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中小企業経営者必見。プロ人事と敏腕経営者に聞く、人材難に悩む企業経営者がすべきこと【安田雅彦氏✖️森友会・立山氏✖️ベター・プレイス森本対談】

ベター・プレイスでは、「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念を実現していくために、人々が「お金の心配なく」、「自分らしく働ける」社会を創っていくにはどうしたらいいのか、弊社代表取締役社長である森本が経営者および著名人の方と話し合うYouTube番組を開設しています。
 
今回は人事のスペシャリストであり数々の企業でコンサルティングを行っている株式会社 We Are The People 代表取締役の安田雅彦さんと、ご自身の代で保育事業を34施設まで拡大展開させ、保育や福祉業界に深い見識を持つ社会福祉法人 森友会(しんゆうかい)理事長 立山 貴史さんをお招きし、「慢性的な人材不足を抱える企業・法人は、どんなことから注力すべきか?」についてお話を伺いました。人手不足に悩む方にとって多くの気づきが得られる対談の様子をお伝えします。


過疎地の「地方保育園が全国規模に」敏腕経営者の人事改革

森本:保育業界は圧倒的な人手不足と言われるなか、なぜ立山さんのところは常に優秀な人材を採用できているのでしょうか?
 
立山:わたしが家業である保育園・幼稚園の運営を継いだ当時は、それこそ保育者として働くのは「花嫁修業的な就労制度」で、数年働いたら辞める、採用するの繰り返しでした。しかし、全国に保育事業を展開しようと考えたら、抜本的な見直しが必要だと感じました。給与規程や就業規則など、すべてを見直し改善するために、経営がうまくいっている園を参考にさせていただき、また、地方において優良企業として存在感があった地方銀行がどのような仕組みで動いているのかを勉強しました。

そこで保育士のキャリアパスをふたつ用意することにしました。ひとつは結婚や出産をし「一時的に退職する」あるいは「いちスタッフとして働く」一般職のルート、もうひとつは年齢などに関係なく主任や園長をめざす総合職に進むルート。さらに一般職を選んだ職員でも、子育てが終わってから主任や園長をめざしたいなら再エントリーできるようにもしました。
 
働き方の選択肢を増やし、ライフプランに合ったキャリアを選べるようにしたのです。なるべく長く園に定着して働いていただくため、あるいは出産などを経ても、うちの園に戻ってきたくなるようなキャリアプランが描ける改善策を打ち出しました。
 
森本:働き方の多様性をいち早く取り入れたわけですね。こうした改革は、たとえば外資系や大企業など、資金があるからできるのでは?という意見をよく耳にするのですが、安田さんはどう思われますか?

安田:本来は中小企業の方が働き方改革はしやすいはずで、しなくてはいけないのに、意外と弾力性がなく対応しきれていない企業が多いですね。
 
森本:しかし立山さんのところも、当時は規模も小さく対応しづらい状況だったのに、どうして大きな改革ができたのでしょうか?
 
立山:日本では新卒の子は大企業をめざしますよね、それなら自分たちも大企業の経営と同じくらいの制度を作ろうと、大手企業のような就労形態を取り入れている保育園法人を探して、研究し、たくさんのことを教えていただきました。そして、人材採用だけでなく規程も含めたすべて、エンジンそのものを入れ替えるくらいの気持ちで改革を断行しました。強い決意で園の経営に向き合った結果だと思います。

中小企業が改革に踏み切れない理由

森本:日本は95%が中小企業と言われています。立山さんが実践したような経営改革を他の中小企業がなかなかできない理由について、安田さんのお考えを聞かせてください。
 
安田:昔は大企業でも、女性は長く働かないものだという前提でしたし、経営も「モノを出す、売る、給料が上がる」というパターンしかなかったのです。

しかし今は、持続可能なビジネスを行うために「我々は何のためにビジネスをしているのか」という働く意義、「企業が社会でどのような存在意義を発揮するのか」、つまり「パーパス」がより重要になっています。人材採用においては、自分たちの基準に合った人を探すのではなく、企業の価値観に共感を持った人が集まってくることがポイントになります。
 
「この会社のパーパスに共感が持てる」から人材が集まるようになってきているのに、中小企業では気づいていないのか、あるいはそこまで切迫感がないのか、従来のままのところが多いなと思います。
 
森本:CSR経営とかパーパス経営という言葉は、最近よく聞かれますね。
 
安田:昔は商売で儲けたお金を社会に還元する考え方でした。今はビジネスそのもので世の中を良くしていこうという考えです。
 
SDGsにしても「きれいごとだ、それでは飯が食えない」と言う方もいますが、ビジネスそのもので世の中に価値を与えられるように、そうした組織を作っていくことが大事です。

経営者がどれだけ長いスパンで企業の未来を見据えられるかがパーパス経営では重要です。長いスパンで世の中への貢献を企業として行えるかどうか、そうしたパーパスを持つことで共感する人材が集まり、企業の成長を支えてくれるのではないでしょうか。
 
安田:立山さんにぜひお伺いしたいのですが、園を新たに増やし事業規模を拡大していくと、「理事長はお金儲けしか考えていない」みたいな意見が出て、現場とのギャップが生まれたりはしないのでしょうか。

立山:職員の給料を上げる、ポストを作ることによって、現場とのギャップは回避できます。「働きやすい職場を作ろう」というスローガンのもと、初任給を高くして人材を集める、仕事ができる人は昇給させる、やがて分岐点がきます。ライフプランによって一般職を選んだら昇給ピッチを落とし、一方で総合職をめざす人には相応の給料を出す。一般職であっても、他の保育園と比べても圧倒的に給料は良くしています。しかし、一般職をある時点で選んだら昇給ピッチを落としますから、会社の収支としてはバランスがとれています。
 
安田:なるほど。今のお話だと、ただ給料を高く設定しているのではない。お給料を上げる元のメカニズムをしっかり作り、それを周知させることで従業員とのエンゲージメントを上げています。
 
立山:仕事ができる人に手当がつき、そして新しい施設をつくり、その人を園長に抜擢します。事業の成長が従業員のキャリアアップにつながり、従業員がキャリアアップしたからこそ新たな園を作ることができる、良い循環になって事業が拡大すると考えています。
 
安田:キャリアを望む人材にはそれだけの機会を与えて、成果を評価しているからこそ事業が拡大していることがわかります。
 
顧問をしている企業さんで時々気になるのが正規・非正規の区分が強すぎることです。正規・非正規でも関係なく、みんなでやっていくというカルチャーを醸成しないと良い職場になりません。特に保育や介護の世界は現場の人間関係が直接的にサービスに影響するので、今いる人たち全員の関係性や処遇を向上させることは重要です。採用するためのブランディングよりも、今働いている人の処遇を良くすることに優先順位を置くべきです。結果として、それが良い印象となり、人が集まることにもつながります。


賃金アップだけではない「従業員のための制度」を整える

森本:実に中小企業の約7割が、インフレで賃上げしたくてもできないというアンケート結果を見たのですが、現実的に賃金アップができない中小企業はどのように対応したらよいのでしょうか。

安田:賃上げしたくてもできないと言うけれど、本当に経営者や上司は生産性を上げる努力をしているのかを見直したほうがいいです。たとえば部下のパフォーマンスが今ひとつなら、話し合いをしながら一緒に何ができるか考える、もしかしたら個人的な理由があるかもしれないし、何か支援することで力をより発揮できる可能性もあります。そうした改善を行っていないのに、ただ賃金アップは無理というのでは今後は厳しいですよ。経営者も成果や業績を上げることにもっと執念を燃やしてほしいところです。
 
森本:それで思い出しましたが、立山さんのところでは子どもたちに紙パックの牛乳を1つずつ配るのではなく、大きな牛乳を購入し配ることでコストを下げ合理化しているんですよね。

立山:保育園は一般企業のように何かをたくさん売って売上を上げるわけにはいかないですから、コストを考えることは重要です。今の牛乳の件も、コスト削減でもあるし、同時に子どもたちに先生が牛乳を注ぐことでコミュニケーションが増えるメリットもある。「ちょっとでいい」「飲みたくない」という子がいれば、体調が悪いのかな?何かあったのかな?と変化を見つけるきっかけのひとつになります。
 
牛乳自体のコスト削減はそれほど大きいわけではないとしても、結局、塵も積もれば山となるのであって、そして山となったらその分を従業員に還元していく、つまり給料アップにつなげていけばいいのです。
 
たとえば「はぐくみ基金」もそうですが、法定福利費が低下すればそれを社員に還元できます。当園では、報奨金制度のほか、乳がん・子宮がん検診を法人負担で行い、さらに「はぐくみ基金」で積立をして将来に備えることができる、こうした「従業員のための制度」を整えていくことも、賃金アップという形でないにせよ、企業努力で従業員の処遇を改善していくことにつながるのではないでしょうか。

安田:保育の質を担保しつつ、従業員の皆さんにおける処遇を良くしていく秘訣はあるのですか?

立山:すべてを「良い保育をする」ことから逆算して考えるようにしていますね。要するに施設も、仕組みも、働き方も、それから給料も含めて「良い保育を実現するために何が最善か」を考えて必要なものを組み立てていきます。

安田:まさにパーパス経営ですね。なぜやるのか?「良い保育をするため」と明確です。

森本:安田さんが法人をコンサルティングするときは、なぜやるのか、そこからスタートしているのでしょうか?

安田:そうですね、中小企業の経営者からよくあるのが人事制度を作りたいというご相談です。しかし、その前に課題を紐解いていくと最終的に管理職と言われる人のマネジメント力と「我々は何のために存在しているか」に対する思考が弱い場合が非常に多いのです。制度の問題以前なので、ここをクリアにして言語化していくためのアプローチから行うケースがよくありますね。

森本:たとえば立山さんのように成功しているケースもあれば、そうでないところもあり、二極化しています。企業間格差をうめるために経営者ができることについてはどうお考えですか?

安田:ひと言で言うならば多様性ですね。採用も、ジェンダー・年代・考え方など、組織にさまざまな多様性を入れ込むことで、発想の改革が進みます。どうしても福祉の法人は国の法律などがあって、何か新しい取り組みを行おうとすると「この業界では無理だよ」となりがちですが、本当にそうなのだろうか?と考えてみてください。多様な背景があれば、予想もしない方法が見いだせるかもしれない。立山さんは、保育園経営とは本来ならまったく違う「地銀の制度」を学んで真似た部分があるとおっしゃっていた、それと同じように、いろいろな、多様な視点から見つめることができる組織なら、変革や改革、ひいては事業成長の糸口が見つかるのではと思います。

森本:あっという間に予定の時間になってしまいました。最後にひと言ずつ、人材採用に悩んでいる会社さんへのメッセージをお願いします。

安田:概論的・思想的な話はいろいろありますが、最終的には「明日、何ができるか」です。しかし、実務的に何をやればいいのか、どこから始めたらいいのか、わからないことが多いから「できない」わけです。そんな時はぜひ相談していただきたいと思います。具体的なアドバイスで企業をサポートいたします。

立山:最初に自分が事業を継いだとき、本当に経営が苦しかったのです。その時、園経営者である先輩たちがいろいろと教えてくれました。今、こうして複数の保育施設を運営するようになり、恩返しする時期がきたと思っています。今年度から幼稚園の団体に戻り、若手と一緒に勉強会をしています。意欲的で一生懸命な若い人たちが頑張って活動しているので、このパワーをぜひ全国的なネットワークとして広げて、応援していきたいと思っています。

森本:今日は貴重なお時間をありがとうございました。

安田雅彦氏
We Are The People 代表取締役

立山 貴史氏
社会福祉法人 森友会(しんゆうかい)理事長


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