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オリゼーブルーイング(和歌山)

 ビールといえば、大麦を発芽させた麦芽(モルト)を酵母で発酵させるのが一般的な製法です。ところが、その主原料である麦芽を一切使わず、世界で初めて「麹」でビールをつくってしまった異能のブルワー(醸造家)を和歌山で見つけました。

 JR和歌山市駅から徒歩3分の好立地にある「オリゼーブルーイング」の木下伸之さんは、もともと醤油メーカーや清酒蔵などでキャリアを積んだ人物です。発酵や醸造についての知見を十分に身に付けたうえ、独立して同ブルワリーを興したのは2019年のことでした。
 当初は麹を使ったスポーツ飲料、「コンブチャ」の製造販売から着手した木下さん。それがなぜ、麹でビール(※酒税法上の区分は発泡酒)をつくることになったのか?

「醸造メーカーで甘酒の製造に携わっていた頃、原材料を麹菌で糖化させた後に出る廃棄物が、毎日80~100キロにものぼるのを見て、これを何かに再利用できないかとずっと考えていたんです。もともとクラフトビールには興味を持っていましたから、麹でビールがつくれるのではないかと着想したのは、自分の中ではわりと自然な流れでした」

 実現にあたって、自治体の助成金などにあえて手を出さなかったのは、「審査を受けるには詳細な事業計画を提出しなければならず、麹でビールをつくるアイデアがよそに漏れるのを懸念したからです」と、木下さんは“世界初”の称号にとことんこだわった上で、麹ビールを完成させました。

 果たして、飲んでみれば誰もが納得の味に仕上げられた麹ビール。木下さんはこの成功の先に、こんな未来をイメージしています。

「醤油や味噌は薄利である上に消費サイクルが長いため、メーカーはどこも苦しい経営を強いられています。だからこそぜひ、この麹ビールを真似していただいて、みんなで新たな産業に育てていければ嬉しいですね」

 日本の伝統産業を継承する新たな形として、期待せずにはいられません。

〈Text By Satoshi Tomokiyo〉

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