『唇にきみの体温が残っている:ヒスイの2000字チャレンジ⑩』
僕のポケットには、ダイヤの指輪が入っている。この二年間ずっと。
瑠璃さんに渡せなかった”未来”だ。
札幌・月寒の秋は早い。
九月になるともう、公園には秋の花が咲く。エゾノコンキク、オトコエシ、ヤマハハコ、ヨツバヒヨドリ。
瑠璃さんは花が好きだった。でも花の名前はおぼえない。全部、僕に聞くんだ。
去年の秋、瑠璃さんはもう車いすでしか動けなかった。僕が押しながら病院の庭を散歩するとすぐに、
『これ何の花、基くん?』
そして僕が答えられないと瑠璃さんは口をとがらせる