人類学の道

人類学関連の書物をまとめて解説することで、「哲学の道」ならぬ「人類学の道」を作ろうとす…

人類学の道

人類学関連の書物をまとめて解説することで、「哲学の道」ならぬ「人類学の道」を作ろうとする京都学徒の試み。修士論文の参考資料整理用。twitter: @berusaiumk2wain

最近の記事

人類学の道第七回 :『関係としての自己』(1)

はじめに 前回noteを書いてからすでに一年が経過していた。思えばこの一年は本当に色々あったと思う。京都大学で人類学院生としての人生をスタートしてから今に至るまで、辛いことも楽しいこともあった。辛いことはここでは書くまい。だが学問にしっかりと向き合い、学友や諸先輩方、さらには教官たちからの多くの刺激は確かに私の知力を大幅に伸ばしてくれたと思う。その証拠に、人類学からは遠いが、西田幾多郎の「場の理論」への理解が深まったように感じる。ありがたい限りである。 さて、筆者は兼ねて

    • 人類学の道番外編:京都大学大学院に「不確実」に受かる方法(あるいは「他力と縁」についての考察)

      この度奇跡的に京都大学人間・環境学研究科共生文明学専攻文化・地域環境論講座文化人類学分野に合格することができた。まずは応援してくれた方々、そして様々な形で助力していただいた方々、本当にありがとうございました。そして結論から言うと、この「不確実」な合格方法、それはこうした人たちの「他力」と「縁」である。私はほぼ100%彼ら彼女らの力によって合格したと思っているが、兎にも角にもこのnoteはそうして助けていただいた人々への「感謝」と「お礼」を込めて書いてる。したがって安易に「京大

      • 人類学の道第六回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(3)」

        前回までのあらすじ過程をブラックボックス化することにより「メイキング」という行為が人間のイメージをモノに転写する試みであると主張するHylomorphic modelに対して、インゴルドは「過程」を重視し、むしろ万物全てが「生成過程」の中にあると主張する(morphegentic process)。この考え方は「物質」に対する従来の概念をも批判する。物質には固有の性質はなく、それはmorphegentic processの中で現れる「歴史性」なのである。ゆえに「Making(

        • 人類学の道第五回:「ティム・インゴルドに会いに行く」

          最初の印象は「おじいちゃん」だった。 著書「メイキング」の翻訳を担当した金子遊氏が「たぐいvol.3」の論稿にて「自分は実際にあったことはないが聞いた話だと野生的な感じの人」だと書いていたので、熊みたいな大柄な人なんだろうななどと勝手に想像して怖がっていたものだから、駅に着いて自分に近づいてきたのが、自分とそう身長の変わらないおじいちゃんだった時は思わず「人違いじゃないか?」などと思ってしまった。おまけに駅の駐車場から出る時「先車の中で待ってて、僕駐車券とってくるから」と言

        人類学の道第七回 :『関係としての自己』(1)

        • 人類学の道番外編:京都大学大学院に「不確実」に受かる方法(あるいは「他力と縁」についての考察)

        • 人類学の道第六回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(3)」

        • 人類学の道第五回:「ティム・インゴルドに会いに行く」

          人類学の道第四回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(2)」

          前回までのあらすじ 「人類学とは何か」の本質的な主張を、アバディーン大学の4Aカリキュラム(人類学、考古学、芸術、建築)を通して提示していく「メイキング」。前回はこの4Aが「参与観察」的実践で結びついているということがわかったのだが、また字数が足りなくなったので2回目に続いた。ところで「人類学とは何か」の方が多分発行年数が遅いから、「Making」を通して「人類学とは何か」を読んだ方がいいかもしれない。今回は4Aを通して「Making(制作)」という運動を西洋思想がどのように

          人類学の道第四回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(2)」

          人類学の道第三回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(1)」

          はじめに私事ではあるが、5月11日に、前回紹介した「人類学とは何か」、そして今回から取り上げる「Making(邦訳:メイキング)」を著したティム・インゴルドの自宅にお邪魔することになった。自分としてはてっきり現在もアバディーン大学で教鞭をとっているものだと思っていたので、「授業やチュートリアルにお邪魔できれば幸い」程度に考えていたのだが、実はだいぶ前に退任しており(これだからウィキペディアは信用できない)、代案として本人から自宅にこないかと言われたのがことの始まりである。こん

          人類学の道第三回「Making:Anthropology, Archaeology,Art and Architecture(1)」

          人類学の道第二回「人類学とは何か?(2)」

          前回のあらすじティム・インゴルド主観の「人類学の歴史」を、ダーウィンの進化論から出発して人類学を進化主義→機能主義→構造主義→構造主義的マルクス主義という順番で振り返ったら10000字超えたので一時中断した。今回はインゴルドの考える過去の人類学の問題点、そしてインゴルドにとって人類学とは何か、を探求していく。今回の文章は一応第二回だが、前回からの地続き的な感じで書くのでお急ぎではない方は第一回から読むと歴史が学べて良きかな。 ポスト・モダンと人類学 ポストモダンという言葉

          人類学の道第二回「人類学とは何か?(2)」

          人類学の道第1回:「人類学とは何か?(1)」

          あらすじ これほど第一回に相応しい書籍もないのではないだろうか、というほどのタイトルだが、実はこの本、原文のタイトルは「Anthropology: Why It Matters」である。そしてこのMatterという言葉は、「物質」や「問題」という意味の他に、「重要」という意味も持ち合わせている。この本では訳された題名と原文ままの題名の二つが示すように、人類学という学問の概要や歴史を説明しつつ、「何故今人類学が必要なのか」が主張されている。イギリスは北部スコットランド、エジンバ

          人類学の道第1回:「人類学とは何か?(1)」

          人類学の道第0回:「人類学の道」とは何か

          はじめに京都は北白川、歴史の教科書で金閣寺とついをなす銀閣寺のすぐ脇に、「哲学の道」という小道がある。春になれば桜が満開になり、多くの地元民や観光客、果ては学生たちを魅了するのだが、このみちが哲学の道と呼ばれているのは、昭和に活躍した京都学派を代表する哲学者、西田幾多郎が自らの哲学を思案するために好んで歩いた散歩道であることに由来する。なるほど、どうやら哲学というのは本に囲まれた狭苦しい部屋の中で、心地悪い椅子に座って理性を総動員する学問ではないようだ。「歩く」という身体運

          人類学の道第0回:「人類学の道」とは何か