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インド料理の酸味

1日に十何品もレシピを撮影することが何日か続いたことがあった。テーブルの上にはたくさんの食材とカラフルなスパイス達が並ぶ。次々と料理を作り、撮影し終わった後には料理に使った野菜や果物などの皮や種などが残った。あまり気にすることがなかったが使ったレモンの皮の多さに驚いたことを覚えている。

 インドは広く、地域によって作られている料理も変わってくる。使われているスパイス、その組み合わせもだいぶ違うし、もちろん食材も違う。どのようなスパイスが使われているかでその地域の食を分けることもできる。スパイスの使われ方で食のキャラクターを分けることはできるがそこに命のようなものを吹き込んでいるのが「酸味」なのかもしれないと先の撮影を通して思うようになった。酸味と言うとレモンを筆頭にお酢が頭に浮かぶ。インドでお酢・ビネガーと言うと西インドの港町ゴアのポークヴィンダルーが思いつく。1500年ごろにポルトガルがインドに到達した時に作ったと言われているインドを代表する料理だ。そのほかにも今ではビネガーを使った料理はたくさんある。ピックルやアチャールと呼ばれているインドの辛く、オイリーで酸っぱい漬物のようなものもその一つである。

 スパイスではなく酸味でインドを分けてみると北インドはヨーグルト、南インドはタマリンド、西インドのマラバール地方ではkudampuliやマラバールタマリンド、フィッシュタマリンドと呼ばれるものを使ったり、マハラシュトラではコカムというフルーツをよく使う。東インドではレモンがよく登場する。インドでヴィネガーがよく使われるようになったのは1500年代以降なのかもしれない。ヴィネガーはお酒から作られることもありあまり受け入れられなかったとされるが、はるか昔からインドには様々な酸味を出してくれるものに恵まれていたからヴィネガーがあまり使われなかったのかもしれない。ジャムンと呼ばれる濃い紫色の果物、ファルサ(Phalsa)と呼ばれるブドウに似た小さくて紫色の果物。アヴラ(AVLA)と言う梅に似た酸味と甘みがある果物、インディアンベリーとも呼ばれるアムラ(AMLA)、南インド原産のスターフルーツ。ビリンビ(Bilimbi)と言うスターフルーツに似たインドネシア原産の果物。そのほかにもタマリンド、青いマンゴー(アムチュール)やもちろんレモンもはるか昔からインドにはあった。

 インド料理やカレーを作っていて締まりがないような味付けになると大体が酸味が足りなかったりする。レモン汁をキュッと絞ってみるとグッと味が引き締まる。スパイスの香り、食材の旨味で出来上がったキャラクターに最後に情熱を注ぎ込んでいるかのようである。

 古代エジプトやバビロンが起源とも言われているヴィネガーだが古くからインドにも伝わり、西インドを中心に特にペルシャからの移民でもあるパルシーの人々が良く料理に使っている。

 インドで飲むラッシーは酸っぱい。

 暑い時は甘いものより酸っぱいものが欲しくなるのであろう。

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