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べてるの家のオンラインマガジン「ホップステップだうん!」 Vol.293




・  Kさんと幻聴さん 江連麻紀

べてるメンバーのKさんとグループホームでお会いしたとき、幻聴さんの攻撃が強くて困っていました。
幻聴さんが「こら!」と怒ると心の中が揺さぶられて大変な思いをされています。

「1200人の幻聴さんがいて各部署に別れて部署ごとのリーダーがいる」
「0が入院レベル。10が幻聴さんがいない状態。今は4.4くらい。」

グループホームの壁に貼っていた研究用紙を見ながら宇宙人幻聴さんなどの細かい部署を教えてくださいました。

たくさんの苦労に直面されてこられて、今も幻聴さんとのつきあい方を模索されているKさんがお話しの最後に「研究っていいよ」とつぶやかれたのが印象的でした。

・文/写真:江連麻紀



・ べてるまつり2024開催についてのご案内

日時:2024年10月4日(金)・5日(土)
場所:北海道浦河町文化ホール
プログラムの内容:浦河べてるの家、40周年記念企画お楽しみに!
<宿泊場所について>
例年、町内のホテルや宿が満室になることが予想されております。町内が満室の場合は、多くの方は隣町の施設を予約されることが多いです。
各ホテルの空室状況については、直接各施設へお問い合わせくださいませ。(ウェブではなくお電話での空室確認をお勧めします)
浦河への交通手段・宿についてはこちらをご参考ください。

https://note.com/bethelnoie/n/nbab27451ae41


・ 日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会のご案内


学会名称:日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会
テーマ:多様性と調和 ~台場シティで調(ととの)う~
会期:2024年12月14日(土)~15日(日)
会場:東京有明医療大学(〒135-0063 東京都江東区有明2丁目9番1号)
参加者数:約1,200名
開催目的:本会は精神科リハビリテーション学に関する研究発表、連絡、提携、及び研究の促進を図り、これらの進歩、普及に貢献することを目的とする。
大会長:肥田 裕久(医療法人社団宙麦会ひだクリニック 理事長/院長)
副大会長:角田 秋(東京有明医療大学看護学部看護学科 教授)
     佐々 毅(医療法人社団宙麦会ひだクリニックお台場 院長)
実行委員長:中田 健士(株式会社МARS 代表取締役)
主催:日本精神障害者リハビリテーション学会

⚫︎参加登録受付中!

精リハ学会は、2010年に浦河でも開催した学会です。
今年の東京大会はべてるからもメンバー・スタッフがたくさん参加する予定です。

みなさん、東京・有明(お台場)でもお会いしましょう!



●新刊「弱さの情報公開」

2023年10月発売の最新書籍です。
2020年に発売しご好評をいただきました「弱さの研究」の続編。
不寛容な社会での孤立と孤独「つながり」を考える。

一部では、カーリング日本代表の吉田知那美選手とべてるの家の人や
向谷地生良氏との「強さと弱さ」についての対談。

二部では人と人の「つながり」を各章で考察、依存症、認知症の孤独について、本当の「つながる」ことの意味を考える。

<目次>
まえがき―「弱さの情報公開」の源流 
一部 弱さの情報公開
一章 弱さの情報公開 
二章 弱さを認める 
三章 行き当たりバッチリ 
二部 つながる
四章 わたしが「ダメ。ゼッタイ。」ではダメだと思う理由 
質疑応答 
五章 「認知症と繋がる」ということ 
六章 あいだは「愛だ」 
七章 地域と人と苦労で繋がって(向谷地生良氏最終講義) 

●大反響増刷中!
『子ども当事者研究 わたしの心の街にはおこるちゃんがいる』

本体価格:990円+税、出版社:コトノネ生活



・「北のバラバラな日々」 (46) 笹渕乃梨

窓の外のクモの巣になにやら大きなかたまりが揺れています。よく見るとちょっと早めに羽化したエゾハルゼミでした。この時期の北海道の山は蝉の声が目でも見えそうなくらい聞こえてきます。いい季節。

娘、先日めでたく10歳のお誕生日を迎えました。ぱちぱちぱちー。わたしとしては、今までのお誕生日のなかで一番しみじみうれしい気持ちで過ごせました。お母さんになって10年経ってやっと慣れてきたのかもしれません。

ところで少し前、娘が唐突にこんなことを言い出しました。

「ねぇ、わたしね、学校で偶然ポケットにお菓子が入ってることあるの。でね、休み時間に友達に言ったら『トイレで食べてこいよー!』って言われたの。それで何粒かあったら食べたい人募集してみんなでトイレでたべたの」

わたし自身はそんな経験のない子ども時代だったので少し驚いたものの、それ以上に興味が湧いてきて「まじい!それさ、先生にチクる人とかいないの?」と訊ねると、「いないよ、そういう時ってみんなはけっこう味方なの」とのこと。わたしはますます驚いてさらにいろいろ質問を飛ばしたのでした。

娘によると、週末など出かけた先でもらったり買ったりした駄菓子が、アウターのポケットとか、たまに持っていく図工の道具入れにしている袋に偶然入っていることが年間5回くらいあり、そのお菓子の数がいくつかあれば食べたい人を募ってシェア。一つしかないときは一人でコソコソと食べることにしているとのこと。たまに廊下ですれ違う瞬間に「はいコレ!」と友達に勢いよく手渡されることもあるそう。アメをもらってしまったときは授業中まで口の中に滞在してしまって、その授業では挙手をせず、先生に当てられないように細心の注意を払ったそう。

娘としてはまったく悪意なくやっているようだけど、「とにかく先生にはバレないように」という心がけだけはしているということでした。

なにやってんだよ。

だけど、小学生が何人か集まってトイレのそれぞれの個室で1粒のラムネを口に放り込んでいる姿を想像したわたしは、面白くて可笑しくてぜんぜん叱れませんでした。だめな親です。なにやってんだよ(2回目)。ただただ感心するばかりで「ほぉ、そうやって堅苦しい集団生活を楽しんでいるのだね」という気持ちで笑っちゃったのでした。

このことを研究仲間に話すと、「だめなことはだめとハッキリ伝えることも大切かもしれん」「うちの子どもはそういうとき帰り道で食べてるらしい」「やはりトイレで食べてるらしい」など、子どもにインタビューまでしてくれてコメントを寄せてくれました。

これについて、正しい親ならすぐに「なにやってるの。それはいけないよ。家に帰ってからたべなさい」とたしなめる場面なんだと思います。だけど、3時間目くらいにはお腹も空くだろうし、たまたま手に入った甘味というのは嬉しいものだろうし、カタイ場面での違反というのはなんとも言えない禁断さもありそう。わたしだってポケットにラムネが入ってたら食べちゃうかもしれぬ…と思うと、頭ごなしに叱れなかったのでした。決してお行儀はよくないけれど。

以降、わたしは娘のアウターのポケットを毎朝こっそりチェックしています。家に残されたお菓子の様子をみても故意に持って行ってはいないようで、やはり偶然なんだろうと思います。故意ならあんなに悪意ない顔でいられないと思うし。ひとかけらの罪悪感もない顔だったんですもの。

(だまされてるんでしょうか)

とにかく、子どもってやつは私たちが想像する以上にたくましくしたたかに楽しみを見つけているのかもしれません。いつまで悪意ゼロの違反報告をしてもらえるかわからないけど、おもしろ報告を期待しながら明日もアウターのポケットはチェックしようと思う母なのでした。とほほ。


笹渕乃梨(ささき・のり) 自己病名は『境界線ぐちゃぐちゃ症候群サトラレ型変化球言葉タイプ(現在は枯れている)』
北海道で小学生の娘と二人暮らしをしている。趣味はゆるめの野遊び、スキー、工作、手芸など。精神科のお医者につけてもらった病名はうつ病とADHD。現在は無脳薬で約3年。
「子ども当事者研究」、「子育て当事者研究」、「なさ親」などで活動中。22年4月より「nasaLAB(なさラボ)」のWebラジオ「つまり、きりがないラジオ」パーソナリティ。

「nasaLAB(なさラボ)」の登録はこちら↓

https://note.com/bethelnoie/membership


・続「技法以前」 231 向谷地生良

前回、突然、最後に「量子論」を振りかざしてしまいましたので、少し戸惑った人もいるかと思う。しかし、ケア論の領域で、一定の評価を得ている私たちの生活を「×を○にする」問題解決志向や、「×(悪いところ)」を見るのではなく、「〇」に着目する希望志向だけで、語ることは難しく、前者を否定するわけではないが、私たちは、「×と〇」が対等の価値と可能性を持ち、時には反転する事実を大切にしてきた。それが「べてるの家の”非”援助論」や「技法以前」に取り上げられた「弱さ」を基軸とした「反転・”非”常識」のケア論であり、そこから生まれたのが「当事者研究」なのである。

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