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Part.2【新たな夜明け】2020-21エヴァートン前半戦レビュー<プレイバック編>@イングランド/プレミアリーグ


はじめに


今回の<プレイバック編>では、エヴァートンFCの2020-21イングランド・プレミアリーグにおける軌跡を辿る。
今季のエヴァートンは良くも悪くも変化に富んでいる。開幕戦の衝撃は心躍るも、気づけば離脱者が増え、余計な呪いのジンクスに悩まされ、勝ち始めたと思ったら塩試合。フットボールの醍醐味があらゆる角度から詰まっている気がするのだ。そもそも、エヴァートンのファンになったという事は、別に常勝チームを好きなわけではない。世界的スターを揃えたチームが好きなわけでもない。かといって、下部リーグや降格争いのチームを応援する度量もないのである(個人の見解です)。連勝すれば連敗し、勝てそうだったのに引き分け、引き分けだと思ったら負ける。その分、勝利の味は美味しい。たまーに、ビッグクラブを躓かせた時も気持ちがいい。数年後にはビッグクラブに行きそうな選手がいたりして、将来を楽しみにする。スロースターターと揶揄されたり、聞いたこともない選手を獲得してきたこともあったが、ここ最近は一丁前に散財している。
ところが今年のエヴァートンはちょっと違う、そんなシーズンの幕開けだった。マンネリ感のない様々な表情を見せているのは、アンチェロッティの引き出しの多さか、選手の成長か、試練だらけのプレミアリーグで、ひょっとしたらひょっとするかもしれない、そんな淡い期待を抱かせるエヴァートン。何故か、またとない面白いシーズンを過ごしている気がしてレビューを綴っている。
満員御礼のグディソンパークさえ戻ってこれば完璧なのに…。

尚、本稿ではプレミアリーグ第17節までをプレイバック。折り返し地点というには少し早いが、マンチェスター・シティ、アストン・ヴィラとの試合が延期になったため、「前半戦」として括らせてもらった(本稿ではカラバオカップ、FAカップについては割愛する)。

このブログにたどり着いてくださった方が、少しでも今季のエヴァートンをさらに楽しめることを願って。

▽ Phase.1 「到来」

開幕〜マージーサイド・ダービー
(第1節〜第5節)

・新たなカルロ・エヴァートンの船出

第1節 vsスパーズ ○0-1 Away
第2節 vsWBA ○5-2 Home
第3節 vsクリスタルパレス ○1-2 Away
第4節 vsブライトン ○4-2 Home
第5節 vsリヴァプール △2-2 Home

夜明けを予感させ、見事なスタートを切った第1〜5節をピックアップ。
主なスターティングメンバーは以下の通りだ。

ベースは4-3-3。19-20シーズンの途中就任を経て、アンチェロッティ勝負の2年目が始まった。

※アンチェロッティが全幅の信頼を寄せるハメス・ロドリゲス、vsスパーズのタッチ集を。互いにトップレベルを知る2人が、エヴァートンで再び歩み始めた。


序盤戦においてのエヴァートンは、これまで誰も見たことのないスタイルを提示した。心躍ったファンも多かったのではないだろうか。新戦力はいずれも昨シーズンに欠けていたピースを埋め、既存戦力の潜在能力をも引き出した。
おそらく、エヴァートンの全スカッドでスターティングメンバーを選ぶとすると、当初のアンチェロッティのベストメンバーは上記の4-3-3に当てはまる。攻撃的な姿勢と、テンポの良いビルドアップは開幕戦でハメス、ドゥクレ、アラン、ゴメスを中心にリズムを作り、苦手だったスパーズを押し込んだ。
そして第2節以降、アンチェロッティのベストチョイスの中でも、他よりも揺るがないことを示したのは前線の攻撃ユニット3枚だ。

DCLの連続得点という覚醒は、新たなエヴァートンの黎明期を想起させた。さらに、期待感が高まり新たなホットラインの誕生を感じさせたのが、ハメスから展開されるリュカ・ディニュ&リシャーリソンへのサイドチェンジである。開幕戦のハメスをフィーチャーしたタッチ集を見返すと、改めて衝撃を受けた感覚が蘇る。このスタイルはその後の試合でも幾度となく披露するパターンとなる。

※今回もご紹介させていただくお馴染み、まえだのま(@bartolo1315)さんのエヴァートン戦術ブログ。丁寧な分析で、試合を振り返り、整理するにはもってこい。スパーズ戦の分析では、昨年との違いを中心にポジティブに生まれ変わった点を分析されている。

ただ、決定機を逸したりと、リシャーリソンになかなかゴールが生まれなかったのが気がかりなポイントではあったが、vsWBAでは前線3枚が絡みアシストを記録するなど、連携の良さが窺えた。

LBのディニュは更に凄みを増している。エヴァートンの左サイドを長年支えたレジェンド、レイトン・ベインズが退き、一時代の終焉を迎えたが、彼の晩期から後継として満を辞して台頭したのがディニュだった。ベインズの忍び寄る衰えと代役の不在に、長く苦慮を重ねたエヴァートンは、待望にして不動のフルバックを手に入れた。

今や、フランス代表の常連となり、プレミアリーグでも屈指のLBとして君臨。リール、パリ、ローマ、バルセロナを渡り歩いたレフティーは既に実績も経験も兼ね備え、エヴァートンのチャンスメイカーとして欠かせない。ハメスサイドにボールと人が集まり、ピッチを幅広く使い相手の陣形を揺さぶりながらディニュにボールが渡る事で、DCLへ高精度のクロスを配球する。今季のDCLが得点を重ねられた重要な要素の1つだ。

彼の繰り返されるオーバーラップは、ウイングの仕掛けの助けにもなった。以前からベルナールとの連携は崩しの起点になり、リシャーリソンがバイタルエリアに侵入、カットインする為の囮にもなる。

※18-19シーズン以降、プレミアリーグのDFにおいて、リヴァプールのロバートソン、T.アレクサンダー=アーノルドに次ぐアシストを築いたディニュ。また、今シーズンのプレミアリーグのフルバックでは、最もチャンスクリエイトを行うエヴァートンに欠かせない存在。

一方、vsクリスタルパレス、vsブライトンなど、逆サイドのディニュに負けず劣らず存在感を発揮したのがキャプテンのシェイマス・コールマンだ。
vsクリスタルパレスでは、まさに理想的な崩しからDCLのゴールを演出。ハメスのチャンネルを刺すパスも見事だったが、このRBの攻撃力において現在彼の前に出るものはいない。

※後半のヘビーでオープンな時間帯でも、まるで時間を経るごとに若返るかのようなスプリントやオーバーラップは相手の脅威となり続けた。
残念ながら、大一番を迎えたマージー・サイドダービーでは、前半で負傷し志し半ばで退いたが、今シーズンもチームを引っ張る重要な存在であることを再認識した。

攻撃に厚みを加える両翼が、果敢に前へ出る事をサポートしたドゥクレ、アランの運動量とキープ力、そしてプレー選択の速さや正確さもこれまでになかった驚きを与えてくれた。

しかし、「新戦力編」でも取り上げたが、守備の不安定さも課題となった。4-4のブロックを敷いた昨シーズンに比べると、曖昧なネガティブトランジションから守備に移るケースが散見された。
狙われたのはアンカーを務めるアランの脇。4-4の広がったライン間を使われ、前傾姿勢のチームはカウンターで脆さを見せた。

マージーサイド・ダービーでは、リヴァプールが上手だったこともあり、開始早々の失点も、サラーのボレーゴールもノーチャンスだった感が否めないが、試合を通して苦しい時間が続いた。サラーとマネに送られる高精度のフィード。また、斜めに下がって降りてくるサラーにアランの脇を突かれると、背後を利用されたゴメスは守備に奔走させられる光景が目立っていた。

エヴァートンの大きな得点源である''頭''でゴールを決め、チームを救ったDCLとマイケル・キーンはポジティブな要素を残し、引き分けで試合を終えたが、後味は非常に悪かった。ピックフォードのタックルでファン・ダイクが大怪我に。ヘンダーソンにゴールを破られたシーンはVARに助けられ、リシャーリソンの危険なファウルは1発レッドの始末。好調だったムードから一転、批判を浴びる形となった。

そして、この試合が前半戦における1つの分岐点となる。


※ footballistaの連載コーナーや、「欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて」などで著名な結城康平氏のマッチレビュー。チアゴ・アルカンタラに苦戦したエヴァートンやリヴァプール目線から分析。

Phase.1 ◆Checkpoint◆

・攻撃が古典的なサイドからのクロスに偏りがちだったパターンから、ハメスを軸に新たなスタイルを提示。彼を獲得した訳を理解するのに時間はかからなかった。

・ゲイェ退団以降、不在だったフィルター役のアンカーをアランが埋め、トランジションで優位性を発揮するドゥクレが中盤に力強さを生んだ。が、躍動的な活躍の側面にはアランの脇をカバーできないリスクも伴う。

・DCLはハットトリック達成など、ストライカーとしての才能を開花。制空権を圧倒する打点の高さ、ポストプレーが光る。昨季は30試合出場で13得点。ハメスはDCLに30得点オーバーを期待する。

出典<transfermarkt.com>

※2021年1月現在までの市場価格推移。日本のメディアでも好調ぶりが取り上げられた「DCL」ことドミニク・カルヴァート=ルウィン。評価は鰻登りで、アンチェロッティが就任した約1年前より市場価格が倍増。2000万€前後を推移していたのが、現在は4500万€とチーム内で2番目の価値に。(チーム内1位はリシャーリソンの6000万€。FW部門では世界8位のリシャーリソンと15位のDCL、世界トップクラスのアタッカーを揃えるようになったエヴァートン…)

▽ Phase.2 「試練」

~リシャーリソン不在の呪縛?~
(第6節〜11節)

・試練の3ゲーム

前節vsリヴァプールで退場処分を受けたリシャーリソンは3試合の出場停止。また、コールマンも負傷離脱。ダービーの直後、チームには早くも試練が訪れた。

第6節 vsサウサンプトン ●0-2 Away
第7節 vsニューカッスル ●1-2 Away
第8節 vsマンチェスター・U●3-1Home
第9節 vsフラム ○2-3 Away
第10節 vsリーズ ●0-1 Home
第11節 vsバーンリー △1-1 Away

第6節を迎えたカルロ・エヴァートンは、アウェーでセインツと対戦する。前節でデビューしたゴドフリーはそのままRBで先発。ホルゲイトは怪我で開幕から間に合わず、シャルケからローンバックのジョンジョ・ケニーはベンチ外。リシャーリソンの代役はイウォビでスタートした。
この試合で印象的だったのは、非常に陣形をコンパクトに保ったハーゼンヒュットルの守備プランと、アランの脇を的確に突くセインツの前線だった。
前半こそ、ハイプレスを敢行し、ダイレクトプレーを織り交ぜ、ゴールに迫るシーンも見られたが、統率されたセインツの守備はボールを奪った後の攻撃もスムーズだった。且つ、否応にも中盤のスペースを空けてしまうエヴァートンのネガティブトランジションにも問題があった。中盤のスペースが空く=DFラインの前にスペースが生まれる。攻め込まれると間延びしたライン間を使われ、慌てて戻った陣形は無造作な人数をかけただけのディフェンスだった。

※セインツの組織的な守備は縦横それぞれの間隔を的確に保ちプレス&カバーを徹底。ロメウがDFラインの前でバランスを保ち、守備の要に。サイドはハメスの戻りが遅れたエリアも利用。DCLにとってヴェスタゴーアの存在も厄介だった。ハーゼンヒュットルがセインツに落とし込んだストーミング戦術はこの試合でも発揮され、ラルフ・ラングニックの血が流れていることを感じさせる。後にクロップのリヴァプールを撃破したことも記憶に新しい。

先制点と追加点を立て続けに奪われたエヴァートン。イウォビはノーインパクトで後半にベルナールと交代。後半に、故意ではないものの、ディニュが後方からK・W・ピータースを追った際に足を踏みつけてしまい1発退場でゲームオーバー。シュート数も6本と良いところなしで、またもや後味の悪いゲームとなった。そして、ハメス起用によるデメリットも露呈した内容だった。

第7節で乗り込んだのはセント・ジェームスパーク。vsニューカッスルだ。
チームの抗議が実り、ディニュの出場停止は1試合で済んだものの、コールマンと同時に両翼の要を失うこととなった。加えてハメスがコンディション不良。引き続きリシャーリソンを欠いたアンチェロッティは実験的なメンバーの選考を余儀なくされる。

※vsニューカッスルでの布陣。4-3-2-1はアンチェロッティ政権下でいずれ見てみたいシステムだったが…

選手層の厚さを確認したい中、カップ戦で存在感を発揮していたヌクンクを先発起用。RBにはケニーを選択。また3センターの一角にファビアン・デルフ、2枚のトップ下にゴメスとシグルズソンを。システムはアンチェロッティの代名詞であるクリスマスツリーを採用した。

出典<Getty Images>

立ち上がりからボール保持の時間帯が多いエヴァートンは、基本システムこそ4-3-2-1だったが興味深い動きを見せた。前節で果敢にプレスで前に出たドゥクレだったがそれを避けられると悪いほうに転がってしまった。その影響もあってか、動きを自重し待ち受ける振る舞いだった。そして、新たな試みが見られたのはビルドアップ。デルフとドゥクレが双方サイドで偽サイドバックと化し、CBとSBの間に降りてボールを運んでいた。SBのヌクンクとケニーはウイングの位置まで高さを上げ、大外からボールを経由させたのである。重心を下げ、後方からゲームをつくり、相手を釣り出したいアンチェロッティのプランが垣間見えた。しかし、ニューカッスルの5バックがそれをうまく機能させなかった。ニューカッスルも同じくこちらの攻撃を待ち構え、一気にロングカウンターを狙う素振りが見え始める。ゴメス⇔ヌクンク、シグルズソン⇔ケニーのラインも連携不足で、開幕から調子の上がりきらないゴメスとシグルズソンはライン間から打開を狙ったがうまく起点になれず。狙いの大外はスペースがなく攻略できずにやきもきする時間が続いた。
そうした時間を過ごしていると、2トップへ一気にボールを展開するスティーブ・ブルースのフットボールに牙を剥かせてしまった。

続く第8節のvsマンチェスター・ユナイテッド。ワン=ビサカを何度か攻略したディニュ⇔ベルナールラインが最も可能性を感じさせた。先制点こそ、ピックフォードのフィードをDCLが落とし、ベルナールの個人技で華麗にゴールを上げたが、結果は完敗だった。リシャーリソンが抜けた3試合でとうとう勝ち点を積めずに失速してしまった。この試合で如実に現れたのは出来事は2つ。ひとつはユナイテッドの対ハメス対策。この試合で復帰したハメスだったが、ほぼマンマークの対応を受け、自由に前を向けなかった。同じく復帰を果たしたコールマンも、ハメスと同サイドの影響を受け、守備面に時間を割かれてしまう。これまでの7試合に比べ、息苦しさを強く感じたであろうハメスは、中央や左サイド、自陣ディフェンスラインの近くなどに場所を移すも、効果をもたらす前にユナイテッドの攻撃に沈んでしまった。
ふたつ目は、くどいようだがアランの脇を明確に狙われていたことだ。昨年も苦しめられたブルーノ・フェルナンデス、ポグバやラッシュフォードも、ハーフスペースでボールを受け、決定機を作り出していた。
エディンソン・カバーニにユナイテッドでのファーストゴールを献上し、ダメ押し弾を決められたシーンも、アランが相手陣地のバイタルエリアまで打開を図ったところでカウンターを喰らい、誰もカバーしなかったスペースをそのまま侵略される具合だった。

※2018年の加入以降、リシャーリソンが出場していない試合で、エヴァートンは1度も勝利できていない、という忌々しいジンクスが続いてしまった。近い未来、リシャーリソンを失う可能性も高い。気が早くても、クラブは準備を進めるべきだ。

ベストメンバーを組めなかったアンチェロッティは、実験的な采配とプランを試みた。しかし、主力を多く欠いた影響をカバー出来るほどのサプライズは起こせず、今後に課題を残したままとなる3連敗を喫した。そして、ここまでしつこく述べてきたアランの脇を攻略されるシーンは明らかに狙いを持って攻められるようになってきた。これは、一概にアランのポジショニングや前進意識を責めるものではない。それをカバーする役割や、補完意識、規則的な対策が求められる。ネガティブトランジション対策が為されていないことをvsセインツ、ニューカッスルから学ぶ機会を得た。故に、まだ強者の振る舞いをするには軟弱だったこともユナイテッドとの対戦で思い知らされた。

・3バックの試行と可変システムの導入

変化と改善で立て直しが求められるエヴァートン。
アンチェロティはvsフラムからの3ゲームで新たな手を打って出る。
再び離脱したコールマンの影響、vsリーズ以降、トレーニング中の怪我で失う形となったディニュの不在は、チームにとって大きな痛手だった。

※上記はvsフラムのスターティングメンバー。次節でディニュが離脱しvsリーズではイウォビをLWBに、RWBにはデイビスを配置。vsバーンリーも3-4-3を継続し、LWBはデルフを起用した。

アンチェロッティはCBを3人据える方法を採る。第9節から第11節の3ゲーム、残念ながら勝ち星をあげたのはフラム戦のみだったのだが、イウォビが新たにWBで起用されるなど、新しい試みで解決を図る姿勢が窺えた(この時期からイウォビの評価がじわじわと上がり始める)。また、相手のビルドアップに対して、前線から圧力をかけていくアグレッシブな仕掛けも印象的だった。プレアシストでまたも違いを作り出したハメス、この苦しい状況でも得点をあげられるDCLと、決定機に絡むディニュ、ドゥクレらの存在感は頼もしかった。

※このフラム戦に関しては、既に分析されたコラムがあり、3-4-2-1に挑んだアンチェロッティのプランが詳細に述べられている。コールマン不在でハメスのサポートを行うにはどうすればよいか。RCBに入った守備重視のゴドフリー、その前にWBとしてイウォビを起用して攻撃面を工夫。ハメスは都度ポジションを中央に移し、練られた可変システムは4-2-3-1の陣形で流れに合わせて戦っていたことを再確認できる。

しかし、3CBには熟練度の低さが見受けられ、ファイナルサードで横パスを通された時のマークの受け渡しや、互いに進行方向が重なるなど、シンプルなカウンターを受ける場面でも連動性に欠けてしまった。ビエルサのリーズも、ダイシのバーンリーも成熟度でエヴァートンを上回っていた。リーズは一切迷いのないオーバラップ、3人目の動き、目まぐるしく入れ替わるポジションチェンジ。リーズ相手に形式上のフォーメーションは意味をなさず、エヴァートンも臨機応変に対応したが…。互いに長短距離、ハイテンポなトランジションを繰り返す中、ハメスとDCLのゴールが取り消される運の無さも。最後は注目のブラジリアン、ハフィーニャのゴラッソに屈した。

出典<Getty Images>
※この日はマラドーナが亡くなって最初のゲームだった。キックオフ前の追悼時、アンチェロッティが涙を流したシーンは印象的だった。

もしもベストメンバーなら…今季最もオープンで見応えあるせめぎ合いを見せたvsリーズは個人的に1番悔しかった試合かもしれない。そして、デイビスが試合に出るのはやはり嬉しいと実感。試合はリーズには敗戦したが、果敢なインターセプトや決定機を作り出すアクションを見せてくれた。後半戦のリベンジが期待される。

まえだのまさん、vsリーズ分析より。拝見すると、いかにタフな試合だったかを思い出せる。旋回してこちらの布陣をずらし、果敢に迫ってくるリーズはプレミアリーグでも異色。ビエルサのマンマーク戦術や、相手より必ず数的優位を作ろうとするディフェンスラインのビルドアップ、フィリップスの展開力など見どころ満載の試合だった。個人的には左サイドから同時に2人、潔いオーバラップを仕掛けてくるダラスやアリオスキのインパクトが残っている。

Phase.2 ◆Checkpoint◆

対策され始めたハメス・ロール。多種多様に癖のあるチームと監督が揃うプレミアリーグの洗礼を受ける。ボールロストのリスク、消える時間帯、厳しいマンマーク、居心地の良いポケットに入り込みながらパスを散らし、それでも多くのチャンスを作り出した。

毎試合の失点が続く。開幕4連勝からの3連敗で失速、離脱者も相次ぎ、チームの再構築が引き続き求められる。手駒を最適解へ導く手腕が早速必要な展開になってきた。

・4-3-2-1、3-4-3のシステムにチャレンジ。守備の課題は解決に至らなかったが、流れの中で可変するシステムを含め、アプローチを変えて毎試合の変化を感じられた。結果にはすぐ繋がらなくとも、マルコ・シウバ期に比べ、経験がもたらす柔軟性を感じ取れた。

▽ Phase.3 「挑戦」

~疾風怒濤の12月~
(第12節〜第15節)

・解決の糸口は4CB。一利一害をアンチェロッティはどう捉えるか。

開幕前に今季のカードが決まった頃、12月のスケジュールはまさに山場を思わせた。

第12節 vsチェルシー 〇1-0 Home
第13節 vsレスター 〇0-2 Away
第14節 vsアーセナル 〇2-1 Home
第15節 vsシェフ・ユナイテッド 〇0-1Away
第16節 vsマンチェスター・シティ (延期)

中盤戦に差し掛かるプレミアリーグ、未だ開幕4連勝の勢いを引き戻せてはいないカルロ・エヴァートンは、更に別のアプローチで舵を切る。

上記はvsチェルシーのスターティングメンバー。ゴドフリーがLBに。WBで評価を得たイウォビがウイング。この時期から、ゴメスよりも守備評価の高いシグルズソンがスターティングメンバーに定着。ハメスとディニュが不在とあって、プレースキックの期待も背負う形となった。

ここまでの対ビッグ6ではスパーズ、マンチェスター・ユナイテッドと1勝1敗。主導権を握ったスパーズ戦とは異なり、ユナイテッドにはスールシャールの対策を受け、後半からも流れを譲らない選手層の厚さを見せつけられた。

アンチェロッティが施した第3の手はCBを4人同時に起用する4CBだ。今季エヴァートンにおける流行語大賞になり得るワードだが、ウィークポイントを解消する1つのキーとなる。守に重きを置いた戦法が、大きな結果を手繰り寄せた。

<出典 Getty Images>

vsチェルシーとのホーム戦では、昨季の新型コロナウイルス拡大によるリーグ中断以来、最初となる観客動員を行った。グディソンパークのスタンドには2000人の観客。この光景は、確実に選手のモチベーションへと繋がっただろう。

前半、DCLがチェルシーGKエドゥアルド・メンディのファウルを受けてPKを獲得。ギルフィ・シグルズソンが冷静に相手ゴールへ流し込んだ。このゲームでのシグルズソンは守備、ネガティヴトランジションにおいて大きな役割を果たした。既視感を得たのはシウバ期におけるvsチェルシー。相手アンカーのジョルジーニョをDCLと釣瓶の動きで封殺し、中央からの起点を作らせなかった。この試合でも、ボール非保持の際、4-4-2ブロックで連動した前線からの守備は、カンテ経由の中央を遮断し、サイドからのビルドアップのみに制限させた。
シウバ期に熟成された守備戦術と、元々4-4-2を得意とするアンチェロッティの手腕が共鳴したプランだった。とはいえ、主導権を譲り、守備からリズムを作りたいエヴァートンは頻繁に危険なシーンを迎えた。4CBとピックフォードの好セーブが実り、リーグ戦において実に10試合ぶりのクリーンシートを達成した。

vsレスターではリシャーリソン待望のゴールが生まれた。カットインから決めた豪快なシュートは、昨年13得点を記録したエースの復調を感じさせた。4CBも2試合続けてのクリーンシート。ホルゲイトとゴドフリーは攻撃力こそ武器とはならないが、粘りある守備は評価できる。また、前線に駆け上がることが少ない事でキーンとミナに対してのカバー、アランとドゥクレの空けたスペースへチェックに入れるなど、これまで課題だった面を克服する動きを見ることができた。残念ながらアランが負傷し、この試合から現在まで離脱しているが、今後のトム・デイビスが存在感を高める伏線となる。

vsアルテタ・アーセナルではお互いに慎重な立ち上がりからゲームが進行する。なかなか勝ち星を得られていないアーセナルはプレスラインも低く、無理に前へ出てくることは控えていた印象。チェルシー&レスターは冷や汗が出るようなシーンが頻発したが、4CBでコンパクトに保たれたエヴァートンのディフェンス陣も同様に、リスクのあるスペースをケアして対応した。

ビッグクラブに対して現実的に、ストイックに、結果の為にスタイルを捨てて4CBを採ったアンチェロッティ。これがヨーロッパでタイトルを総なめにしてきた指揮官の本気なのだと理解した。

※注目カードで自身によるレビュー、フットボールへの熱量を注いで語る戸田和幸氏のYouTubeより。今季のエヴァートンをしっかり観察し、エヴァトニアンも頷く内容が多い。フットボールファンはもちろん、エヴァトニアンにとっては嬉しい限りのコンテンツ。古巣アーセナルと違った役割を見せたイウォビについても言及。


ディフェンスラインを再構築したアンチェロッティは、チェルシー、レスター、アーセナル相手に3連勝。上位争いに留まり、チームを再び軌道に乗せてみせた。
続くvsシェフィールド・ユナイテッドでも勝ち点は3を獲得。ポイントを落とさなかった。未だ未勝利のシェフィールドを相手に、エヴァートンが負けてしまわないかヒヤヒヤしたものである。

さて、フェーズ3、第1の山場を乗り越えたエヴァートンで注目したいポイントは以下である。

Phase.3 ◆Checkpoint◆


この4連勝すべての試合でハメスは出場していない。皮肉なことにクリーシートの達成など、前線からの守備には連動性が生まれた。ハメスがいないからこそ、アンチェロッティが企てることのできたプランとも言える。しかし、同時にファイナルサードへのアクセス、アイデア、クオリティに欠けてしまったのは言うまでもない。今後、ハメスが戻り起用する中で何処にプライオリティを置くのか非常に気になるところである。

・ポジティブトランジションで明確なメリハリを出しているのが、ピックフォード→DCLへのフィード。遅攻が続いた際に有効で、ユナイテッド戦のベルナール、リーズ戦のハメスなど、DCLの側で準備する選手のクオリティも重要。各試合で見せており、縦に早い攻撃を可能にするDCLのポストワークが素晴らしい。vsチェルシーでもこのシーンからPK獲得に繋がった。デザインされた、最もシンプルで効率よく相手ゴール前に迫ることができる手段だ。

出典<Getty Images>


イウォビがパフォーマンスレベルをあげ、局面打開を連発。クロスの精度に不満が起こるケースもあったが、相手を2枚同時に剥がすドリブルや、ハーフスペースを利用したラストパスはハメス不在を補う存在感を発している。

※イウォビはアーセナル最終年度、チームで最もチャンスを作り出した選手だった。個人的にはドリブラーというよりも、パサーのイメージが強かった。安い買い物ではなかったが、アーセナルに感謝すべきだろう。
※そんなイウォビの18-19アーセナルにおけるピッチ中央付近から、ファイナルサードへパスを送ったチャンスクリエイトマップ。ファイナルサードへ縦方向へ決定機を演出していたことが分かる。ところがイウォビがエヴァートンではクロスを放っている。この事実自体が、イウォビが新たなチャレンジのもと、現在のアンチェロッティ政権下でフィットできたことを物語っている。横方向、縦方向ドリブルも使い分け、徐々にクロスの質が改善される場面も見られる。後半戦に期待が募る選手の1人だ。


▽ Phase.4  「成長」

既に満身創痍、
加熱するプレミア・サバイバルは不気味な様相へ。
(第17節、第18節)
・成長の兆しを後半戦への糧に。

第17節 vsウェストハム ●0-1Home
第18節 vsウルブス ○1-2 Away

vsハマーズのゲームはプレミアリーグ中位クラス同士らしい、迫力に欠ける側面を見せた。どちらも最終局面でクオリティを欠いた内容だった。エヴァートンもハマーズも後半途中から、チームのカギを握るハメスとアントニオを投入。より流れを引き寄せたのはアントニオの方だった。DCL、リシャーリソン、シグルズソン、ベルナールの攻撃ユニットはシウバ期の記憶を思い出させてくれたが、同時に塩試合にも納得できてしまった。
決勝点を奪ったトマシュ・ソーチェクはチェコ代表のMF。モイーズがスラヴィア・プラハにいた彼に目をつけてレンタル。半年起用してその実力を確認すると完全移籍で獲得したという。身長192cmの機動力あり、得点力あり、そしてモイーズのお気に入りともあると、マルアン・フェライニが思い出されるプレーヤーだ。余談だが、個人的に注目したい選手である。

さて、なんだかんだと好き放題述べてきた振り返りもラスト1試合、ここまで付き合ってくれている方がいるのであれば奇跡だと思う。エヴァートンのことを考えた、考えすぎた1週間だったが、同志がいると思うと救われる思いだ。ソーチェクとモイーズの話へ逸れてしまうくらいなので、レビューを書くことに疲れてきたようだ。

と冗談はさておき、続いては直近のvsウルブスについて。この試合ではDCLが怪我で欠場したことにより、アンチェロッティが土壇場で0トップを採用することとなり話題を呼んだ。トスンがカップ戦で延長まで出場していたことも考慮された。そして、離脱していたディニュも復帰。まだまだトップコンディションではないが、試合に出ながら無理せずに調整して欲しい。
一方、ウルブスも台所事情は険しく、エースのヒメネス、ポデンセ、A・トラオレが不在。
この試合でもイウォビが存在感を発揮。得点シーンの崩しからフィニッシュは勿論、高低関わらずサイドラインで躍動。タックルも成功させ自らポジティブトランジションへ持ち込む力強さも見せてくれた。
加えて良かったのはデイビス。無理にシグルズソンやハメスを追い越すような動きはせず、ビルドアップに丁寧に関与。また、ドゥクレとのバランスも考慮し、スペースのケアも意識されていた。ゴメスのアシストも復調を感じた嬉しいシーンだった。試合自体はシュートすらなかなか打てず、渋すぎる内容だったが、勝ち切れるアンチェロッティすご…と感じた試合だった。


さて、ここで、シグルズソンに重きを置いてフォーカスしたい。彼については、今シーズン私がTwitterで最も文句を並べた選手だと思っている。

実は、2020-21シーズンの開幕前、スタッツアカウント@StatsBombにて、今シーズンのレビューに興味深いデータがあった。

※シグルズソンはスウォンジーでの最終年に12アシストを記録した。しかし、12アシスト中、オープンプレーからのアシストは4つに限られており、他は全てセットプレーからのアシストだった。

※上記左が2017〜19シーズンの間、バイエルンに在籍したハメスが記録した、オープンプレーでのキーパスマップ。右がほぼ同じ試合数の19-20シーズンにおけるシグルズソンのオープンプレー・キーパスマップである。その数の違いは明らかで、どれだけ流れの中でチャンスメイクに貢献できるか歴然たる差がある。勿論、在籍チームが違えば周りの選手も戦い方も違う。しかし、不満を抱いてしまう自分がいることも本当である。

それでも、シグルズソンが今季起用されているのは、先にも述べた通り、守備的な意識に長けていること。FK、CK、PKとプレースキックの精度を持ち、エヴァートンの強みでもあるヘッダーでのゴールを狙えること。そして、怪我をせずに安定して出場できる点も大きい。アンチェロッティもここを理解した上で起用を続けていると思う。

出典<Getty Images>

しかし、彼が18-19シーズンに13得点を挙げた実績を思うと物足りなさが勝るのは確か。
ストーミング戦術を取り入れていたシウバの頃は、高い位置やバイタルエリア付近で拾ったボールをシュートチャンスに変えることができ、ミドルレンジで前を向ける機会も多かった。たが、低い位置から組み立てるアンチェロッティのスタイルではボールを触るときに後ろ向きで受けることが増えてしまう。ドリブル突破や相手を剥がすことは得意でないだけに、ボールを持てる時間も短くなっている。

恐らく、まだまだアンチェロッティの試行錯誤は続いていく。選手の特徴を生かすべく構築されるフットボールの中で、少なくとも犠牲を被る選手もいるのではないだろうか。シグルズソンを見てそう感じた次第である。
4CB採用以降、得点をあげていないDCLにも懸念を抱いている。
しかし、DCLのように若い選手であれば、まだまだ成長もできれば、立て直す時間もある。さらに一皮剥けるようなレベルアップも期待ができる。
デイビスも、ホルゲイトも、出始めた頃に比べて、本当に頼もしくなっている。

出典<Getty Images>

それぞれ3000万€を超える移籍金で加入した、マイケル・キーンとイェリー・ミナの両CBも大きく成長していると感じる。キーンは見ていて心配だったビルドアップが本当に精密になった。燻り続けていただけに嬉しい成長だ。ミナは加入以降、怪我がちでなかなか本領を発揮できていなかったと思う。本来の期待が実り始めているかもしれない。互いにセットプレーでは相手に脅威を与える。それぞれがアンチェロッティの元で成長を遂げ、逞しくなっている。
後半戦にはシーズンを通して垣間見る、「成長」も重要な項目として注目してみてはいかがだろうか。

Phase.4 ◆Checkpoint◆


・依然、離脱者の多い状況。
スカッド全員でシーズンを戦い抜いていく必要がある。4-4-2(あるいは4-2-3-1)がベースになるだろう。

・俄然、優勝候補へ名乗り出たマンチェスター・シティ。シティとの対戦がまだ2回残っているのは大きなポイント。上位との直接対決は見逃せない、2月にはマンチェスター・ユナイテッドとマージサイド・ダービーが待ち受ける。

・個人的な後半戦のキープレイヤーはデイビスとリシャーリソン。序盤に無かった安定感をデイビスがもたらしている。そしてリシャーリソンは、前節ウルブスでも示したように、試合の”流れ”を汲み取れるプレーヤーだと捉えている。2桁得点も期待したい。そんな彼らの「成長」を期待してプレーを観察したい。その過程が結果に繋がることを楽しみに待つ。


おわりに

2020-21シーズンはちょっと特別なシーズンかも。
そんな気がしていたのでコラムを書きました。
夏に唐突に描いたアンチェロッティのコラムもそんな気持ちでした。
ほんとうに本当に、疲れました。コラム、レビュー大変な作業ですね…。書きたいように好きなだけ書きましたが。
書くと言ったからには、書く!その想いだけで1週間ひたすら向き合ってやり遂げました。

正直、文章量と内容のバランスが伴っておらず、
非常に読みづらかったのではないかと思います。無謀なチャレンジだったと、少し後悔しました。それでも、少しでも読んでくださった方々、ありがとうございました。
今後とも是非、よろしくお願いいたします。

COYB‼︎

BF

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