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ばれ☆おど!⓪

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 プロローグ


 ヒュー、ヒューー、ピューピュー、ピュー
 
 やけに風が強い。
 ビル風がハウって、甲高い耳障りな音を奏でている。
 その高層ビルの一室から、向かいのビルの一点に照準を定め、スコープを覗く男がいた。

 ここは埼玉県雀ヶ谷(すずめがや)市。
 四月の天候は変わりやすい。今日は二日ぶりに晴れている。
 この天候を幸いとするのが彼で、もう一方の者にとっては不幸であった。

 彼はニヤリと微笑むと、ゆっくりとトリガーを引く。
 ほぼ同時に、サイレンサーが装備された銃特有の、あのなんとも言えない炸裂音が、室内の壁に鈍く振動を伝えた。

 実は、その音、彼の発明品であるライフル型カメラのシャッター音である。
 ――M16A1(モデルガン)をベースに作られている。確かに、これなら〝撮影〟とは思われないだろう。彼はこれを素晴らしい発明だと、信じて疑わない。

 この発明に有頂天になっている彼は、鈍く黒光りする銃身をそっとなでる。まるであの有名な、マシンとまで呼ばれた男のように。たしか通称ゴル……いや、名などどうでもいい。

 だが、彼が〝アンサー〟と名付け愛おしむ、この超高性能盗撮銃には、致命的な欠点がある。
 これを持って、白昼堂々、街中を歩きまわる訳にはいかない。もしそうすれば警察に通報が入り、ご厄介になるはずだからだ。
 
 それなら何故なのか? 果たして彼の真意は何なのか?


 彼はつぶやいた。
「フフッ、決定的な瞬間を捉えた。これで明日からは……」


 さて、そのターゲットになった者はというと――。

 まだ学生くらいの少女だった。彼女は部屋に戻ると、制服を脱ぎ始める。
 ファスナーを下すと、短いスカートはストンと床に落ちた。ストライプ柄の入った、赤いリボンを取り、ブラウスのボタンを上から順番に外していく。やがて、残るのは下着だけになった。
 スラリとした下着姿は遠目でもよくわかる。彼女は、かなりの美少女と思われ……。

 ――とすると前述の撮影は明らかな犯罪行為である。
 しかし、
 しばらく様子をうかがってみると、何かがおかしい。とにかく違和感を感じる。それが何なのかすぐには分からない。

 少女はスタンドミラーで、自分の姿を幾度となく見て、ご満悦といった様子なのだ。〝まあ、その程度なら〟とも思えるが、如何にも長すぎる。

 着替え始めてからおよそ2時間経過しても、未だに着替え終わる気配はない。

 それどころか、さらに新しい服や下着に着替え出した。それも、スマホで自撮りしている。
 ファッションショーか何かの練習なのだろうか? 様々なポーズをとっては、撮影に精を出している。いや、ファッションモデルにしてはポーズの取り方がおかしい。少し、いや、かなりエロい。あるいは……まさか、これは何か別の、あの女優なのか? いや、まさか……。

 おっと、ようやく納得したのか、自撮りは終わったようだ。

 そして最後に着替える時のことだ。
 下着をすべて脱ぎ捨てた時、これまでの認識が、すべて誤りであったことが判明する。

 そこには――。
 

 

(つづく)


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