い罪だとされているというイメージです。新興宗教やオカルト系でも「自殺した人の霊は地獄に落ちて、永遠に救われない」なんてのが多いですが、西洋的な感覚だと思います。
 これに対し盲亀浮木の譬えを自殺との関連で考えると、「せっかく人に生まれた命を自ら手放すなんてもったいない」という話になります。古代インドでは生まれ変わりがあると信じられていた。それも当然あるものとして、固く信じられていたわけです。ところが生まれ変わりがあるものとすると、人生がうまくいかなかったら来世に期待、という発想は当然出てくると思います。それに対して「自殺は罪です。自殺した人の魂は、地獄で永遠に苦しむのです」と禁止して脅すのではなく、「死んでも今より良くはならないよ」と諭しているわけです。来世に期待して自殺しても、ボウフラやら蛆やらに生まれ変わるのが関の山、それで何兆回やり直してももう一度人間に生まれ変わることなんてないよ。という訳です。
 キリスト教より優しいと感じるでしょうか。回りくどくて、いやらしいと感じるでしょうか。いずれにしろ古代においては、人間の労働力は何物にも代えがたい資源だったわけで、たとえ人情を離れて損得のみで考えるとしても、自殺なんて社会の得にはならないのです。
 ところが同じ「自殺を止める」という目的に対して、仏教とキリスト教ではアプローチの仕方が全然違うのが興味深いなぁ、と言うのが昔「盲亀浮木」という言葉を初めて知った時以来考えていたことです。確認はしていませんが、キリスト教と同根のユダヤ教やイスラム教は、たぶんキリスト教と同じような考え方なんでしょう。神道や宗教としての儒教、あるいは道教なんかだとどんな感じなんでしょう?自殺をタブー視する感覚自体が薄いような気もしますね。

 テーマが自殺ってのは、お店のSNSで扱うにはあまりふさわしくないし、長文になっちゃたしなので、noteでの公開にすることにしました。お店のSNSからもリンクだけはしておこうかとは思いますが。
 亀テーマのエッセイも、これから書いていきたいなぁと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。お店のサイトもご覧いただければ幸いです。


 

 

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