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乾電池は「缶」じゃない?【雑学エッセイになりそこなったエッセイ】

 ご注意:この文章は途中でそれまでの記述がひっくり返ります。最後まで読まずに途中までの知識を他人に披露すると恥をかく恐れがあります。

 子どもの頃、乾電池は”缶”電池だと思っていました。”乾”電池だと気づいた時には、驚いたものです。なんで最初から乾いた電池にわざわざ「乾」という字を使うのか。湿った電池があるというのか。そういえば電池の”池”の字もなんで”池”なんだ。疑問は色々と湧いてきます。
 で、そんな疑問を持ち続け、理由が分かった時には凄い知的快感を覚えた、とかだったら格好もつくのですが、中学や高校でその答えになる知識を習っている時にはそれと気づかず、大人になってから「そう言えば」という感じで知識がつながったのでした。
 ということでちょっと電池についてまとめてみようかと思ったわけです。同じ様に理科の知識と、漢字についての疑問が繋がっていない人のお役に立てれば幸いです。

 結論から申しますと、乾いていない電池はあります。いちばん身近なものでは自動車のバッテリーです。自動車の構造について知る機会の有った方なら、自動車バッテリーの中は電解液が入っていることはご存知かと思います。人によっては電解液だけを買ってきてバッテリーに補充した経験のある方もいるでしょう。極端に言えば、自動車のバッテリーは電解液のタンクに電極の付いたものと言えます。
 また世界最古の電池と言われるボルタ電池。これも電解液に2種類の金属を浸すことで電気を取り出す仕組みとなります。つまり電池の本来の姿は電解液に満たされた容器と少々の付属物であり、その姿はまさに電気を生み出す”池”です。そしてその欠点である取り扱いの難しさを解消するため、電解液を何かに染み込ませたり、ペースト状になるよう工夫した電池が”乾いた”電池である乾電池である、という訳です。
 ちなみに乾電池の対義語は「湿電池」と言います。

 という内容で雑学エッセイを書こうと思ったんです。

 そしてこれだけでは弱いかな、アースとかショートとか他の電気関連の用語の語源とかも一緒にしたら良いかな?とか考えながら、念のため内容の裏付けになるサイトとか無いかな?と検索していたところ(この時点では「池」の字の方を中心に考えていました)、トップに「一般社団法人電池工業会」というところのサイトが出てきました。好都合、順調に記事が書けるとほくそ笑んだところ「電池はなぜ『池』という字を使うのですか?」「電気をためる『池』という意味からです」と。「は?」と思わず声が出ました。いやいやいやいやいや、マジですか?自分の記事の組み立てが全部台無しじゃないですか?なんかその説明無理やり過ぎませんか!?
 そもそも「池」の字に「物を溜めるところ」なんて意味があるかな?まったく聞いたことないけどと、「漢和 池」と検索します。1・いけ、ほり。2・水などを溜めておくところ。
 ・・・あるのか。でもその用例の最初に出てくるのが「硯池」。「硯池」って何よ、とリンクへ跳ぶと「硯の墨汁を溜めておくところ」。へー、あれ「けんち」って名前があるんだー、と一瞬なごみましたが、いやいやいや、そんなマイナーな用例を持ち出されましても。その字義にしても「水などを」ってあるんだから、電解液の容器という構造からきていると解釈するのが自然じゃありませんか?

 だいぶ取り乱してしまったのですが、一つのサイトだけで決めてもいけないので、最初の検索結果に戻って、2番目のサイトを見てみます。こちらは漢字文化資料館という大修館書店が運営しているサイトのようです。こちらは「電池」という言葉が初めて使われた19世紀末の中国の書物を明らかにし、そこに湿電池の図が掲載されていることに触れ、この時代の電池は文字通り液体を溜める「池」だったと述べています。
 ほっとしました。自分が思い込みで間違ったことを言っているわけではないとわかりました。

 自分としては自分が思っていた、もともとの電池は湿電池だったから、という説明が自然だと思うのですが、ここでは結論めいたことを書くのはやめにします。
 それよりも電池工業会といういかにも工学系バリバリに見える団体のサイトがあまり知られていない(知らないのは僕だけ、とは思いたくない・・・)ような字義から「電池」の語を解釈し、辞書に強い出版社がつくった漢字文化資料館といういかにもなサイトが、電池の構造から解釈しているのが、なんだか凄く面白いと感じたのでした。

 雑学エッセイを書くつもりが、プランが破綻して妙な感想に着地してしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。本業のサイトもご覧いただければ幸いです。


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